死に場所不動産

藍河夏乃葉

プロローグ

「いつまでかかるんだ...」

僕はもうかれこれ50分は山中を歩いていた。

独りごちりたくなるのも当然だろう。

何度も地図を確認しているが間違ってはいないよう。

実在するかも分からぬ場所故、Go○glemapもアテにならない。

(やっぱりあの電話はウソ、デタラメ、イタズラ..?)

そう不安に思いながらも、足を止めればそのままたどり着けないような気もしてひたすら歩き続けた。


そこから更に200mほど歩き。

「あっ...あった...」

急に視界が開けたかと思うとあった。

木造のお屋敷。店にしては独特な形かもしれないが、これが僕が目指していた建物に違いないだろう。


屋敷に向かって小走りで行き、やはり木でできたシンプルなドアを叩こうと拳をあげる。

と、

ガコッ

「うあっ!」

屋敷の中からドアが開いて人が出てきた。中途半端に拳をあげたマヌケなポーズみられた上にマヌケな声をきかれてしまった。

しかし出てきた30代くらいの女性は気にしたふうもなくあくまでにこやかに

「いらっしゃいませ」

と話しかけてきた。

「あ...の...」

「17:00でご予約の川澄様ですね、」

と続け、

「ようこそ、カギロイへ。」

更に笑みを深めて、

「どうぞ中へお入りください。一緒に理想の死に場所を探しましょう。」


そう。僕は死に場所を決めに来た。

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