第七十四話 これがゲームのオールスター!


 ドイツを発った私は、まずニューヨークの国連本部へ向かった。

 いつものように魔石を譲渡し、特に問題なくやり取りが進む。


 ただ、会う度にスカール氏の頭髪が寂しくなっていくのが気になる。


「あの、増毛とかしましょうか?」


 外交官は私の提案に少し惹かれたのか、ピクリと眉を上げる。

 しかし。


「……。いや、私のために大事な魔石を使う必要はないよ。

心配してくれてありがとう」


 思い直したのか、律儀に断るスカールさんであった。

 真面目な人だ。


 大変な仕事だろうけど、頑張ってほしいね。

 そう祈りながら、私は本部のビルを後にした。



 チャーター機に乗って最後に向かうのは、やはり日本だ。

 今回の目的はたった一つ。

 スーファム時代に生まれたゲーム業界の結晶を受け取り、マルデアに運ぶ事だ。


 永田町で挨拶を済ませた後、私はNikkendoへと向かった。

 会議室に入ると、営業部長が完成したソフトを見せてくれた。


「これがオールスター2のパッケージになります」

「おお……」


 輝くパッケージに描かれたタイトルは、『2Dゲーム・オールスターズ2』。

 選ばれたタイトルは下のようになる。


 マルオがマントで空を飛び、ヤッスィーと初めての大冒険。『ハイパーマルオワールズ』

 親子三代、壮大な人生の冒険記を描く。『ドラゴンクアスト5 空の花嫁』

 星を守るために立ち上がる、最後のファンタジー。『Final Fantasia 5』

 戦略がカギを握る戦記シミュレーション。『ファイオーエンブラム 紋章の秘密』

 2D時代を代表するシューティングアクション。『ハイパーメタロイド』

 そしてアーケードで先行したスタ2にサニック、ぷやぷや通だ。


 この8タイトル、正直濃すぎる気がしている。

 今回は、90年代前半を中心にしたラインナップになっている。


 ビジュアル的には、2Dの全盛期と言ってもいい。

 完成度の高いドット絵のグラフィックは、今でも見やすく魅力的だ。

 これ以外にも名作が多すぎて選べなかったものが多数ある。

 それはまた今後、何かしら考えたいと思う。


 ローカライズチームが頑張ったおかげで、テキストの多いRPGを複数入れる事ができた。

 中でもFinal Fantasiaは、マルデアにおけるデビュー作をどれにするか相当に議論がなされた。


 1987年に誕生したこのシリーズは、常に新しい挑戦を続けてRPGの理想郷を切り開いてきた。

 毎作のようにガラリと変わるシステムやグラフィックに驚きながら、私も夢中になってプレイしてきたものだ。


 今回選ばれたのは、シリーズのベースとなる職業システムを持つ5だ。

 黒魔道士や召喚士、忍者や竜騎士。

 ユニークなジョブを選び、スキルを身に着ける事ができる。

 熱狂的な人気を誇る7などについては、いずれまた別枠で扱いたい所だ。



「こうして実際にパケ絵を見ると、やっぱり凄いメンツですね」


 私はパッケージに描かれたキャラクターたちを見下ろしながら、営業部長と話し合う。


「ええ、マルデアに届けるからこそ実現したラインナップです」


 確かに、普通ではお目にかかれないよね。

 一つのパッケージに、サニックとマルオ。ぷやぷやのアリル。

 ドラクアとFinal Fantasiaの主人公。

 そしてスタ2のリウまで描かれている。


 これが完成したのは、スク・ウェニやSAGAなどの各社が全力で協力してくれたおかげだろう。

 メーカーさんには、頭が下がる思いだ。

 もうレトロ界のスマッシュブルザーズみたいになってるよこれ。


 パワフルな絵を見れた事もあり、私はとても満足だった。



 会議を終えた後。

 いつもなら郊外の倉庫に行くところなんだけど。

 ここで、私のルーティンに変化があった。


「今回は、全ての出荷品を社内に用意してあります」

「え?」


 営業さんの自慢気なセリフに首をかしげると、本当に社内に全てあるのだという。

 ついて行ってみると、倉庫に縮小ボックスがいくつも置かれていた。


「マルデリタさんとの取引を円滑にするためという事で、政府が用意してくれました」


 どうやら、スウィッツやソフトなどをボックスに入れて用意してくれたらしい。

 おかげで郊外まで行く必要もなく、私はその場ですべての入荷品を受け取る事が出来た。


 四万台のスウィッツに、一万五千本の新作オールスターパッケージ。

 そして、各種ソフトやアーケードなどを全て輸送機に詰め込んでいく。


「スタ2にぷやぷやが五百台と……。これで全てですね」

「はい、ありがとうございました。それでは失礼します」


 挨拶を済ませ、私はワープで地球を去った。




 マルデア星に戻ると、ちょうど夕方くらいだった。

 いつものようにビル街を歩き、数日ぶりのガレリーナ社へと向かう。


「ただいま戻りました!」


 元気にオフィスに入ると、みんながこちらを振り返った。


「おかえりなさいリナ。あら、いつもの明るい顔に戻ったじゃない」

「うむ、その表情が一番だな」


 サニアさんやガレナさんは、私が元気になった事に気づいてくれたようだ。

 と、通話のコールがした。

 すぐにフィオさんがデバイスを取って話し始める。


「はい、こちらガレリーナ社です。

いえ、まだ新作タイトルについては発表しておりません。

ドラクア7が出る噂を聞いたのですか? あまりネットの話を信用しない方がいいと思います」


 通話を切り、彼女は小さくため息をついた。

 どうやら、ファンから新作についての問い合わせが来ているようだ。


「最近、こういう噂に対する質問が多いわね」


 困ったように腕組みするサニアさんに、メソラさんも頷く。


「ええ。ネットで嘘の情報が飛び交ってるみたいっスよ」

「それだけファンたちが期待してるって事ですよ。前向きに行きましょう」


 私が声をかけると、みんなが一斉に頷いた。



 さあ、気を取り直して新作の営業会議だ。

 私がデスクにオールスターのパッケージを置くと、社員たちはみなゴクリと唾を呑んだ。


「これがオールスター……。凄いラインナップね」

「マルオ、ドラクア、Final Fantasia、スタ2、ぷやぷや、サニック……。文句なしっス」


 みんな、タイトルの重みに震えているようだ。

 ともかく、話し合わなくては。


「それで、今回の販売戦略なんですけど……」

「リナ、私は思うのだが……。このパッケージで戦略が必要だろうか?」


 ガレナさんが腕組みをしながら唸るように言った。

 確かに、マルデアでもド安定の人気タイトルがある。

 更にアーケードで先行して話題を呼んでいるタイトルが三つ。

 もちろん未知のタイトルも用意している。


 ちょっと売れそうな匂いが凄い。

 持っていくだけで売れそうな。そんな感覚だ。


「そうですね。では、正攻法でお店の方に営業していきましょうか」


 せっかく会議をしたのだけれど、特に策は無し。

 それでも問題ないと、社員みんなが頷いた。

 新しいオールスターは、今までにないヒットの予感がした。


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