戦いの後で

 ん……?うーん?

 ここは?……ベッド……保健室?

 俺……なんでここにいるんだっけ……?


「ヒカリちゃんっ!」


 アレ?ラーフィアちゃんっ?

 

 オーシャンブルーの瞳を潤ませて俺の顔を覗き込むラーフィアちゃん。隣にはペリメール様のお姿が。

 右手に柔らかくて温かい感触。ラーフィアちゃんが手を握ってくれてるみたい。

 左手首には包帯が巻かれてる。

 何があったんだっけ……

 あ。

 フィルフィーに殴りかかっていって手首捻挫したんだっけ。


 フィルフィーがでっかい声でなんか吼えて……そこからの記憶が無い。


 左手首の捻挫以外にケガは無いみたいだ。


 殴られなかったのか……


 まあ、それもそうかなー。

 ヤンキー女神がポンコツザコレベルの男のを本気で殴ったらただじゃすまないだろうしなー。


「ヒカリ様はフィルフィーさんの『咆哮ほうこう』というスキルで気絶しちゃったのですわっ。ここまで聞こえて来るくらいにムダに大きい声をまともに受けたのですから、気を失うのも無理もありません、ですわっ」


 咆哮?ただビックリさせるだけのスキルなのかな?まあビックリしましたけどね!


 確か、ペリメール様とラーフィアちゃんは俺とフィルフィーの試合を見て無いんだよな……誰かがここに運んでくれたのかな?

 保健室には、俺とラーフィアちゃん、ペリメール様の三人だけ。


「あの、誰がボクをここまで運んでくれたんですか?」


「フィルフィーさんですわっ」


「えっ?フィルフィーが?」


 なんかちょっと嬉しそうに言うペリメール様ですよ。ナゼに?

 あ。あれかな?一応、人助けだからかな?

 

「私もセコンドとしてついていたのに、ヒカリ様のお役に立てなくて申し訳ございません、ですわっ」


 そう言って、しゅーんとするペリメール様。

 伏し目がちになると長い睫毛まつげが強調されてめちゃキレイですよ!

 

「私がお姉ちゃんに吹っ飛ばされたでしょ?私もしばらく気を失ってたの。ヒカリちゃんとフィルフィーの試合、見たかったのになあ」


 プクーと片方のほっぺを膨らませるラーフィアちゃん。やっぱりカワイイですよ!


「気がついたら試合は終わってて、ヒカリちゃんが隣のベッドにいるもんだからビックリしちゃって」


 でしょうねー。


「寝込みを襲おうとしたらお姉ちゃんに止められちゃったの。残念!」


 なぬっ!俺にナニをするつもりだったのデスカネ、ラーフィアちゃんっ!?


「え、あのっ、じゃあ、ペリメール様もずっと側にいてくれたんですか?」


「ヒカリ様を放ってはおけません!ですわっ。ラフィーさんは目を離すとヒカリ様のパンティーを脱がせようとするから監視しておかないと、とっても危険なのですわっ」


 マジすか!

 それはとってもデンジャラス!

 たとえ『黒光り』スキルで見えないとは言え!コヒカリ君がバレようものなら大変なコトにっ!

 感謝いたしますペリメール様っ!


 にしても、フィルフィーのバカでっかい声にはホントに驚かされた。なんかまだ耳鳴りがするカンジ。

 耳を押さえて「あー、あー、テステス」って言う俺にペリメール様がフィルフィーのバカでかい声の事を説明してくれた。

 

「フィルフィーさんのあの大声は、大型の獣がガオー!と吠えるような感じで相手を威嚇する『咆哮』というスキルなのですわっ。真正面からまともに受けると気絶しちゃいますのですわっ」


 両手をガウガウの手にして身振り手振りで説明してくれるペリメール様。

 あ、ガウガウの手っていうのは、アニメとかマンガとかゲームに出てくるケモミミ美少女とかがやってるあのポーズのコトですよ!

 ヒカリのオリジナル造語です!


 え、俺、威嚇の大声で気絶したのかっ?

 カッコ悪いなあ……まあ、でも、ザコレベルですからね!仕方ないですね!

 あと、ペリメール様の『ガオー!』の言い方と仕草はめちゃめちゃカワイイですよ!


「それであの、フィルフィーは?」


「フィルフィーさんは今回の事を含めて色々と女神ポイントをゲットしたのですわっ。今それを神様校長先生の所に受け取りに行っているのですわっ」


 女神ポイント……なんか久しぶりに聞いたな、それ。どのくらいポイントゲットしたのかなっ?


 と、その時!


 ガラアっ!バン!


 と勢い良く開く横開きのドアの音!こんなの誰が来たのか見なくてもわかるぞっ!


「フィルフィーっ!うるさいわよっ!」


「フィルフィーさんっ!ドアは静かに開けなさいといつも言ってるでしょう!ですわっ!」


「ああん?オマエラの方がウルセエわっ。悪気はねえんだからいいだろーが。

 お?起きたのかヒカリぃ」


 ラーフィアちゃんとペリメール様に注意されてもフィルフィーはひょうひょうとしたもんですよ。

 悪気が無ければナニやっても許されると思うなよヤンキー女神っ。


 のっしのっしと大股で歩いてきて俺が横になってるベッドにどかっと腰かけるフィルフィー!なんかもう、何から何まで自由だなヤンキー女神っ。

 呆気にとられてる俺の顔をじーっと見て。


「ぶはっ!はははっ!」


 と吹き出すフィルフィー!


「え?ナニ!?なんなのっ?」


「あたしの大声で白目むいて気絶するんだもんなー。いや、笑った笑った!さすがはビビリのチキリのヒカリだなっ!」


 なぬっ!白目をむいて気絶!?それはこっぱずかしい!まさかそれって大型モニターに映ってたりしなかったのかなっ?


「モニター見てたヤツらがクスクス笑いやがってよー。そいつらにも『咆哮』浴びせてやったぜっ」


 たった今、自分が『笑った笑った』って言ってたのに他人が笑うのはダメなのかっ!?

 なんてワガママなんだフィルフィーはっ!


「したら、そいつらも白目むいて気絶してやんの!笑えるよなー!」


 なんとっ!

 とばっちりもいいとこですよ、その子達っ。

 

「フィルフィーさんっ!女神ともあろうものがめったやたらとわんわん吼えるものじゃありませんよ、ですわっ」


「ああん?ヒトを犬っころみてえに言うなよぺリ子っ」


 おっと、これはっ!

 二人がなんだか険悪な雰囲気に!圧倒的に正論なのはペリメール様なんですがね!

 ここは一つ、仲裁に入ってみるですよ!


「まっ!まあまあっ!ケンカしないでっ!フィルフィーは女神ポイントもらったんでしょ?どのくらい貰えたのっ?」


「あん?見せてやるよ、ホレ」


 ポイっと俺に放り投げた茶封筒。それには『女神ポイント明細書』と記してある。

 なんか、バイトの明細書みたいだな。見るのがコワイような気がするけど、見てもいいって言うんだから見せてもらいますよ!


 安物の茶封筒から取り出した一枚の紙。

 フィルフィーのポイント明細書には。


 *善行ポイント +20000 内訳 コウダ夫妻と胎児の救済転生

   

 コウダ夫妻と胎児、って、俺の父さんと母さんの……やっぱり善行だったんだなー。

 父さんと母さん、性別入れ代わってたけど。

 へー。0が4つ。

 いち、じゅう、ひゃく……にまん。

 なぬっ!

 2万!?それだけあれば昇格出来るじゃん!確か1万ポイントで昇格だったハズ!

 フィルフィーの所持ポイントって、8ポイントだったハズ!

 2万ポイントなんて、ペリメール様の所持ポイント軽く超えてるよ!?


 だがしかし!その後ですよ!


 *悪行ポイント -2 内訳 つまみ食い

 *悪行ポイント -30 内訳 下着破き

 *悪行ポイント -60 内訳 下着破き

 *悪行ポイント -80 内訳 掃除機で異物吸引

 

 マイナス多いな!つまみ食いもダメなのかっ。掃除機で異物吸引って俺のコヒカリ君のコトですかっ。

 俺のおパンツをズタぼろに引き裂いたのもしっかりマイナスにカウントされてますよ!

 そりゃそうだよなー。

 女神ともあろう者が、ってペリメール様もよく言ってるし。

 他にも、ずらずらとマイナスポイントが続き極めつけは。


 *悪行ポイント -10000 内訳 暴言、悪言


 *警告* 女神ともあろうものが『死ねや』などとはもっての他である。以後、言動には留意すること。 


 ですよね!

 ヤンキーだからってアレは言ってはいけない!大失言です!


 で。トータルで。

 *総マイナスポイント -18880


 *現在のポイント +128


「おー、結果的には120も増えてるじゃん。らっきー♪」


 おいっ!ヤンキー女神っ!?それは増えたって言うのかっ!

 俺が知る限りではフィルフィーの所持ポイントは8ポイント!

 二万ポイントもゲットしたのに、トータル128ポイントって、なんじゃそりゃ!


 今までずっとマイナスだったってコトだろ!

 なんで女神でいられるのか不思議でたまらんですよー!


 ヤンキー女神フィルフィーは昇格する気はあるのかしらっ!?

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