発覚した現実
──カミュに囚われてから数日。
唯香は、まるで獄囚のような生活を強いられていた。
与えられるものには、何ひとつ不自由さは感じなかった。
しかし、それはあくまで衣食住の上でのことであって、言動的には制限だらけだった。
…まず、カミュの私室を兼ねる空間から、外に出ることが許されない。
唯香は、カミュの隙を見て、何度か外に出ようとしたが、そのたびにカミュに気付かれ、阻まれていた。
…足があるのに、行きたいところに行けない。
その苛立ちともどかしさは、羽があるのに檻に囚われた蝶のそれだった。
外に出たい。
“…外に…出たい”。
いつしか唯香は、そればかりを強く考えるようになっていた。
…そうして、更に数日が過ぎていった頃。
「…え…」
唯香は、自分の体に違和感を覚えた。
今までに一度も感じたことのない…例えようのない“違和感”だ。
「…なに…?」
呟いて、違和感を覚える場所…下腹部に目を落とす。それを待ちかねていたかのように、その部位が疼いた。
…その様子を傍らで見ていたカミュは、視線を逸らすと、こう呟いた。
「…お前は気付いていなかったようだが…
どうやら、子が出来たらしいな」
「…え…」
唯香は呆然と、カミュを見やった。
この事実が唯香の頭に浸透するまで、しばらくの時間を要した。
「…こ…ども…?」
「そうだ」
カミュが、はっきりと頷き、唯香に近寄った。
…紫の美しい瞳を、唯香に落とす。
「お前の体内から、強い魔力を感じる。…それも…ひとつではない」
「…えっ…!?」
唯香は驚愕に目を見開いた。
「…まさか、双…子!?」
「…そのようだ」
カミュは頷くと、近くにあった窓へと歩を進め、そこから外を眺めた。
対して、唯香はただ呆然と立ち竦んでいた。
…話を聞いても、それを事実として受け入れることを、どうしても脳が拒んでいた。
(…子ども…!?)
唯香は、震える手で、自らの下腹部を押さえる。
別段、出てきたり、特に目立ったりしているわけではない。
なのに、何故…!?
どうして…!?
…何故、子供なんか…!
「!いっ…、嫌ぁあぁあぁぁあぁっ!」
ヒステリックに喚いた唯香は、いきなり突きつけられた厳しい現実に混乱し、錯乱した。
確かに、自分にも責任はあるけれど。
望みもしない子が、自らの胎内にいる。
…そこで確かに、息づいている…!
「!…」
思いあまった唯香は、近くにあったテーブルへと走り寄ると、その上にあったガラス細工の水差しを、意図的に砕いた。
その音にカミュが反応して振り返ると、唯香は虚ろな表情のまま、その破片を自らの手首に押しつけていた。
…それを引けば、すぐにでも楽になれる…
唯香はそれを分かっていた。
…しかし。
カミュがそれを止めた。
魔力を使い、唯香の手の動きを即座に封じる。
それに気付いた唯香が、次の行動に移るよりも早く、カミュは唯香が手にしていた破片を取り上げると、そのまま床に投げ捨てた。
…その時初めて、唯香が大粒の涙を流した。
「…なん…で…!」
そう言ったきり、唯香はその場に崩れ落ち、泣きじゃくった。
しかし、カミュは声をかけることもなく、じっとその様を眺めていた。
その視線が、ひどく自分に突き刺さる。
…唯香はただひたすら、泣くことしか出来なかった。
しかし、このまま泣いていても、この現実が変わるわけでもない。
慰めの言葉がかかるわけでもない。
唯香はそれに気付くと、弱々しくも気丈に立ち上がった。
すると、カミュが空間から外へ出ようと、唯香の側をすり抜けた。
それに何となく嫌な予感がした唯香は、服を掴むことでカミュを引き止める。
「!…ま…、待って! カミュ、どこへ行くの!?」
「…知れたこと…、この件を父上に報告しなければな」
「!…やめて!」
唯香はカミュに縋り、懇願した。
それに、カミュは冷酷な視線を向ける。
「…例え戯れに出来た子でも、俺の血を引いていることには違いない…
報告しないわけにはいかない」
いったんは言葉を切ったカミュも、ふと気付いたように先を継いだ。
「また自殺を図られては困るからな、お前の手は当分そのままにしておこう」
「!」
つまり、魔力で自由を奪った形に留めておこうというのだ。
これには、さすがに唯香の表情が青ざめた。
…縛られる。
囚われる。
そしてまた…!
「…も…う…、嫌…!」
…唯香のその目からは、再び涙が溢れ出した。
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