第142話増産

商業ギルドを後にした私はその足でパン屋さんに向かった。

 大通りから外れ少し入り組んだ道を歩く。

 この辺は住宅が多いのか、開かれた窓から子供の声や母親の声などの生活音が聞こえてきた。

 そんな住宅街の一角にあるパン屋に入る。


「いらっしゃいませ!」


元気な声で声を掛けてくれたのはこの店の奥さんだった。

 

「嬢ちゃんじゃ無いか、どうしたんだい?」


入って来た客が私だと気づいた奥さんは、少し目を開いて聞いてきた。


「今日の売り上げで、100個が直ぐに売り切れてしまいましたので、パンを増やして貰おうって思いまして」


私がパンの増産をお願いすると奥さんは納得した顔になり。


「分かったよ、まあそうなると思っていたよ、幾つ欲しいんだい?」


奥さんは肩を竦めながら数を聞いて来たので。


「200個でお願いします、たぶんそれで足りると思います。

 それ以上になると、私達が作るのが難しくなってきますから」


私が数を言いながら理由を教える。

 奥さんは数を聞いて頷き「明日は200用意しといてやるよ」と胸を叩き了承してくれた。


私はお礼を言い、パン屋さんを後にする。

 夕日に染まる町を眺めながら、これからのことを考える。

 カツサンドを売り出してるけど、毎日カツサンドはさすがにキツイわよね。

 せっかく注文してくれているギルドの為にも、もう1品か2品作らないといけないわね。

 今作れるとしたら、ハンバーガーとトマトソースは作れるからナポリタンドックかしら?

 ハンバーガーはパテになるハンバーグがウルフ肉でも作れるか、試さないといけないわよね。

 ナポリタンドックは、麺を茹でる鍋と炒めるフライパンが必要になって来るわよね。

 両方置くとなると今の屋台だと広さが足りない。

 ここはハンバーガーに絞ったほうが良いわね。


私が考え事をしながら歩いて居ると、いつの間にか孤児院に付いていた。

 一度考えるのを切り上げ、コテージに入ろうとした所で庭から声が聞こえてきていた。

 そちらに回り込むとアベル達が帰って来ていて、アトムくん達と一緒にウルフを解体していた。


「ようお帰り、今日狩れたウルフの数は3匹だ。

 本当は後2匹いたんだけど、肉まで持ってくるってなると持ちきれなかったから、そっちは昼めしにした。

 だけど、マリアが居るといないとじゃ、報酬も食事もガクンと落ちるな。

 今まで普通に食えてたウルフ肉が臭くて食うのに苦労したよ」


私に気付いたアベルが近づきながら話しかけてきた。

 アベルの愚痴を聞いて、確かに血抜きしただけのウルフ肉は臭かったなと思い出していた。

 でもアベル達は私のせいで舌が肥えてきたのかしら、そうなると食べれるものが少なくなっちゃうのはかわいそうだから、今度私が居なくても作れるウルフ肉の料理考えて上げないといけないわね。


アベルの愚痴を聞いて色々考えている間に、ウルフの解体が終わったみたい。

 解体をしていた場所には、ジェフくんとキャサリンちゃんもいた。

 解体を終えた皆は、ウルフ肉を持って私の所に集まって来た。


「マリアさん解体終わってますよ、肉の保存お願いします」


アトムくんに言われて、私は解体された肉をストレージにしまい、3匹分のお金を代わりに出しアベルに渡した。

 お金を渡されたアベルは、そのお金を4等分に分け、マーナとジェフくんキャサリンちゃんに渡した。

 ジェフくんとキャサリンちゃんは、嬉しそうに受け取り懐に入れていた。


「皆お疲れ様、夕ご飯はまだでしょ食べていく?」


私が夕飯に誘うとアベル達は嬉しそうに声を上げ喜んでいたが、キャサリンちゃんだけは申し訳なさそうに眉を寄せどうしようか考えているようだった。

 そんなキャサリンちゃんに私は近寄り。


「どうしたの?何か困りごと?」


私がキャサリンちゃんに質問すると、キャサリンちゃんは少しの間躊躇ったように口を開閉してからポツリと呟いた。


「あの・・・母と妹が待っているので夕飯は貰えません」


キャサリンちゃんの呟きを聞いて、私は頷き。


「なら持って帰れるもの作るから家族と一緒に食べて」と声を掛けるとコテージに戻った。

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