第31話 恐怖の一滴
のんびりと館の作業スペースでポーションを作っている。
ただ、このポーションは最近余ってきている。
みんな強くなってきたので怪我をしなくなったのと、ナイト6人がレベル5に達した為、回復魔法が使えるようになり不要になりつつある。
「ナック様、患者さんです」
受付のファリスから声がかかったので診察室に行く。
患者はこの間、移民して来たクレアの母親だった。
「どうかなさいましたが?」
「食堂で野菜の入った木箱を持った時に腰を痛めまして……」
養蚕が始まれば協力してもらう事になっているけど、まだ建物もない。何もしないと申し訳無いと言って食堂で働いていた。
「なるほど。では薬を塗るのでベットに横になってください」
少し衣服ずらしてもらって腰にさっき作ったばかりのポーションを垂らして手で延ばす。念のため軟膏も塗っておく。
「これで大丈夫だと思いますけど、重い物を持たないようにしてくださいね。ここのお風呂は腰痛に効くらしいので試して下さいね」
「あ、はい。え? 治ってます……お金はかからないんですよね?」
「ええ。ここにはお金が存在しませんし、あっても要らないです」
「なんだか……夢のような国ですね。あの、隣り村の親戚にこちらに来るように勧めてもいいですか?」
「いいですけど、家を建てますので事前に言ってくれると助かります」
うーん。移民の受け入れ用に家を建てて置いた方がいいのかな。
会議室ではヒナ、カナデ、ファリス、デミールさんが麦畑と養蚕施設について話し合っていた。移民の受け入れ施設の追加について聞いてみたところ、木材が余るからどうするか考えていたそうで、丁度いいから建築する事になった。
アオイの店が稼働した事により、建築関連もスムーズに進む様になった。木材加工の道具と建築金物をどんどん作ってくれるので強度的にも良い物が早くできる様になっていた。
ザッジはカナデ用のはた織り機を作っていた。ファリスが用意した本を元にヒナが設計してザッジが木で作っていた。部分的に鉄も使っている。かなり良い物が出来そうだ。
館の中はとても良い雰囲気だ。幅広い年齢が集い、会話して村の為に前向きに働いていた。古い知識や技術と新しい発想と若い力がここで融合して人の少なさなんて全く感じさせなかった。
自分も何か新しい事を始めたいな
でも、何も思いつかないのでファリスに断ってから、外壁の建築現場に手伝いに行く事にした。
「おーい、ジェロ。手伝いに来たぞ」
矢倉の建築をしているジェロに手を振った。
「おー 丁度いい所に来た。そこの木材を持って来てくれ」
地面に置かれていた木材を持って矢倉に登った。この矢倉はかなり高い位置にある。北西の角にある物見矢倉だ。木材を渡し、作業を手伝った。
「なあ、ナック。ミンシアちゃん達は帰ってしまうのか?」
ミンシアはもうレベル5だ。クレアもレベル5になり全員レベル5なので、王の側近、王都騎士団にも入れるレベルだ。
「どうなんだろうな。王都の状況が全く分からないからな」
「あんなに馴染んでいるのにな。可愛いし、勿体ないぜ」
移民してくれれば助かるけど、自分達の村に家族がいる。今も王都から給金が出ていて家族に直接、仕送りされているそうだ。
「こんな高い所から見ても森しか見えないぜ」
確かに森しか見えない。西の砦さえ見えない。
「ジェロは何かやりたい事はないのか?」
「俺か? 俺は可愛い子が見れればそれでいいぜ!」
そんなもんだな。難しく考え過ぎているかもしれないな。
もう少し楽しもう。馬鹿をやってもいいじゃないか。
「この前のザッジとヒナは強かったな。驚いたぜ」
「ああ。お前も強いじゃないか。もう戦士のレベル6だ」
「俺は弱い方が良かったぜ。おかげでミンシア隊から外されちまった。男ばかりの隊の隊長なんかやらされちまって。早く終わらせようとすると益々強くなる。最悪だ」
ジェロの戦い方はみんな理解出来ない。のらりくらりとやっている様で誰よりも早く任務をこなしてしまう。かなり異質、天才肌とも言えた。いつもふざけた態度だが信頼はとても厚い。
「弱い方がいいなんて言うのはお前くらいだな」
「そうか? 俺には強くなりたい気持ちがわからないぜ」
口ではこんな事を言っているが仕事は完璧だ。面白い男だな。
「村にも可愛い子はいるじゃないか、誰か隊に誘えばいいだろう?」
「馬鹿かお前? 俺達は美少女騎士が好きなんだ。他はいらん」
そ、そんなのもあるのか……カナデでもダメって事か
「美少女騎士がいなくなるとモチベがかなり下がる。村のために何とかした方がいいぞ」
「かなりの難問だな……考えとくよ」
おかしな問題を抱えてしまったが、男なんてそんなものだ。
アオイの店に寄って、美少女騎士の防具が作れないか聞いてみた。武器に比べて防具の方が時間がかかるし、王都の生産ギルドで鎧専門の者が豪華に見える様に仕上げた物なのでかなり大変らしい。
「男って馬鹿ですね。やりがいはあるのでやりますけど」
一応、挑戦してくれる事になった。試しにヒナの鎧を作ってもらう事にした。
村では男性は戦士、女性は狩人に完全に別れている。狩人が騎士の鎧を装備したら邪魔でしかない。
家に帰ってダンジョンに入って行く。
中ではビッケとルナがレベル上げをやっている。
スライムのレベル上げだ
ダンジョンにはレベル7までの魔物しかいないのでザッジとビッケの相手にはならない。もう彼らはレベル7になってしまった。
この状況を打開するにはレベルの高い魔物を鑑定するしかないのだが、そんな魔物どこにもいないのでビッケのスライムを育ててレベル8にしようと頑張っているのだ。
ビッケのスライムが相手をしているのは同じレベルのスライムで連戦すると、すぐに負けそうになるのでルナがライトヒールで回復しているのだ。今はレベル2でようやく体の大きさが手のひらサイズになった。
様子を見に行く。
「ライトヒール!」
スライムが光に包まれてピョンピョン動き出した。ルナの魔法が効いて元気になった様だ。ルナの魔法は詠唱がいる。詠唱後少し間を置いて魔法が発動する。ヒナはスキルで無詠唱、即発動なのでかなり違う。
「調子はどうかな?」
「うーん。僕のレベルは2のままだよー かなり倒したけど」
「よし。鑑定してみよう」
スライム レベル 3 スキル 溶解
テイムモンスタースキル 意思疎通
「お! 上がっているしスキルも増えたよ そっちはどうだい?」
ビッケが自分の虹色羊皮紙を確認する。
「あ! こっちもレベル3になってスキルも増えたよ やっぱり同じなんだね」
「スキルは意思疎通か……このスライムと通じるって事か」
「なんか毒スライムになりたいみたい。弱い毒が欲しいって」
最初の部屋に戻って毒をあげてみる。毒はいっぱいある。ビンに水を入れてその中にフグ毒を一滴垂らしてスライムにあげた。
「いけ! スライム!」
ビッケの命令でスライムがビンを包み込んだ。ちょっと間をおく
「ルナ姉! 回復して! 死にそうだよー」
「え? ええ!? ライトヒール!」
何だかスライムが痺れているようにも見える。
「もっと回復してー ヤバイってー」
「ラ、ライトヒール!」
少し痺れが治ってきたみたいだが
「まだダメだってー 殺す気かーって」
「ライトヒール!!」
回復魔法を3発もらってようやく治ったようだ
スライムの色が青から白と黒っぽい色に変化していく
「もういいってー でも変なのになったって」
「変なの? 鑑定してみよう」
フグスライム レベル 3 スキル 溶解
痺れ毒 強
大膨張
テイムモンスタースキル 意思疎通
確かに変だな!
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