#22 不信と不安が募る中で色々と事態が急変しそうだけど知る由は無いよね
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――小さい謁見の間・・・白亜の大理石の床に、紺碧のカーペットが敷かれ。その上に漆黒の姿の二人が入る。
――黒騎士殿と黒魔導師殿だ。数歩歩み寄り、私の元へ訪れ跪拝を行う・・・。だが兜と仮面はとらない・・・。
「・・・侯爵様やお母さまの古いお友達ですか・・・」
「ええ・・今回の大会にどうしても参加したいと自ら志願した者です・・・この者達には過去、色々助けられた『恩』があります。今回の一件も・・・」
――寡婦の娘の言葉に答える、本来なら無礼ともいえる所作ではあった・・・。
――真っ黒い革張りの鎧に金淵の装飾・・・。全身黒ずくめの騎士は兜をしたまま跪拝し顔を上げる。後ろには黒装束の上物のフードマントに鳥仮面をつけた魔導師が跪いている。
「貴方達・・・その装備は・・・いつ」
「ハッ・・・グランシェルツの時にある方を助けた際に・・・助力と称して見繕って頂きました・・・腕のいい魔導師と鍛冶屋は事欠かさなかったために・・・・」
「あるお方・・・とは?」
――私もその身なりの出所を答え。その答えに寡婦が問う、だが黒騎士は首を振って丁寧に断りの言葉を述べる。・・・ふと、その娘が彼らに質問を投げかける・・・。
「貴方達・・・どこかでお会いしませんでしたか?」
――鋭い・・・それは身近にいるものと似た気配があったのだろう・・・黒魔導師が咄嗟に答える。
「ヴィラ・ヴィギュネィ・ヴィシャ姫様・・・私共々とはここでお会いするのが初めてで御座います。」
――丁重な返し、それ以降一切彼女は口を開かない・・・。それに代わって私は言葉を発した。
「今回の働き、よく通してくれました・・・・しかし私たちの目的にはまだ問題があります・・・」
「・・・幸い、決勝トーナメントは相手は獣人のガジュラと相対します・・・。」
――そして、寡婦が続けて述べる・・・。仮面の二人は小さく「フッ」と声を漏らした。あざとい寡婦と娘の耳がピクリと動く。
「少々残念ですが・・・ネージュ様の計画の為・・・」
「私共々・・・必ず・・・」
――貴方がたにはつらいでしょうが・・・必ずや全うしてくれるでしょう・・・。
「よろしくお願いします・・・黒騎士殿・・・もしもの事があれば・・・黒魔導師殿」
――二人は顔を上げて、頷いた。
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――残った重鎧士はこの一体のみ・・・。一体は原型を残してるが異常な状態になっており、もう一体は完全に破壊されてしまった・・・。
――なんてことだ・・・こうも私の計画が崩れるとは・・・
「大丈夫です・・・ガボネ・ガボンネ伯爵様」
「三又?!いつの間に?!」
――この保管倉庫に入って来れる奴はそうは居らん・・・黒襤褸切れの怪しい装束・・・。その禍々しさは闇にも溶ける程の虚ろな気配を持っていた・・・。
「伯爵様・・・申し訳ありません・・・私のミスでこの様な事態にまで・・・」
「ぬぅ・・・貴様とは長い付き合いだ・・・多少のミスは致し方があるまい・・・。」
――奴は暗殺のプロ・・・下手に起こらせるとこっちの身が危険だ・・。
「ありがとうございます・・・弁明の代わりに・・・このようなモノを拵えました・・・我らアサシンギルドでも秘蔵の呪物で御座います・・・。」
「呪物・・・だと?」
――奴は襤褸裾から伸びた節くれの掌に入っていた箱を開ける・・・。それは真っ黒い石だった・・・。
「これは?!」
「アサシンギルドの中でも我ら一派が作り上げた秘蔵の石・・・コレを「重鎧士」に取り付ければ・・・」
「取り付ければ?」
――儂は聞き返す、口元が緩み笑みを浮かべて口を開いてこういった・・・。
「この大会を制覇する事ができるでしょう・・・さすれば・・・貴方様の計画も・・・順風になること間違いはないでしょう・・・」
――アサシンギルドが何故このような術を持っているのか・・・まぁいい・・・今はコレからの勢力確保のための橋頭堡を築かねばならん・・・
――なりふり構ってはいられん!!
「そうか!!貴様との長い付き合いだ・・・お前のこの一計・・・乗らせてもらう!!」
「重鎧士の主にも知られず・・・鎧の中に取り付ければ・・・負ける事はありませんぞ!!」
「そうか・・・分かった!!儂自ら備えておこう!!」
――必勝の策・・・!!!
――あの化粧臭く淫靡な淫獣寡婦共は裸にして大衆の前で晒し者にしてやるわ!!・・・・落ちぶれていく様が目に浮かぶ・・・・。
「くくく・・・・ひひひひひひ・・・・・はーーーーーーーーっはっはっはっはっはっ・・・・!!!!!」
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四日目のトーナメントはあの黒騎士が優勝し決勝トーナメントに勝ち進んだ・・・。中には黒騎士のあのやり方を見て棄権をする者も現れ、初戦一回戦の遅れを取り戻す形で試合は進んだ。
とはいうものの・・・殆ど茶番染みたモノでガスが抜けたビールの様な内容だった・・・。腑抜けすぎてみる気概が無いもののそこそこ盛り上がっていった・・・黒騎士の姿以外は。
『で・・・ネイア姫・・・大丈夫?結構な距離だけど・・・』
その夜、選手専用の客室にて俺はネイア姫と思念魔法を交わす。
思念魔法を見聞きしたネイア姫がどうも例の黒装束と交信したらしい・・・彼女もミスティアより劣るものの、結構な距離ながらクリアーな会話が出来た。
『はい・・・大丈夫です・・・しかしミスティアから言われて驚きましたが・・・実際行うとなんか変ですね・・・』
『ああ・・ウン・・・確かに・・・』
言葉選びに気遣う・・まるでスマホで会話している気分だ・・・。
『あの魔導師の方もミスティアから聞いた黒騎士と似た異様な声色でした・・・正直驚いてしまって』
何でも黒魔導師の会話相手はネイア姫だけだったらしい・・・しかしミスティアまで声が届いたのは・・・所謂混線に近い現象と直感した。
『憶測だけど君が中継の役割を果たしてミスティアまで届いたんじゃないかと・・・』
『中継・・ですか・・・』
『う~ん・・・ミスティアの魔力がそれだけ・・・って事だよな・・・』
思わずミスティアの秘めたポテンシャルに驚きを隠せなかったが・・・それは程々にネイア姫からの本題に移行した。
『実はこちらでよからぬ動向を関知しました・・・話す機会が皆無でしたので・・・念話越しで・・・あの黒魔導師は私達へ伝えてきました・・・三又と言う元アサシンギルドの一員・・・』
『三又・・・・?』
俺は聞き返した・・・そしてその男は既に亡くなっており、その遺体をネージュ様の息のある者達が確認されていると言う。
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