第5話

その時、扉が開いた。


「楠、久しぶりだな。元気だったか?」

そこには、男性がいた。


高校生ではない。

僕と同じ50歳の男性。


そして、あの子の夫であり、旧友。


「水田?」

「覚えていてくれたか、楠」

「そりゃあな」


僕は、溜息をつく。

やはりな・・・


「気づいているとは思うが、全員ジュニアだよ」

「ああ。わかってた」


そうだな。

ジュニアだな。


「みんな、方々に散っていてな。連絡とれた奴だけ集めた」

「そっか」

「俺と妻のように、同級生で結婚した奴らもいるしな」


当たりを見渡す。


「楠さんの事は、両親から聞いています」

「僕も、聞いています。おとなしかったみたいですね」

「でも、たまに出る、しゃれが面白かったとか」


皮肉だな。


でも気になる。


「なら、彼女の正体は?」

僕は、となりの女の子を見る。


「私は、愛衣。泉愛衣です、あなたの好きだった美奈の姪になります」

「姪?」

「覚えていませんか?私の母、つまり叔母の妹と一度だけ、お会いしていますよね?」


あっ、そういえば・・・

文化祭の時、一度だけお会いしてるんだ。


「あっ、どっきりはここまでだ。そろそろ、本命にご登場いただこう」


すると、そこには、あの子が現れた。

すっかり、おばさんとなった、写真の中のあの子が・・・


「久しぶりだね」

「うん」

「独身なんだね」

「ほっといてくれ」

「なら、愛衣をあげるよ」

「犯罪だ」

「女の子は16歳で結婚出来るよ」

「愛衣ちゃんが、嫌がるだろ?」


すっかり関西のおばちゃんだな。


「私は、いいよ。ストライクゾーンだもん」

愛衣ちゃんは言うが・・・


「冗談はやめなさい」

「はい」


素直な子だな・・・


「楠くん、今から出かけない?ふたりで・・・」

美奈さんが、声をかけてくる。


「昔、約束していたけど、私が病気でデートが、おじゃんになったよね?」

「うん」

女性不信になったのは、それからだな・・・


「もう、おばさんになったけど、食事でもしない?レストランで」

「僕の性に合わない」

「じゃあ、居酒屋でも・・・」


こうして、40年越しに、憧れの女性とデートすることになった。


歳は関係ない。

眼を閉じれば、あのころの若いままなのだ。


あれ?

マリンとカトレアの中の人は・・・


「息子だよ」

「そう・・・」


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記憶の中の人 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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