第17話 営業のリナ・マルデリタです
ゲーム機の営業のために、マルデアの小売店を回る事になった私。
最初の行き先は、ワープステーションの近くにある玩具屋だった。
店長は四十代くらいの男性で、運良く手が空いていたらしい。
私がお願いすると、話を聞いてもらえる事になった。
「ガレリーナ販売社? 聞いたことのない名前だね」
私の名刺データを受け取り、首をかしげる店長。
当然、この人はゲームという概念すら知りもしないだろう。
私はゼロから商品をプレゼンする必要がある。
地球とは違い、マルデアでの私はただの一社会人でしかない。
しっかりと低姿勢で挑まなければならない。
カウンターの前に立ち、私はスウィッツを出して画面を見せながら説明する。
「これはビデオゲームといって、画面の中のキャラクターを操作して遊ぶものです。
こうしてジャンプして、敵をやっつけたりして、右のゴールへ進んでいくんです」
「ほう……。珍しい遊び道具だな」
玩具屋の店長は腕組みをしながら、自分でもボタンに触れて操作していた。
「ふむ、なかなか新鮮で面白いな。子どもが喜びそうだが、大人も楽しめそうだ」
最初だが、なかなか反応は悪くないようだ。
「はい。全年齢向けの娯楽として作られておりますので、ご家族のみなさんで楽しんで頂けます。
実はこれ、二人以上でプレイする事もできるんです」
私が二人プレイモードを見せると、店長はますます身を乗り出してきた。
「一緒に遊べるのか。それはいいね」
「はい。最初はこのゲームと、マルオカーツというレースゲームの二つを発売します。
そのほかにも、今後様々なソフトを発売していく予定です。
新作ソフトを買えば、遊びが増えていく。そんな魅力的な製品です」
「なるほど、娯楽専用のデバイスという事か」
顎に手を当てて唸る店長。もう一押しだ。
「どうでしょう。試しに何台か購入してみては。ダメだったら返品で構いませんので。
ひと月くらい置いてみてもらえませんか」
「ふむ……。販売価格で500ベルか。玩具としては値段が少しネックだな。
だが魅力的な商品である事は確かだ。よし、ここは試しに発注してみるか」
彼は悩んでいるようだったが、最終的には買ってくれる事になったようだ。
それから、私は色んな店を回ってスウィッツを売り込んで行った。
玩具屋だけではない。
デパートやスーパー、デバイスショップなど、ゲーム機を置いてもらえそうな場所に出向いて宣伝を続けた。
もちろん、商品を見る前に門前払いを食らう所も多かった。
新規の営業は、鬱陶しがられるものだ。
地球産の商品だと説明すると嫌がる人もいた。
でも、面白がってくれる店も多かった。
やはり真新しい遊びで、ぱっと触った感じも魅力的だったからだろうか。
試しに発注してくれる店が次々に出てきた。
まあ、これは私の営業手腕というより、商品の魅力のおかげだろう。
時代と国境を越えて愛され続ける地球のエンターテイメントが、面白くないわけがない。
自信をもって売り込めば、それでいいのである。
それから一週間ほど、私はワープでマルデアの首都圏を飛び回りながら営業して回った。
その結果。
初期出荷の五千台のうち、八割である四千台分の受注が決まった。
残りの千台は、トラブルや故障の際に交換品として必要になったりするので、在庫として残しておく事にした。
4000台売れれば、一台500ベルで全部売れたら200万ベル。
日本円で言えば二億円くらいの売り上げとなる。
販売店がその三割くらいは持っていくけど、残りの大半はウチの稼ぎだ。
ゲーム機の製造費は地球の政府が払ってくれるので、仕入れ値はゼロ。
売り上げのほとんどが利益になる。
そして稼いだ金で魔石や魔術品を買って、地球に送る。
これが、ゲーム魔石貿易の形だ。
私たちは商売の見積もりをしながら、発売までの準備を着々と進めていった。
あ、ちなみにマルデアに消費税は無い。
さて。
ここまで来た段階で、ついに日本政府が動いた。
私が日本に滞在していた理由を、政府が大々的に発表する事になったのだ。
デバイスからyutubeを見ていると、内閣による記者会見が行われるようだ。
ライブ映像を再生すると、首相官邸の映像が映し出された。
カメラの光が走る中、総理が淡々と語り始める。
「えー、これまで水面下で進めてきた事になりますが。
マルデア星の親善大使であるリナ・マルデリタさんが来日した目的を申し上げますと。
我が国のゲーム製品をマルデア星に輸入したいと、大使から申し出がありました。
つまり、日本企業との交渉のために来て頂いたという事になります。
これは異星との公な商取引として、地球史上初という事です。
我々日本政府としてはこれを最大限にサポートし、我が国とマルデア星の関係性を深めてまいりたいと思う所存で……」
あまり派手に演説しないのが、日本らしい所だろうか。
それでも総理の発表に、日本国民たちは沸いた。
国産のエンタメが他所の星に気に入られたというニュースを嫌う者は少ないだろう。
それを受けて、日本のネットも色んな意味で大盛り上がりだった。
xxxxx@xxxxx
「すごーい!」
xxxxx@xxxxx
「日本のゲームを買いに来てたのか! なんか嬉しいな」
xxxxx@xxxxx
「イヤッフゥゥゥゥ!」
xxxxx@xxxxx
「リナ・マルデリタが最初の地球訪問で嬉しそうにゲーム機を持って帰ったっていう話あったけど。
あれ本当だったんだな」
xxxxx@xxxxx
「リナちゃん、ゲームやるんだ。yutubeで実況しないかな」
xxxxx@xxxxx
「一生懸命マルオを操作するリナちゃんを妄想した。可愛い」
xxxxx@xxxxx
「いやいや、史上初の星間商取引がゲームって。ちょっとおかしくない?」
xxxxx@xxxxx
「地球の科学技術はいらないってことだろ。でも、娯楽はあっちより優れてるのかもな」
xxxxx@xxxxx
「マルデア人よ、日本のゲームを楽しんでくれ!」
取引の裏に見えるものを語ってる人もいるけど、基本はみんな喜んでいるようだ。
「うわー、責任重大だなあ」
そんな事を呟いても、私に与えられた役割の重さが落ちるわけではない。
元より、私は地球との貿易をただ一人で任されているのだ。
うん。開き直るしかないよね。
私は疲れた体をベッドに横たえ、明日に備えて眠る事にした。
気が付けば、魔法省のエリート街道とは程遠い仕事をしている自分がいた。
ゲームのローカライズをし、営業回りをして、自分の足で売上をつかみ取る。
そんな日々に、私は大きなやりがいを感じていた。
そして翌月。
ゲーム会社から製品の納期が伝えられ、私はそれに合わせて日本に向かう事になった。
ついに販売用のスウィッツ五千台をマルデアに輸入する時が来たのだ。
今回は空っぽにした輸送機を持って、ワープルームへと向かう。
時間も、しっかりと日本の日中に合わせている。前回のような夜中になる事はないだろう。
「では、しっかりと持って帰ってきてくれたまえ」
私の相棒であり社長でもあるガレナさんが、ワープの魔術を作動する。
「あのガレナさん。このワープ、ちゃんと京都のビルに行くんですよね」
私が少し咎めるような眼を向けたが、彼女は自信満々に頷いた。
「ああ、行くだろうとも」
「……。そうですか」
こう言われたらもう何も言えない。ええ、どこへでも行きますよ。
次の瞬間、私の体はマルデアから消えていた。
ふと気づけば、青空の下にいた。
目の前には、ゲーム会社のビル……、ではもちろんなく。
立ち並ぶビルの数々。
日本語の看板が出ているので、日本なのは間違いない。
だが、ここは随分と変わった場所らしい。
建物の壁には、どでかいアニメのポスターが貼ってあった。
「アニメの町……?」
何でだよ。
ここ、明らかに京都じゃないよね。
見回すとそのビルだけではない。そこかしこにアニメの絵がでかでかと映っている。
通りを見やれば、普通にコスプレメイド服の少女が歩いている。
ていうか、やたらアニメっぽい服の人が多いな。
ああ、ここってあれだ。
多分秋葉原だよね。
ネットで調べて何となく見た事ある。二次元の町ってやつだ。
つうか東京じゃん。
ついにポンコツワープがTokyoとKyotoを間違えたぞ。
まあ、何となく目的地につかないのはわかってたけどね。
だから一日余裕を見て早めに来たわけだし、警察が手伝ってくれるから遅刻にはなるまい。
さておき、今回はまた交番を目指す……、ん?
「おい、リナ・マルデリタのコスプレだぜ」
「私服verとか、めっちゃレベル高いな」
男の人たちが私を指さす。
あれ、何やらカメラを持った人が集まってきたんだけど……。
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