#8 物事は常に流れているから向こうもどう動くかわからないよね



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前日は騎兵局カリスの元、日程を立てた。

目的地の城塞都市までは一日もあればたどり着けるらしく。準備期間に一日設ける事になった。

俺は、ルイーン邸には事の顛末をしたためた手紙を送り。ギルド街道の近隣にある安宿で一泊する。


翌朝、総合ギルド本部。

ギルド街道の中でも一番大きな建造物。古い建物に手を加えたそれは、年季の入った建物で、威厳と厳格な印象を持っていた。


大きな出入り口の柱本に癖っ気の強い髪と、金髪ポニテの騎士が見える。

「お?きおったきおった・・・」

「まさか、騎兵局が尖らせている事案に首を突っ込むとはね・・・」

「・・・教官殿たちが来たって事は・・・」


察しがついたマルス伝手で聞き、こうして待ち伏せていた様である。


ともかく、ガレオン局長から言われたギルド証申請書、報奨金受取の書類を提出しに向かった。


待ち受けロビー内には物々しい格好をした冒険者ギルドの加入希望者から、一般人の子供が一般証の受け取りする姿、商人や役員らしい男が書類を脇に抱えた依頼申請が見える。

奥にある傭兵や冒険者ギルドの加入者達が入っていくとそこは鍛錬所と明記した立て看板もあり、設備は相当充実している。


総合受付のカウンターに身分証代わりのエンブレムシード、申請書類一式を提出する。受付の地人族のオッサンが逐一確認入念に確認した後に、上役と相談した後。

時間が掛かる旨を俺に伝え、エンブレムシードと番号票を渡された。


総合ギルド本部内にある、武骨なテラスで時間を潰す事にした。最初はシャリーゼとクシュリナ教官に騎兵局でのやり取りを伝えた。

やはり感想は白耳長との交流を知って驚いた教官。サークを知っていたシャリーゼは首をかしげるリアクションだった。


そして事件の関連性を知ったクシュリナ教官ボヤキ交じりに話し始めた。


「・・・まったく・・・『春季休暇』初日から騎兵局から連絡が飛んできてさ。一連の魔銀石関連でね、うちの学徒が関与してるのは薄々感づいていたけど・・・」

「しかし・・・それ以上に『赤霧のジョー』・・・彼もか・・・因果ですな先輩・・」


「奴の事を知っていると?」

俺の言葉に彼女たちはお互いを見合わせ、そして頷く。


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——前日の騒ぎで『赤霧のジョー』まさか奴が打ち損じた・・・その晩ことだ・・

——帰って来たジョーの一言は驚くものだ・・・。


「あの餓鬼はただモノじゃない・・・あれだけ特徴的な容姿をしている・・・調べてみろ・・絶対に出てくるはずだ・・・。」


——ぐぬぬ・・・こうも大金叩いて雇ったのに・・くっそぉおお!!どいつもコイツも虚仮にしやがってぇ・・・落ち着け・・落ち着くんだ・・・万が一の事を考えれば・・・ガビー共の情報網では当てにならん・・・

——ギルド総本部で働いてい奴が居たな・・・俺の元から離れたとはいえ。飲み仲間として付き合いは続けている・・・そいつに聞いてみるか・・少ない駄賃だが金で情報は買える・・・。手痛い出費だがな


——その翌日の昼の事だ・・・。

——奴は儂の部下だった奴、今ではすっかり足抜けして今は堅気になっちまって。何の因果か、ギルド総本部で事務員を務めている。そいつを裏路地にある息のかかった酒場に呼びつけた。ギルド事情として必要な情報収集として、情報源として働いてもらっている貴重な人材だ。


「顔に眼帯と傷・・・あぁ・・ひょっとしてレイグローリー同盟学園に通っている学徒だな・・・今日の朝来たぜ?」

「有名なのかい?」

「有名も何も・・・奴は規格外ですよ・・・殆どのギルド上層が目を付けてやがる・・・噂じゃぁ・・アマチであの汚職の征夷大将軍のジーベルを無理やり魔法で吐かせたとか・・・」

「眉唾じゃねーか・・・」


——奴は身振り手振りで話す。その話は耳を疑うモノばかりだ。しかも奴は事務員のポジでも色々と情報が浸透しない部署に務めていたから又聞きの噂が肥大化したんじゃないかと勘繰ってしまうぜ・・・。


「旦那・・又聞きの噂は此処までっすわ」


——そう言って奴は向きなおす。


「こっからは、うちの職場のホントの話っすよ?・・・奴はドーニンドー商会の大元、ルイーン邸の食客でね。こっちに来た間際に弩豪牛を一人で10体近く打ち払た猛者でさぁ、その際の商家の救助もこなし魔法もしたとか・・・でね、昨日の騎兵局から彼への未申請分の魔獣褒賞金額が軽く見積もっても金貨5000枚ほど・・・財政科の面々が右往左往の大騒動だったんですぜ?」

「な・・ドーニンドーだと??!金貨5000枚ぃ?」


——ドーニンドー商会・・・総合ギルドでも強い影響力を持ち。元はオマリー・アルバーから乗っ取った有名な商人・・・。

——噂では、オマリーを薬物で殺したとか・・・一騎打ちとか・・・変に情報が錯綜しているが・・・奴とあの餓鬼が繋がっていたのか・・・しかも金貨5000枚って・・・。


「コイツは今日の今朝聞いた話ですがね・・・」

「なんでぇい・・・もったいぶらずに話せよ?」


「ほら?網の目のオーディーン領土を知っていますか?」


——急に藪から棒に・・・何を言い出す・・。


「あぁ・・・知っているとも・・・。それが急にどうした?」

「あのボーヤは、なんでも『死の道』って言う通りを渡って来たそうでねぇ。その土地にいる白耳長とも逗留したとかなんとか・・・コイツは噂程度ですがね」


「!!!・・・・白耳長の元で逗留?!」


——それはとんでもない情報だ・・・俺は奴に金貨を一枚投げた。奴はビックリしたが。それを余所目に俺は酒場から飛び出した。


——マズいぞ・・・連中に知れたら事だ・・・。オーディーン領内のあの採掘現場を知られるわけには・・・・いかん!!


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——『赤霧のジョー』・・・昔は傭兵ギルドで『千人兵』まで上り詰めた男。

——それ以前は何をしていたか?私はそれをレージ君に話し始める。


「『赤霧のジョー』・・・こと、本名はジョー・ナトゥーラ・・・彼は私やシャリィと同じ元グランシェルツ騎士団の王宮騎士親衛隊だった男よ」

「教官とシャリーゼさんと同僚・・・」

「同僚ではあるがクシュリナ殿とは後輩でな、私の先輩でもあった。」


——シャリィが補足する。そして奴の説明の補足を更に付け加える。


「奴は、市民出身のたたき上げでな。孤児院育ちの騎士だった、殆どの褒賞を孤児院に費やしていたのさ・・・。」

「あの頃はまだ孤児院の実態をつかめて居なくて、スフィア・アーツほど苛烈でもなかったが・・・。」


——なんせ、ミスティアの一件を汲めば。状況的に察しが付くだろう、察しの良すぎる奴だが。物わかりの良すぎる奴は危険視されるモノだ・・・。

——実際今の奴と立ち会った、彼は闘い方に疑問点を指摘した。


「・・・あの戦い方は騎士っぽくないな・・・。」

「うーん・・・戦い方・・・話を聞くと左腕が義手となっていると話したでしょ?・・・実は彼の利き腕は左よ・・・。」


——一息入れて言葉を続ける。聞けば蛇腹のように伸びて距離を詰める。逆手の西方の技、毒を盛った暗器の数々・・・。昔は東方の正当な使い手だったが・・。


「でね・・・私とマルスのダンナが居た頃は、東方の左利きの騎士として知れた奴でね。・・・けどある魔獣との戦いで左腕を失った。そして、その魔獣の正体は今でも分からず仕舞いだ・・・。」


——腕を組んで考え込みながら話を続けた。


「彼はそれを機に辞めて。数年後に傭兵ギルドで名をあげる様になったのは驚いたもんさ。どんな修行をしたのか見当もつかん・・・。元々素質もあった故に、型を完全に変えたのだろう・・・」


——ゆっくりと、テラスで出されたカップを飲み干して私はレージ君に忠告する。


「『ゲスノズ商会』と『赤霧のジョー』がつながっている以上。放置できない・・・それに『ゲスノズ商会』の拠点だと思われる場所が幾つか見つかっていてね・・・しらみ潰しに捜索するつもり・・・奴の腕は確かだからね・・・」

「レージ殿は、オーディーン領内の捜索を率先してほしい・・・ナトゥーラ先輩とは会う事は無いと思うが。魔銀石の事で何と掴んでほしい・・・。」


「わかりました・・・オーディーン領内の白耳長との説得次第ですが・・・やってみます」


——彼は後日、オーディーン領内へ向かう。彼の他にもカリスとダルダ、ハルーラと言った面々も同行するのだ。

——しかし、私達の行動が完全に後手である事を知ったのはしばらくたってからの事であった・・・。


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