第91話 刺客7
覚悟が決まった疋嶋を送り出すため、脳内マイクロチップとタカマガハラの連携を開始した。管理室にある大型コンピュータと接続し、真田の時と同様にリアルワールドとの通信を行う準備を進めていた。
しかしダイブする疋嶋がいくら片割れとは言え、そこに優待的な権利はなく、一人のユーザーであることに変わりはない。
ログインすると同時に管理者権限を持つ疋嶋から攻撃を受け、何もせぬまま無駄死にとなることも十分に考えられる。この策は科学的根拠など一つもなく、あまりにも盲目的な行いであり、士錠の希望的観測であった。
しかし、命を掛けた覚悟を削ぐような悲報が研究員の口から発せられた。
「タカマガハラへのアクセスが何者かによってブロックされています……」
「どういうことだ!」
小泊が上ずった声をあげた。
「疋嶋さんのアカウントをシステムが拒絶しています」
「同じアカウントが二つ存在するからか」
疋嶋がそう言うと、野島がすぐに反論した。
「真田さんの診療所でログインした時は可能だったのに、やはり同一のアカウントが同時にログインすることはできないのかしら」
「そんなことはありません。今の疋嶋さんのアカウントとあの管理権を奪った疋嶋さんのアカウントは全くの別物です。そもそもタカマガハラは脳を介したアプリであるため、同時アクセスだろうが無かろうが同じアカウントと言う概念自体が存在せず、仮に存在したとするなら、それはシステムエラーとして処理されるでしょう。そのため仮に同一のアカウントだとするなら、以前のログインの時点ではじかれるはずです」
「つまり、今回は故意的に俺をシステムが拒絶しているということなのか」
「いいえそれだけではありません」
違う研究員がさらにそう言った。
「いま、デモアカウントを制作し、アクセスを試みたのですが、こちらもログインが拒絶されています」
その発言に付け足すように研究員が続けた。
「まるで私たちがナンバーズエリアに向けて敷いたマイクロチップを使った防壁のようなものが、今度はハコニワ全体に張られています」
「まさか疋嶋さんがまたクラッキングを……」
小泊が歯を食いしばりながら言った。
「いや違う……これは外部からのクラッキングだ」
士錠がそう言って、皆の考察を沈めた。
「外部? それってあたしたち以外にこの事件に関わっている人。それもあちらの陽介陣営の人がクラッキングをしているっていうこと?」
野島の要約に士錠が頷き、そのまま続けた。
「なぜ、ナンバーズエリアを消失され、生き残るための逃走経路を失ってまでも何も行動を起こさず、じっと黙り込んでいたのか。それはつまり自分の構えている城、ハコニワに絶対的な自信を持っているからだ」
「しかし、この状況で疋嶋陣営につく人なんて……」
小泊が視線を流しながら言った。
「それが居るんだよ、一人だけ。そしてその一人が疋嶋君にとっての生命線だ。内部と外部の協力の末、堅牢と化したハコニワ。つまりその外部の協力者を止めることが出来れば、その外壁も崩れ去る」
士錠は目の奥を光らせた。
「所長はもうその犯人の目星がついているのですか」
小泊が目を丸くして質問した。すると士錠は顎を撫でながら答えるのだった。
「ああ、ついているよ。それにもう手は打ってある」
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