9月14日
金曜日。曇り。一時、雷。
お昼、食堂の隅に一人で座ってサラダをつつき、少しだけジュースを飲んだ。体育の前はみんな、お腹が痛くなったら嫌だと言って食事を取らない。あらかじめ更衣室に購買部で買ったパンやお菓子を持ち込んで、授業の後、着替えながら大急ぎでかじる人が大半だ。あたしはどうしても少しは食べておきたい主義だから、先に手早く済ませることにしている。
そこへあいつが近寄ってきた。本心は胸底に沈殿させて――その堆積物はきっと、とてつもなく硬くて冷たいに違いない――上辺だけ如才なさを取りつくろった薄っぺらい笑顔で。立ったままテーブルに片手を突き、あたしを斜めに見下ろして、
「私の大事な寮友に、ちょっかい出さないで」
「……」
やり返したかったが、黙って目を逸らすしかなかった。情けない。あいつは去りぎわ、また、これ見よがしに髪を払いのけた。一瞬でテーブルが汚染された。素早く生気を吸い上げ、犠牲者を萎えさせる、まるで吸血鬼のよう。なるほど、人のエネルギーを奪うには必ずしも直接首に牙を立てて血をすする必要はないのだ。
いらだちを抑えつつトレーを持って立ち上がると、同室の一年生・天草さんがおずおずと近づいてきて、
「今のかた、一年生と二人部屋にいらっしゃるじゃないですか。聞いた話では、どうも……普通のルームメイトじゃないらしいって」
「それ、どういう意味?」
「そのまんまです」
天草さんは頬を赤らめ、素早く身をひるがえした。あたしはしばらく彼女の言葉を噛み締めていたけれど、予鈴が鳴ったのであわてて駆け出した。
【引用】
知識と理解とは、互いに支え合うものではないのです。知識は煉瓦の山で、理解は建物の造り方です。(シオドア・スタージョン「反対側のセックス」)
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