第六十九話 マルデアの学園祭でゲームが…?


 新しいアーケードの出足は上々だった。

 仕入れたほとんどの台が、既にお店で稼働を始めている。

 ぷやぷやとサニックは、マルデアのゲーマーたちから好評を受けているようだ。


 だが、一つ終わればまた次の仕事がやってくる。

 私たちは次なる新作に備え、営業やローカライズの仕事を進めていた。

 そんなある日。

 会社に向かうと、業者らしい人が机を運んでいた。


「デスクとモニターはどちらに置きましょう」

「全て三階に並べてくれ」


 ガレナさんの指示に従い、男性はデスクを浮かべながら階段を上がって行く。

 以前から進めていた、三階をうちのオフィスにする話がついに実現したのだ。

 翻訳担当の社員が三階に引っ越したので、二階には当然空きが出来た。


「やったっス! めっちゃ広く使えるっスよ!」

「気持ちも広々とするものだな」


 嬉しそうにするメソラさんとガレナさん。

 だが、そこにサニアさんが割り込んできた。


「悪いけど新しい社員も増えるから、そんなにスペースの余裕はないわよ」

「ほんとですか?」

「ええ。なんとついに、弁護士がウチに入って来たの。彼には法務を中心にやってもらうわ」

「弁護士ですか。凄いですね」


 こんなに小さな企業に入りたい弁護士さんがいるんだね。

 私が地球に行っている間に、みんな色々と進めてくれているようだ。



 さて。会社が大きくなるほど、仕事も忙しくなっていく。

 だから休みの日はゆっくりと過ごす……、予定だったんだけど。


 この間、ちょっと気になるものを見つけてしまった。

 とある学園祭のホームページを見ていたら、出展一覧の中に『ビデオゲームの展示』というものがあった。

 マルデアでビデオゲームと言えば、うちの製品しかない。


 スウィッツを勝手に使うのはちょっと問題かもしれないけど。

 学生たちがゲームで盛り上がろうとしているのは、とても嬉しい話だ。

 私はちょっと学祭の見学がてら、その展示を見に行く事にした。


 今は十月の半ば。学生たちにとってはイベントのシーズンだろう。


 当日の朝。

 私はワープステーションを使い、目的の学院へと向かった。

 校門で少し待っていると、カーディガンを纏った赤い髪の女性がやってきた。


「お待たせ。ていうか、会社のない日に会うの初めてよね」

「すみません、わざわざ来てもらって」


 そう。サニアさんだ。

 学祭に行ってみたかったんだけど、一緒に行く相手がいなくて、頼んでみたら来てくれる事になった。


「いいのよ。私久々に学生の雰囲気を味わってみたかったの。どう、まだ大学生に見える?」


 気取ってポーズをとるサニアさんは、悔しいけどお洒落だ。


「そうですね。現役女子学生に見えます」

「ふふ、そうでしょ。あんたはまだ中学生くらいの可愛い子に見えるわよ」

「余計なお世話です」


 話し合いながら、私たちは門を通って中にはいる。

 荘厳な学院棟の足元。

 学生たちが集まり、賑やかに話し合ったり、屋台を開いたり。

 華やかな魔術イベントも開催されている。


 そんな光景を眺めながら、サニアさんと院内を歩いていく。

 私は勉強ばっかりで、こういう催しにあまり参加してこなかった。


「ふーん、変わらないわね。なんにも考えてなさそうな大学生ばっかでほっとするわ」

「失礼ですよサニアさん」


 まあ、確かに大学生は何も考えてない人も多いのかもしれないけどね。


「それで、ゲームの展示はどこでやってるの?」

「第三棟らしいですよ」


 コピーしてきたカタログを眺めながら、私は賑やかな学祭の中を歩いていく。


 グラウンドでは、タイマンの魔術戦イベントをやっていた。

 バチバチと魔法がぶつかりあい、拮抗した戦いが繰り広げられている。

 お客さんも凄い盛り上がりだ。

 他にも、空を飛び回る飛空レースも開催されていた。

 地球とは違うけど、学生たちが何かに夢中になっている感じは同じかもね。



 広場を抜けた私たちは、第三棟の方に入って行く。

 一つ一つ出店を見ていくが、ゲームっぽい展示は見当たらない。


「このあたりなの?」

「そのはずですけど……」


 二人でキョロキョロとあたりを見回しながら、人気のない方へと向かう。

 と、遠くから耳慣れたBGMが聞こえてきた。

 明らかに地球の曲。

 それも、典型的なレトロゲームサウンドだ。


「これ、ソロモニアの鍵よね」

「そうですね」


 ソロモニアは、レトロゲームパックに入っている名作パズルアクションだ。

 音のした方に向かうと、寂れた出店がポツリと立っていた。

 店員らしい青年が一人でカウンターに座って、スウィッツをいじっている。


 その周囲には、学生は誰もいなかった。

 どういう事だ。

 もっとこう、「ゲームで楽しもうぜ!」みたいな感じで盛り上がってると思ったのに。

 ちょっと期待外れにガッカリしながらも、私は声をかけてみる事にした。


「あのー。この店は何をされてるんですか?」

「い、いらっしゃいませ。ここではビデオゲームという新しい娯楽を展示しています。

無料なので、自由に遊んで行って下さい」


 彼はぎこちない笑顔を浮かべ、テーブルに置かれた二台のスウィッツを示す。

 どうやらお金を取っているわけじゃないらしい。

 ちょっと気になったので、問いかけてみる事にした。


「あの。なんでこういう出店をしようと思ったんですか?」

「はい。僕はスウィッツが、ゲームが好きなんです。

いろんなゲームがあって、凄く楽しいんです。

でも周りの学生たちはまだあんまり知らなくて。

それで、学園祭で出店の場所が余ってるっていうから、思い切って出してみる事にしたんです。

でも、あんまり上手くいかなくて……」


 どうやら、彼はほんとに善意でゲームを紹介したいだけだったようだ。

 一人でもゲームのために立ち上がってくれる、その気持ちはとても嬉しい。

 でも、このやり方じゃダメだ。ゲームの魅力が学生たちに伝わらない。

 スウィッツの学園祭デビューを、こんなしょぼい形で終わらせるなんて、私の魂が許さない。


「展示してるのはこのゲームだけですか?」

「いえ、ソフト五本全部用意してきたんですけど」


 彼はカバンから全てのソフトパッケージを取り出してみせた。


「そうですか。なら携帯モードじゃなくて、デバイスに接続してシアターモードにしましょう。

もっと派手に映像を出した方が、お客さんにもわかりやすいです。

タイトルも、見栄えの良い3Dゲームにしましょう」

「た、確かに、その方がいいですね。

というか、お二人はゲームの事を知ってるんですか?」


 青年の問いかけに、サニアさんは立ち上がって頷く。


「当たり前よ。私たちはあんたの何倍もゲームに詳しいの。そう、私たちこそゲーマーよ!」


 どや顔で決めるサニアさん。いつものごとくちょっとウザい。


「げ、ゲーマー……、なんてかっこいい響きだ」


 青年は感激しているようで、アドバイスを受けてさっそくスウィッツをデバイスに繋いだ。

 そして、魔術式のシアターモードでマルオカーツの画面を空間に大きく映し出す。


 3Dの世界を駆け巡る、豪華な映像が学園祭に流れ始めた。


 すると、近くにいた学生たちがそれに気づいたようだ。


「ねえ、何あの映像?」

「なんか鮮やかだよね」


 早速、マルオの映像パワーに惹かれて青年たちがやってきた。

 ならば、私も営業モードだ。


「いらっしゃいませ。これはマルオカーツと言いまして、みんなでレースして遊ぶものです」

「レースって、私たちがやるの?」

「はい。簡単ですから、どうぞやってみてください」


 私は二人にコントローラを渡し、ゲームをスタートさせる。


「お、動いた!」

「すごーい、自分で走ってるわ」


 彼らは楽しそうに画面を見ながら遊び始めた。

 すると、周囲の学生たちもこちらを振り向く。


「何か面白そうな事やってるぞ」

「行ってみましょうか」


 学園祭のすみっこで、小さな出店に人が集まり始めた。

 ふふ、これがビデオゲームの力ってやつだよ。


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