25. 僕の展示品の扱い

 ログハウスの扉に手をかけると中から話し声が聞こえた来た。


「キャー、キャキャー」


「ふふふ、そうですか、楽しそうで何よりです。」


「キャー」


「ええ、そうですね。」


「キー、キャー」


 え!お猿と会話が出来てる?どこかで聞いたことがある声だか、マイマザーではない。扉の前でじっとしててもしょうがないのでなかに入ろう。


「主様、今戻りました。」


『お帰りなさい。セト、先程も伝えましたがあなたに来客です。』


 なんだ?少し主様の機嫌が悪いのか?言葉に優しさがいつもより少ない気がする。


 とりあえず来客の対応をしよう。ログハウスのリビングの椅子に座ってお猿達にまとわりつかれて白い塊になってる人?が僕への来客だろう。


「ほら、少し離れて。その状態だと話も出来ないから。」


「ふふ、私はこのままでも構いませんが、話をするには顔を見て話すのが礼儀ですね。申し訳ありませんが、話の間離れていてくださいね。」


 聞いたことのある声だと思っていたけど会ったことのある人?だった。優しげな表情と長いストレートの金髪が印象的なΩを始めて最初に会った人?だ。


「アルファリエさん、どうされたんですか?」


「セト様、急な来訪申し訳ありません。今回は、運営からの伝言をお伝えに来たのです。」


アルファリエさんは、お猿の一匹を膝に抱えナデナデしながら話し始めた。


「まさかっ!」


僕は咄嗟に後ろを振り向いた。マイマザーはいなかった。だが安心は出来ない。あの人は目の前にいる管理AIを顎で使える存在だからだ。


「安心してください。清音様はいませんよ。」


「そうですか。よかった。」


いません。と言われたが、気を抜かない。マイマザーは、何処からでも現れるのだ。


「では、本題に入りましょう。今回こちらを訪れた目的ですが、先程も伝えたように運営からの伝言をお伝えするためです。」


「はい。」


真面目な感じになったのでちゃんと話を聞こう。


「先日、セト様がイベントにエントリーされた出品物の件なのですが。運営の判断の結果、リアル・シェルに展示はされるのですが選考の対象外となることになりました。」


「対象外ですか?理由を聞いてもいいですか。」


見た目はあれだか頑張って作ったのだ、「対象外です。」の一言ですまされたのでは堪らない。このままだと、現実に戻ったときにマイマザーの秘密の日記の内容が大声で語られることになるだろう。


「ええ、もちろんです。セト様の作成したアイテムは、他の参加者と比べると比較にならないくらいのレア度と性能となっています。ランダム転移の影響もあるかと思いますが、全体の進行速度にあったアイテムでない、と運営の判断となり誠に残念ながら対象外となったようです。」


まぁ、そうだろう。作った僕でさえ、ちょっとひくくらいの性能だ。開始4ヶ月で広まっていいアイテムの訳がない。


「理解しました。でも展示はされてるんですよね?」


対象外となるのに展示される意味がわからないのだ。


「それに関しては、Ω様のご意志です。プレイヤーの皆様の目標意識を高めるためと、このアイテムを公開することにより素材となったアイテムを探すために世界中の探索が進みます。セト様はご存知ないと思いますが、セト様が作られた物は凄く話題になっていますよ。」


「なるほど。」


話をまとめよう。運営は展示したくなかったが、AIのトップであるΩが展示を決めた。で、折衷案として投票の対象外としてあつかったということかな。


「あと、お詫びと言うのは違うかもしれませんが、今回の特別賞の商品である【運営への要望】を2つ差し上げると言付かっています。後日運営から確認のメールが届くかと思いますので、要望の内容を考えておいてください。」


「本当ですか!」


「キャッ!」


つい大きな声を出してしまった。お猿もビックリだ。内心期待してなかっただけにこれは嬉しい。


『要件はすみましたね。では、立ち去りなさい。』


ゾクッとした。ログハウスの温度が一気に下がった感じだ。


「ええ、私もあなたを怒らせるのは本意ではありません。あの子のことをよろしくお願いします。」


『あなた方女神に言われるまでもありません。』


主様の念話が響く度に部屋の温度がぐんぐん下がっている感じがする。正直マジ怖い。分体とはいえ主様から感じる圧は半端ない。

 

「では、セト様、名残惜しいですがこれで失礼させていただきます。またお会いできる日を楽しみにしています。」


最後までにこやかな表情を崩すことなく別れの挨拶をするとアルファリエさんは、フッと消えていなくなった。


『セト、私は用事があるので少し失礼しますね。』


「はい、わかりました。」


ほとんど反射的に返事をしてしまった。アルファリエさんが消えた瞬間から主様からの圧は感じないので機嫌もよくなったのだろうと思う。というか思いたい。


「お前たちも、よくあの圧のなかで気持ちよく寝てられるな。」


「........キャー........スー......」


ログハウスのリビングで所々に転がって寝ているお猿を見ながら自然と言葉が出ていた。


よしっ!切り替えよう。主様は怒らせない。絶対に敵対しない。


それにしても、【運営への要望】を2つももらえるとは驚きだ。1つは、取引板に使うとして、もう1つは何にしようかな。まぁ、あくまでも【要望】だからね、取引板も却下される可能性があるしよく考えよう。

 

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