第44話 新生活

 

 何でも1人でやっていた事が2人になった


 夢のような生活が突然訪れた


 朝起きたら一緒に釣りに行く。ビッケの家の物置から釣り竿を2本持ってビッケのオススメポイントで沢山の魚を釣る。なぜかルナの方が大きい魚を釣る事が多い。


 少し気になる……


 釣りが終わったらビッケと3人で館に行く。持って来た魚などの海産物を食材置き場に置く。魚や肉を置く場所にはカナデが魔法で作った氷が用意されている。

 食材を置いたら館の食堂で朝ご飯をファリスや騎士達と一緒に食べる。夜勤は無くなったけど賑やかなのは変わらない。騎士団が朝の巡回に行くのでファリス、ビッケと一緒に食器等の片付けをする。

 その後は病院、アルカディア騎士団の訓練、各作業の手伝いだ。

 

 今、進行している作業は西の砦からさらに西への道の延伸、フロンティア村の移民用住居建築とフロンティア村前の牧場作りだ。

 騎士団の牝馬も村の牝馬も多くが受胎していて出産ラッシュになるので、牧場を作ってそこで管理する事になった為、急ピッチで建築が進んでいる。

 

 病院は少しだけ仕事が増えた。妊婦さんの健康相談が増えたのと隣国からわざわざ治療を受けに来る人がいるからだ。

 アルカディア国民は無料で診断するけど、さすがに隣国の者は無料とはいかない。必ず住んでいる村の特産品を持参しているのでそれと引き換えにしている。住んでいる地域の情報も話をしてくれる。

 治療を受けに来る人はみんな商人ルドネからアルカディア国の話を聞いてここまで来た。特産品程度で治療が受けれるならと少し離れた地域からも来る人がいる。こちらが欲しいのは情報だ。どこでどんな暮らしをしているのか。領主はどんな人なのか。どんな情報でも貴重だ。

 治療といっても痛みを和らげるくらいしか出来ない。申し訳ないので来た人には館の食堂での食事と風呂を付け、客室で1泊してもらい、お土産で軟膏を渡す事にした。


 休みの日だけは1人で畑を耕している。もう趣味になってしまっていた。さすがにこれだけはルナも呆れて一緒には来ない。

 その日の気分で馬か牛を選んでどんどん耕す。デミールさんが耕す場所を指定してくれるのでそれに従って耕すだけだ。作物を植えるのは任せてある。好きな物を植えてくれればいい。ただ耕すのが好きだ。



 ゴブリンとの戦いが終わり戦闘する事が激減した。このままではせっかくみんな鍛えたのに力が落ちてしまう。いろいろ検討した結果、ダンジョンを部分的に開放する事にした。

 入浴施設を工房通りに建築し、そこへダンジョンの入り口を増設する。『擬似ゴブリンの巣』の中部屋と『擬似ゴブリンの砦』の大部屋を作る事にした。自由に設定できる小部屋を1部屋加えて合計3部屋のみのダンジョンとして公開する事にする。これならダンジョンに過度な依存をする事は無いだろう。

 本当は自分の家のダンジョンと繋がっているのだけど、通路を上手く塞いで隠せば全く分からない。

 入り口が増設出来るのはもう分かっていた。既に入り口はもう1個あるからだ。


 ビッケの家に


 危険物置場の扉の奥に隠し扉があってビッケの家と繋がっているのだ。細い通路がビッケの家の地下まで伸びていて、ビッケ専用の部屋が2部屋用意してある。ビッケ個人用の敵が出ない部屋とフグスライム用の部屋だ。



 製糸工房から糸が出来上がってきた。それを布にする作業も進み出した。カナデが中心になりフロンティア村からの人も加わって順調に進んでいる。デミールさん達とも連携して染料作りもしているそうだ。

 

 木工工房ではザッジ達が家具作りを行っていた。新しく家族が増える者達の為にいろんな家具を作っていた。

 ザッジ自身も家族が増える予定だ。ヒナが妊娠したのだ。ここの工房が1番活気がある。新婚の者や出産予定のある者が集まっているからだ。


 独身者はあまり近付かない


 アオイの店は完全に分業されていた。武器はアオイ、防具はジェロに特化して作業をしている。ジェロには特別な才能があるんじゃないかとアオイは思っているそうだ。


 凄い執念を感じるらしい


 店の運営はアオイがやっているそうだ。ジェロがやっているのは防具作りだけみたいだ。


 

 アルカディア村の北門に1組の家族が馬に乗ってやって来た。移民許可書と商人ルドネの紹介状を携えていた。田舎でパン屋をやりたかったそうだ。フロンティア村に入ってもらう事にした。馬は借り物で今度ルドネが来た時に引き取って行くそうだ。

 パン食が始まれば食物事情は大きく変わる。野菜や豆から小麦に食生活の中心が変化するかもしれない。

 この家族はパン屋をやってもお金が儲かる訳ではない事を承知の上で来たそうだ。パンを作りながら幸せに暮らせればそれでいいらしい。

 世の中にはいろんな人がいるな。

 同じ様に染物職人の家族もやって来た。商人ルドネがアルカディア国に必要な人材をしっかり選んで勧誘してくれているのが分かる。


 国の基盤が整ってきた。そこで改めて今後について話し合う場を設ける事にした。フロンティア村からセレスにも参加してもらった。

 館の会議室で参加者はファリス、ザッジ、カナデ、アオイ、デミール、ルナ、ビッケ、セレス、ステラだ。

 最初に人が増えてきたフロンティア村の管理者として村長を選んだ事の報告だ。


「セレス、君に村長をやってもらうよ」


 セレスはあまり乗り気ではなかったが何とか説得してやってもらえる事になった。フロンティア村に風呂を作る事を条件に引き受けてくれた。フロンティア村の人はとにかくお風呂に入りたいそうだ。


 次に戦闘の訓練についてだ。ダンジョンを作る事に成功した事を発表した。


「アルカディア国の若者は最低でもレベル5になってもらう事にする。ドロップ品はダンジョン維持と照明具の為に必要なので回収させてもらう」


 レベル5であればゴブリン相手でも楽に戦う事が出来る。時間は掛かるかもしれないが困難な目標ではない。


「ヒナが出産の為、子供の教育係が減ってしまうのでセレスに教師として加わってもらう事にした。今後、数名は追加する予定だ」


 元貴族なので高度な教育を受けているし、真面目な性格なので最適だろう。子供が増えるので教育者も増やしたい。


 ステラが挙手をして質問をした。


「私達もダンジョンを使っていいのでしょうか?」


 これにはファリスが答えてくれる事になっている。


「もちろんいいです。ダンジョンを使う人は館の受付で申し込みをして下さい。そこで入り口の鍵を渡します。敵の種類、レベル、数は事前に申請してもらえればナック様が変えてくれます。普段はこちらで考えた推奨環境に設定されています。現在、最強の敵はブラックベアーのレベル9です。詳しくはまた後日聞いてください」


 強くなりたい者にはレベル9の敵は嬉しいだろう。フグスライムがずっとダンジョンで戦ってくれているおかげだ。本当の最強はフグスライムのレベル9だと思うが危険すぎて戦う人はいない。

 受付のファリスを通す事で危険が無いかの判断もしてもらう。


「新しく入浴施設が完成しました。ここにダンジョンの入り口を設けてあります。今後、入浴施設の掃除は交代制になります。男性用と女性用浴室がありますのでいつ入っても良い事にします。受付も必要ありません。館の風呂は今まで通りのルールです」


 セレスが挙手をした。


「フロンティア村のお風呂も男性と女性を作っていいのかしら?」


「構いません。でも管理が大変なので相談して決めた方がいいです。設計はヒナさんが自宅でやってくれると思います」


 フロンティア村の人に管理してもらう事になるからな。村民でしっかり話をして決めた方がいい。


 ザッジが挙手をした。


「そろそろ西に変化がないか見に行こうかと思う。有志を集って欲しいのだが」


「分かりました。募集をします。道がかなり出来ていますので多少は楽に行けると思います。今、こちらで得た情報ですと北は重税で苦しんでいて領地が荒れて来ているそうです。西はやはり反乱の準備をしていると噂があるみたいですし、こちらも領地の状態が悪いそうです」



 前回の偵察は途中で帰ったし、国境の川を見に行こうかな

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