第103話 達人

 アストレーア軍と歩調を合わせる為にアルカディア軍は交代で休息を取っていた。少しずつ船に乗って自分達の村に帰って行く。


 ヒナがアルカディア村で休息を取って戻ってきた。


「ナック、やっぱりお母様はあなたに剣技を教えるのは無理だそうよ」


「そうか……残念だな」


 教えてくれなくても手合わせ願いたいな。


「代わりにいい人がいるから紹介してくれるそうよ。もうアオイを通じて手配してくれたわ」


「そんな知り合いがいるのかい?」


「いるらしいわ。必ず来るから村に戻って来なさいって」


「そんなにすぐに来てくれるのか。凄いな、聞いてみるものだね」


「私は恐ろしいわ……途中で投げ出すなんて絶対に許されないわよ? 覚悟して行く事ね」


 確かに村長の紹介っていうのは怖いな……


 でもサボってきた罰だと思って頑張ろう


 ファリスに事情を伝えて数日後にアルカディア村に戻る。


 小さな村からダンジョンに入って船に乗る。座っているだけで水流と風力で船は進んでいく。そんなに大きな船ではないので同乗しているのは10名だ。いろんな村の人達が乗っているがみんな顔を知っている。最初はあれこれ話をしていたけどみんな寝てしまった。

 第2ダンジョン砦を通過して第1ダンジョン砦に到着した。ここで1泊してからそれぞれの村行きの小船に乗り換える。


 アルカディア村の館まで船で帰れてしまう。とても楽だ。ダンジョンの中は快適だし敵に襲われる心配も無い。


 館に入ると村長の家に行くように言われた。依頼した人がもう着いているのか……早いな。


 村長の家の客間に行くと村長と見覚えのある人が待っていた。


「ミルズさん、あなたが剣を?」


「お久しぶりです、ナック様。すっかり立派な王になられて素晴らしい活躍だと聞いています」


「いえ……自分は何もしていませんよ。あまり変わってもいませんし。あなたは魔道士ではないんですか?」


 最初に会った時と同じように今日もローブを着ている。どう見ても魔法使いにか見えない。


「ああ……このローブですか」


 そう言ってミルズさんはローブを脱いだ……


 ローブの下には見事に鍛え上げられた体が隠されていた。


 凄い筋肉だな! 筋肉だらけだ!


 丸太のような太い腕をしている


「こんな体ですからあまり合う服がないので普段はローブを着ているのです。私は剣士なんですよ」


「ナック、この者は剣聖という剣の達人のジョブです。最強の武人の1人と言っていいでしょう。昔の貸しを帳消しにする変わりにあなたを徹底的に鍛え上げてもらう事にしました」


「て、徹底的にですか……」


「ナック様、私は老いたからと言われ、戦いに参加させてもらえずに暇でした。しばらくここで剣技を伝える仕事をさせてもらう事になりましたのでよろしくお願いします」


 ミルズさんに頼まれて自分の剣『シャイニングスター』を見せてあげた。


「素晴らしい剣だ……しかもかなり使い込んでいる。新しい剣と聞いていましたが」


「はい。自分は最前線で戦っていますからね」


「王が最前線で戦う? 剣技に自信が無いのにですか?」


「そうです。これから頑張って強くなろうと思いますのでよろしくお願いします」


 帰ってきたばかりだけど疲れも全く無いので早速、稽古をしてもらう事にした。


 館の前の中央広場で実力を見てもらう為に手合わせをする事になった。


 お互いに練習用の剣だけを装備して盾は無しだ。


 剣を構えてミルズさんと向き合う


 凄く自然な構えだな……


 どこを攻撃すればいいのか分からない……


 どうすればいい……


 一瞬、迷った


 スッと剣が突き出されて自分の顔の目の前で止められた


「え?!」


 全く動けなかった……


「かなり鍛えていますね。今度は打ち込んで来て下さい」


「あ、はい」


 隙なんて全く無いので狙っても仕方ない。言われた通りに打ち込んでみる。


 全ての攻撃を見事に受け流してしまう……


「なるほど。分かりました」


 全く相手になっていない……


 これが剣聖か


「剣技が上達しないのは相手がいないからでしょう。これから私が相手になるのでかなり伸びると思います。私は常時発動しているスキルがあります。これが無ければいい勝負が出来るのですが消せないのです。決してあなたが弱い訳ではありませんよ」


「そうなんですか。どこか改善した方がいい事はありましたか?」


「そうですね……まずは気持ちですね。自分は剣が苦手だと思い込んでいるのでそれだけでも動きが鈍ります」


 確かに迷って動きが鈍くなっていたかもしれない。必死になればそんな事ないんだが。今はあまりに隙が無くて迷ってしまった。


「自信が無いのが剣から伝わってきます。恐らく鍛錬をしていなかったからでしょう。しっかり積み重ねていれば自信を持って打ちこめるはずですからね」


 少し打ち合っただけでほとんど見抜かれてしまった。


「どのような事でも極めるには少しずつの積み重ねが必要です。最初から極めている者などいません。私も木の棒でスライムと戦う事から始めました。今は剣聖と呼ばれています。心、技、体、全てが鍛錬の積み重ねなのです」


 遅かったけど自分は積み重ねが出来ていなかった事に気付いた。


 これから始めればいい


 諦めて何もしないより全然いい


 この機会を活かすんだ

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