#12 前代未聞

 前代未聞だぞッ!?


 こんな事があってもいいのか。あり得ない。


 あり得んだろうが。


 さっさと全部を明らかにして終わりにしろよ。それが筋ってもんじゃないのかッ!


 ふおお。


 クソが。


 でも例題を生かさないと、あとが辛そうだ。


 一応、考えてみよう。推理なんて素人の手習いだがな。


 つまり、


 音が9コマで画像が6枚だという事だろう?


 僕は知人にもらったフー・ダニットとの待ち合わせ時間が書かれた紙を取り出す。


 フーが、すっとボールペンを差し出す。気が効いている。ボールペンを受け取り、思考が混乱しないように画像の1枚を四角一つで描き表し、その下に、音の1コマを黒の四角で描き表す。□が6つ並んだ下には、■が9つ並んでいる。


 映像再生をなぞるように□一つにチェックをつけ、同時に■一つをチェックする。


 だから、


 ううん。


 そうか。


 それらのデータが、一本の動画となると無理に音のデータが画像に合わせられる。


 つまり、音が9コマあっても画像が6枚しかない動画ができあがる。そして1コマの音が再生されて1枚の静止画が表示される。それを繰り返して音は画像の6枚目まで続くが、音の7コマ目から先は画像がなくなる。そうか。そうだ。なるほど。


 画像が、音よりも早く終るんだ。


 という事は、音が遅れてくるという事。そういう事か。


 あの時、ハウはボタンを押し、二つの動画ファイルを一つにまとめただけ。音のデータが精密で多く、逆に映像が荒いファイルをくっつけただけなんだ。多分、先の先まで見ていれば、あとから足した分の画像が見えたかもしれないというわけか。


 ほぅぅ。


 なんとかでも、謎が解けた僕は、大きなため息を吐く。


 この例題を解くだけでどれだけの疲労感を覚えた事か。


 でも、不可思議な達成感が在る。


 口笛を吹いていたハウがピュッとしめてから、馬鹿でかい音を立てて柏手を叩く。


 まあ、こんな音ズレのトリック、自作すればアプリでもできるしね。


 あ、ちなみに誰かが作ったアプリはありませぇん。だって必要ないしね。アハハ。


 てかさ、


 敢えてでも作る必要ないし、動画同士を繋げれば誰でも簡単に再現できるからさ。


 あくまで、自作オンリーだわさ。


 パチン。


 また、スマホからのサンプリングデータを聞かされる。


「OKッ。今回は簡単な推理をさせる為に四流ペテンなトリックだったけど、これでヒント請求の意味と意義が分かったかな。こっから先は5万円もらうからね」


 とハウ。


 フーが、うつむきニヤリと嗤う。


「ほほぅ。そういう事です。これから先、山口君に森本奈緒子殺人事件の捜査指揮権を握ってもらいます。そうして道に迷った時、わたくしどもがヒントを出します」


 それが推理ゲームの真髄ですよ。


 フムッ!


 そう言われた気がして、僕は不安が入り乱れはしたが不思議な高揚感に包まれた。


 自分でも不思議であったのだが、


 よしッ、やってやるぞと不覚にも思ってしまったのだ。


 乗せられてしまったといってしまっては過言かもしれないが、そんな気分だった。


 そして、


 12月19日は何とか終わった。


 性悪探偵との初顔合わせが、ようやく終わったわけだ。


 ただし、


 それは激動の5日間の始まりでもあったわけだが……。


 今の僕にはしるよしもなかった。

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