7話 庭先異聞録

 「あらーごめんなさい、心配させちゃったかしら?」

 

 「ちがいますよーセレネちゃんが慌てて走ってきて、何も言わずにフォルトナさんの手を引いて、走るように連れ出したと思ったら、庭の方から笑い声が聞こえたんで、興味深々で来ちゃっただけです」

 「セレネちゃんは泣いたりしてなかったです」

 「ただの野次馬、ついでにウェル君を見に来た」


 ウチの宿屋を定宿にしている、冒険者っぽい3人娘が宿屋と庭先でのバタバタを聞きつけて、気になって来ちゃったみたいだ。話の展開は母さんに任せとこう敢えて攻めるとか意味わかんないしね。


 「あらあら心配かけちゃってごめんね、ウェル君がちょーっと変わった子で面白かったからセレちゃんが驚いちゃったみたいなのよ。」


 「たしかにちょっと変わってますよねーあっごめんなさい」

 「泣いたりグズッったりしてるとこを見たことないです」

 「何かを観察するように人や物を見てる事が多い、もっと見て欲しい」


 「いいのよ、気をつかわないで変わってるのは本当だから」


 おおぉ、意識が曖昧だった生後3か月前はわからないけど、確かにここ数か月は客商売だし、宿屋だし、泣いてうるさいのは好ましくないだろうと静かにするのを心がけてた。

 

 「あああー」(ごはんーの意)だの「あーうー」(やっちまったよ出ちまったよの意)で母さんと意思疎通してた気がする。そうか泣いてグズッっておむつ交換するよな。

 

 まあ仕方ないというか取り返しがつかない。バレないように、赤子に偽装なんてi486DxレベルのCPUしか積んでない僕には無理ですよっとCorei9とかの高スペック転生者にお任せします。っとと話が進んでるみたいだ。


 「・・・んと、不思議なお子さんですよね」

 

 「それでいて銀髪で銀眼、いまは髪の毛が短く細くて逆立ってるけど伸びてくると危険、可愛らしさが愛らしさに変わる、それは恋といっても過言ではない」


 ショタ属性かこの子!!母さんに抱き着いておこう、戦略的防衛を視野に入れた抱き着きだ。


 「んん?どしたの?だいじょーぶよ、このお姉さんは将来ハーレムに入れてあげましょうねー」


 ブッ…母さん、結構飛ばすね。…ああ!これは話題そらしか母さん恐ろしい子っ、…うん乗ってみるか、ステータスまわりの話は宿屋の常連さんとはいえ話す中身じゃないって判断っぽい。会話の流れだと、大人の意図がある程度わかっている、知性の発達が早いまでだね。


 「あい!あーれむ!」(はい!ハーレム!)


 「えええーえぇ」

 「なんと賢い、いいえ真似しているだけ?なのですか?何ですか?」

 「ウェル君はその上、天才間違いない」


 「ね、この子こっちの会話をわかってるような、絶妙のタイミングであーうー言うのよ。さっきの笑い声もそんな感じね」


 母さん選手、驚いたタイミングで、無理やり作戦です、カメさんチームもびっくりだわ。ちょっとこの辺は僕と似てるのかも知れない、さすが親子と言わざる得ない。

 

 そして日向ぼっこ用に庭先に敷いてあったふかふかの毛皮みたいなシートに座って母さんの足に抱き着いている僕を胸元に抱き上げた。うわっ抱きかかえるって動きを入れて思考の拡散を狙ったっぽい自然にやってる風だけど策士すぐる。


(ちなみにお家から庭先の毛皮まで連れて来てくれたのは、さっきから母さんと常連さんを交互にみて黙ったままのセレネ姉さんです、掴まり立ちが出来るので手を引いてもらえば庭先まではなんとか移動できるのです、足なんて飾りです。姉さんの手があれば何処にでもいけるのです、偉い人にはわからんのですよ)


 「ウェル君ーお姉さんたちをたぶらかしちゃダメよ」


 「あは「ははは」っ」

 「是非、お願いしたいところ」


 母さんが頭を撫でてくる、ここは返事無しだな大人の意図が分かるも曖昧にしておくと楽そうだ。


 「ふふふ、ほんと面白い子、あなたたちも可愛がってくれてありがとうね」


 「「いえいえ」、かわいいですし」

 「抗えないなでなでしたい欲求」


 しばらく、母さんに抱っこされたまま3人に撫でられたり頬をつつかれたりした。お客さんーお触りは別料金ですよー。


 「さて、じゃあ私たちはお部屋に戻りますねー」

 「お邪魔しました」

 「ウェル君ハーレム考えておいて」


 さすが常連さん、母さんとの距離感とコミュ感が絶妙だ。話の切り上げ時ってわかったんだろうな異世界陽キャのコミュ力すげーな、そして最後の子、君ずっとブレないね。


 「はーい、心配ありがとうね、今日はお休みなんでしょ、お洗濯ものとかお手入れとかちゃんとしておくのよー」


 「わかりましたー」

 「わかりました」

 「ぬかりない」


 ふう、危機回避!常連さん達は宿に去った乗り切った。

 

 家族までならステータス出していいかなんて考えてやったら大事になりかたけたわーつらいわーびびったわー、隠してバレる系主人公がなんちゃらとか考えた僕、まんまやっとるやんけアホかとバーガーや。


 「さて、ウェル君。あなた話してる事わかるのよね?」


 「あい!」


 「あうーあう!」(ステータス!意思疎通説明付きで出して)


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意思疎通(異なる言語を扱う知的生命体や知性を有するものの言語を理解し会話が可能)

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 「なるほどねぇー、このスキルで理解してたのね、じゃあもっと子供の頃から大人の話を聞いていたのね。賢いのもそのせいかしらね」


 「あい」


 「そっかそっか教えてくれてありがとうね、じゃあちゃんと教えなきゃね、ウェル君?ステータスは出しちゃうと他の人から見えちゃうから、今度からはお家で誰も居ない時に出そうね」


 「あい!」(ステータス消えてっ)


 「さっき、セレちゃんにもお話ししたけど、他の人は5才になって教会に行かないとステータスは出せないから気を付けてね、お母さんからの注意はこれだけよ」


 「あいっ!」


 うわあ、母さん器でっかいなぁ受け止めてくれるんだ。母は強しとか母性とか愛情とかあんまり前世では感じたことなかったけど、こうやって当たり前にあるがままを受け入れてくれるって幸せなんだな。


 「おかーさん、ウェル君なんか変になってなーい?だいじょうぶ?」


 「うん、大丈夫よーウェル君は、人よりおませさんなだけなのよー」


 「おませさん?」


 「そうよ、他の人よりちょっと早く大きくなるだけよ」


 「だいじょうぶならいい」


 セレネ姉さんも4才にしては、十分賢いと思うけど、僕の面倒を見てくれるし、今回みたいな時に大人の会話に割り込んで我儘いったり、なんで?なんで?攻撃しないし、抑えるべき大事なとこは確実に確認をとるし(今回は僕に問題は無いかってとこ)すごいと思う。


 「それじゃお日様も大分強くなってきたし、お家に入ろうかー」


 そう言って母さんは僕を片手で抱きながらセレネ姉さんの手を引きわが家へと向かった。


 そうこうして今は真夜中、僕は目が覚めてからの反省タイム。今日は母さんのファインプレーで庭先での騒動は収束を迎えたんだけど、ぶっちゃけ異世界小説で読んだことのある主人公達みたいに、夜の寝室や一人を見計らってステータスを見た方が良かった気もする。


 母さんが受け入れてくれたから無事だけど神殿に預けられるとか、忌子として捨てられるなんてのはありえる話だったと思う。宿屋の常連さん達への情報漏洩も防いでもらった。

 

 なんか転生しても子供っぽいなぁ、って母さんの子供ではあるんだけど、考えがまとまってないけど、なにはともあれ母さんとセレネ姉さんの愛情に感謝して健康に明日を生きていこう。

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