第27話 そして芽を出す
森の中に鍋が置かれていた。クレア特製スープである。美味しそうに湯気が上がっていた。辺りにはいい香りが漂っている。
「あ! また来ました!」
ゴブリンの斥候部隊がまたノコノコやって来た。
クレア隊は補給、後方支援の他に特殊任務を行う事になった。
ゴブリンに食事を与えるのだ。スープの具はクズ野菜と
毒フグだ
今朝、釣ったばかりの極上の毒フグだ
美味しそうに喜んで食べている。そして……
痺れる!
ゴブリン達はバタバタ倒れていく。恐ろしい効き目だ!
でも、レッドキャップは食べない。好みではないみたいだ。
見には来るけど洞窟の奥に帰ってしまう。そうなったら
羊肉のステーキ「毒状態」だ
羊肉「毒状態」は怪しい色をしているけど焼くと全く分からない。
塩もしっかり振ってある。
洞窟の入り口にお皿に乗せて置く。
とても美味しそうだ!
ステーキには激しく反応して食べにくる。美味しそうに食べている。
そして……
痺れて 倒れる!!
「何か戦うのが馬鹿らしくなってきました」
この光景を見た者はみんな同じ事を言う。でも特殊任務はこれだけではない。
洞窟の清掃だ
ゴブリンの駆除が完了したら、洞窟内を片付けて消臭薬をまく。
村で栽培してもらったハーブを使って作った消臭薬でゴブリンのニオイを消してしまう。
そして洞窟の最奥に毒無し羊肉を置いておく。
数日後、また同じ洞窟に来るとゴブリンが大体いるのでまた毒の食事を与え、同じ事を繰り返す。ただそれだけだ。
ファリスに地形的にゴブリンがよく来そうな洞窟を選定してもらい、ここの洞窟だけを狙い続けている。
たまにゴブリンを1匹だけ誘導して来て倒す練習もしている。
クレア隊は女性が多い。カナデとアオイもクレア隊に移動して来た。
気配りが出来る人が多くて補給任務で大活動していた。
物資を届けに砦に来たら、食事を作り、衣服や防具の補修をし、武器の手入れをして、みんなに話しかけて場を和ませたりしていた。
さらに特殊任務でゴブリンの数を減らすので評判はとても良かった。
砦周辺のゴブリンの巣はほとんど駆除した。しかし、真西の方角だけ、わざと駆除しないで残してある。砦に向かってゴブリンが来るように誘導しているのだ。その中にクレア隊の狙う洞窟もある。
砦の本領はこれから発揮される
わざと攻め込ませるのだ
羊を捕まえて檻に入れて砦の西門の外側に置いておく。するとゴブリン達が羊目当てにやって来るのでそこを矢で狙い撃ちする作戦だ。
「ゴブリン来ました!!」
「羊に当てるなよ……まだだ!」
ゴブリンが10匹程いたが檻の近くに集まって来るまで十分に引きつける。矢倉が砦の4隅にあるのだが西側だけ真ん中にもある。
3箇所の矢倉には弓を構えた狩人達が狙いを定めていた。その中にはカナデとアオイの姿もある。この日の為にずっと練習を重ねてきたのだ。
「撃て!!」
ザッジ騎士団長の号令で一斉に矢が撃ち込まれた。
ゴブリン達は矢を全身に受けて倒れて行く。
慌てて何匹かゴブリンが森の中に逃げていくが……
補給部隊になったクレア隊の代わりに編成されたジェロ隊がヌルっと木陰から現れて、音も無く倒していく。
すぐにジェロ隊は姿を消す
砦西門が開かれてステラ隊が出て行く。ゴブリン達を片付けて念のために消臭薬をまいておく。そして砦にすぐに戻る。
ジェロ隊は少数精鋭部隊で機動力がある者を集めてある。ビッケも所属している。森の中に散って羊の毛や肉を置いて周り、砦西側へゴブリン達を誘導する任務を担っている。
矢が飛んできて砦西側の地面に刺さった。ジェロ隊からのゴブリン接近を知らせる合図だ。しばらくすると……
「ゴブリン来ました!!」
「弓 構え! ……撃て!」
またゴブリンの一団が片付けられた。
その様子をファリスと一緒に眺めている。
「ファリス参謀、素晴らしい手腕だ。全て君の立案通りだよ」
「いえ……計画を実行出来るみなさんの方が凄いです」
ファリスの頭脳、村人の労働、両方が重なり結果を出した。
「これで巣を探さずにゴブリンの数が減らせるな」
「はい。しばらくして慣れたら夜にこれをやります。夜の方がより多くゴブリンが集まると思います」
ヒナが矢倉にいる狩人達に声をかけている。矢倉の使い心地を聞き取り調査していて、次の建築の参考にしている。
ヒナはファリスと一緒に村の北側への警戒と村全体を防衛する為の防衛施設の建築を検討中だ。
設計士のジョブを獲得したのを機に本格的に設計を学び始めた。
元々が狩人なので矢倉にはこだわりたいらしい。
ファリス参謀と大きな地図の拡げられたテーブルに戻って今後の相談をする。無事に当初の計画は達成できた。
「これからどう進めていけばいいかな?」
「ゴブリンの群れは少しずつ小さくなると考えています。そうなると巣から離れなくなり駆除が停滞します。ここで本来なら、さらに遠くへ砦を建築したいのですが国力を考えると無理です。まずは村周辺の防御を完全にする方を優先した方がいいでしょう」
「そうか……これ以上は進めないか。では、精鋭部隊を送って西の森の先がどうなっているのか偵察するのはどうかな?」
「先に行けばレベルの高い敵がいる可能性があり危険ですが、情報が無い方がもっと危険です。偵察はいい案だと思いますが、すぐには無理でしょう。限界です。状況を整えてからしっかり準備して行うべきです。何かあっても助けに行く余力がありません」
「確かにそうだな……本当に君がいてくれて良かったと思うよ。とても冷静で的確な判断だ」
村に戻ろう。しばらくするとゴブリンが増えてしまうが、今度は砦もあるし、戦闘の経験も豊富になった。
「よし! ゴブリンの数が減少したら砦の人員を減らして村に戻ってもらう。駆除は間隔をおいて定期的に行う。これでいこう!」
村を歩き、様子を見て、村人達に声をかけていく。
色彩豊かなハーブが家々の周りに植えられていて綺麗な花を咲かしていた。道の両脇にも所々植えられていて、風に乗って優しい香りを微かに感じた。
ゴブリンとの戦いに出ていた者達が次第に戻ってきて、畑を耕して整えている姿が目立つ。
ひとりひとりに声をかけて健闘を称え合い、何か困っている事はないか聞いていく。みんな明るい表情で答えてくれる。
村の集落部分は木の板で完全に囲まれた。さらに防護柵も設置されかなり外壁の防御が高まったので夜勤を4名から2名に変更した。北と西門に各1名だ。
外壁に囲まれていないのは集落から離れた所にある自分の家とビッケの家だけだ。
中断していた村内の建築も再開されている。ザッジとヒナが住む家もみんなで作っている。ヒナが設計を変更したのでちょっと時間がかかるらしい。家が出来たら結婚式が中央広場で盛大に行われる予定だ。予定よりかなり延期されてしまったけど、そろそろ行えそうだ。
騎士団の宿舎が完成して6名の騎士達がそこに引っ越した。平屋建てで広めの部屋がちゃんと6室ある。隣りには馬の厩舎とちょっとした庭があり、軽い訓練くらいなら出来る。
アオイの店は内装を一部残すのみになっていた。既に移り住んでいて営業を開始していた。営業とはいっても村では物々交換なので、食材、ハーブ、内職で作ってもらったリュックサックと引き換えに武器や農具の整備を行っていて、薬も商品に加えてある。
何か欲しい物がある時にはここに来て要望を出してもらう事にした。
作れる物は作り、仕入れる必要がある時はアオイに手配してもらう。
商人ルドネに依頼してもいいし、隣り村に仕入れに行ってもいい。
村のどこへ行っても活気に満ちていた
館はファリスしか住んでいないので改装を行う。
ファリスの事務所、政府会議室、診察室、教室兼食堂、生産職が集まって仕事が出来る作業スペースを作る事になった。
診察室だけは壁で囲むけど、他の場所はなるべく壁で仕切らずにみんなの様子が見えるオープンな場所になる予定だ。
食堂では騎士団の者と村の女性達が中心になって、夜勤者の為の朝食とお風呂に入りに来たお年寄りの為に簡単な昼食を準備してくれる事になった。
アオイが住んでいた2階の1室は来客用の宿泊場所にする。
錬金部屋は1階の作業スペースに移してここは相談室にする。
ヒナが設計してくれて改装が始まり、すぐに出来上がった。基本的に壁を取ってしまうだけなので時間は少しで済んだ。
館の扉は夜しか閉めない
中に入ると誰が何をしているのかすぐにわかる。とても開放的だ。
館を訪れる人が少しずつ増えて来た。毎日来てくれるお年寄り達もいた。
ちょっと声をかけて健康状態を確認させてもらう。どこか痛い人が多いけどみんな我慢しているので無理せず話して欲しいと頼む。
鎮痛薬を塗ってあげる。風邪気味だと言えば漢方薬を渡す。
食欲がないと言えば食堂に行って消化によいスープを作ってもらって食べてみてもらう。
次第に若者達も館に来てくれるようになった。食材をくれたり、生産スペースでお年寄りに技術を教えてもらったりしている。
人数は少ないけど子供達も頑張って勉強していた。
会議室ではヒナが村の防衛を固めるための外壁の設計図を作成していた。そこには若者達も集まって意見を出し合っている。
村が目に見えて変わり始めていた
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