第90話 犠牲
自分の器に対して背負っている事が大きすぎる……
何かを進める度に心のバランスが崩れてしまう。
戦いたくない気持ちが強い。しかし、戦うしかない。
みんなが協力してくれる。戦う準備が整っていく……
ウエストゲート村の館で村長から簡単な報告を受ける。
詳細は改めてアルカディア村で報告してもらう。
「結論から言いましょう。東の国の王とは協力出来ません。長城の門は我々が閉めます」
「交渉が決裂したと言う事ですか?」
「交渉はまとまりました。北の領地は魔物の領地になりました。東の国の王を討った者が支配する事となります」
「東の国の王を討つ……魔物を倒すのは抵抗は無いですが、人とは争いたく無い」
「はっきりとは言えませんが、王は人では無い可能性があります。討つのはアストレーアが請負いました。アルカディア国は魔物の駆除で良いでしょう」
人では無い? 人では無い者が王で人間を従えている?
「東の国の王は着々と拠点の周囲にダンジョンを築いています。人を誘い込む様なダンジョンも出来始め、隣国の者が武器や防具を求めて競う様に探索をしています」
「魔王のやり方? 東の国の王が魔王なのですか?」
「可能性はあります。操られているのかもしれません」
どちらにせよ止めないといけない。
「北上の準備はほぼ整っています。ジェロが居なかったので防具はまだですが……全員のレベルを14に出来そうです」
「商人が店の者達を率いて来ました。何とかしてくれるでしょう。レベルは問題ではありません。それは分かっているでしょう」
さっき大勢居たのはルドネの店の者達だったのか!
防具はすぐに整うな。レベルは目安でしか無いのは分かっている。大事なのはしっかりと鍛える事だ。
大丈夫だ
アルカディア軍はレベルとは関係無く強い!
「国の守りは私と年配者で引き受けます。あなたは長城を取るのです。領地は誰の物でも良いですが長城は我々が抑えるのです」
「分かりました。ただ、戦略はファリスとザッジに任せてあります。自分は軍事面は得意ではありません。1人の兵士として戦いに参加します。軍を率いるのはザッジです。軍師はファリスです」
「目的達成が達成出来るのであれば問題ありません。ただ、皆の前で弱さを見せてはなりません」
「……すみません。どうも不安定になっている様です。思う様に心が整えられません……」
「ここが正念場です。まず自分を鍛えなさい。今のままではあなたが最初に死にます」
俺が最初か……それは駄目だ……
「最後の1人になっても責任を果たします。決して倒れる事は許されない」
「そうです。私も同じ思いで戦いました。皆が目の前で倒れてもあなたは生きなければなりません。死んだら全ての責任を放棄したのと同じなのです」
村長は未だに責任を背負い続けているという事か……
多くの者達が命を落とした。その責任を……
過酷だな……
もし1人でも命を落としたら
俺は耐えれるだろうか?
「私が生きてきた長い歳月の中で最大の危機が訪れています。逆に平和を得る最大の機会でもあります」
「全力で準備しています。皆が信じてついて来てくれます。だから……苦しいんです。戦うには理由が必要です。真実を知らせないまま戦うのは皆を騙している様な気がするのです」
「昔の村人だけなら打ち明ける事が出来ました。ですが今は村にも多くの他者がいます。いつか話せる日が来るかもしれませんが、かなり先の事でしょう」
時が経てば血が交わっていく。以前とは比べものにならない程、アルカディア国の人口は増えた。
とてもじゃないが見た事も無い『聖竜』の事など言えない
アルカディア民は聖竜の住む山の番人と言っても通じる訳が無い。
「聖竜が姿を見せて皆に世界の均衡を説けば従うかと……」
「聖竜は眠っているはずです。起きた時に世界の均衡が大きく崩れていたら最後です。大きく崩れた均衡が聖竜を目覚めさせるのかもしれません。私にも分からない事はあります」
村長は聖竜に会った事が無いのか……
「聖竜は本当にいるのですか?」
「約1000年前に均衡を保つ為に動いたと聞いています。母から直接聞いたので間違い無いでしょう」
1000年?! 今の危機的な状況は1000年に1度のレベルなのか……
豆粒みたいな小さな国が1000年に1度の危機に立ち向かう。無謀のようにも思えるが……レアジョブが数名いるとはいえほとんどが農民だ。
「ナック、あなたは失う事を恐れ、皆を信じるのを忘れています。皆があなたを信じている様にあなたも皆を信じるのです。自分をしっかり鍛え、皆を信じて進めば道は開けます。あなたにこの魔法を授けます。今、覚えなさい」
村長が金色羊皮紙のスクロールを渡してきた。
サクリファイス
「ロード専用の魔法です。超短文詠唱で1度だけ極大魔法を放てます。使う時は覚悟が必要です」
1度だけ……自己犠牲魔法か……
サクリファイスを覚えた
この魔法を使う時は最後……
全てを懸けて戦う
ただ……平和を得た時は王を辞めよう
自分は王の器では無い
生きていればの話だが……
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