#7 思いをはせるのは俺だけでなく皆も色々考えるんだよね
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初日の授業から数日後・・・。
その日は騎兵学科での授業の一環だった。本棟に存在する『魔獣標本室』と呼ばれる部屋で大陸中からの魔獣が剥製化、展示されていた。多種多様な魔獣の個体の詳しい説明が展示されていた。魔獣の出自は未だ不明ながらも、人を襲う事を旨とした個体種である事。異常な魔脈を誇る事、そして何よりその魔脈を駆使した身体の強化を促していると言う事が知られる。
「すげぇ・・・」
「こんな魔獣見た事がねぇ・・・」
「こんな大型魔獣、初めてみた・・・」
俺もこうやってマジマジと考えた事は一度もない。
レイグローリー育ちの面々は、熊・虎・猪・牛と言った。大型魔獣に目を奪われていた、その剥製は一際大きくも威圧感があり。彼らすれば、目玉と言えば目玉なんだろう。
俺もそんな面々の様子を横目に、凄い顰めた顔で思い出深い一体で立ち止まった。そんな俺をネイア姫が声を掛ける。俺の視線の先を向けたのは『長爪猿』
当時はまだ未熟だった俺からすれば、ちゃんとした個体を見るのは初めてだった。
「これ・・・この爪痛そうですね・・・」
「実際痛いよ・・・コイツ。目を狙って来るからな・・・」
「え?」
ネイア姫は驚いて声を上げる、その声で皆俺に注視する。俺は気にもせずに話を続ける。
「初めて戦ったのがコイツでさ、サイズは・・・この剥製の一回り小さい奴。んで、戦って倒したんだけどさ・・そのまま、熱だして気絶しちゃってさぁ・・・」
己の過去話を物笑いにし自笑気味に話す。顔の傷を撫でながら、顔の傷の由来をネイア姫に暗に伝えた。
「いくつの話ですか?」
「9歳だったかなぁ・・・いやぁ・・そんなにスマートな話じゃないよ・・。」
そんな話を聞き耳立たせた他の同僚達が、ヒソヒソ話で話し出す。
「マジかよ・・・9歳で?中型魔獣を?」
「はぁ・・うっそだろぉ?どれだけ話盛っているんだよ・・・」
「長爪猿だぜ??そんな個体とどうやって・・・」
「ほう・・・田吾作の住んでいる土地だと色々面白いのが居そうだな?」
カリスが茶々を入れた、しかし構わず話を続けた。
「あぁ・・・あの時はアラヤットの町娘が襲われていたからなぁ・・・必死だったさ・・・魔獣の戦闘って言えば、こっちに来る際の旅で北方地から下る際に熊やら虎やらの魔獣は単体行動だからなぁ・・・厄介なのは・・・」
その個体に指を指した。それを見て皆、唖然とする。
「緑蟻獣ぅ・・・?僕たちみたいな、中等から入学してきた面々なら。最初に討伐する小型魔獣だぞ?・・・此処にいる同志なら、おおよそ最初に相手にする魔獣・・・・ハッ!!田吾作の生まれの土地ではそういうのは出てこなかったのか?・・・まさしく田吾作だなぁ・・・。」
カリスの『田吾作』は妙な誉め言葉のイントネーションを含ませつつ、あきれ果てて言い放った。
大人一人と比べて、やや小さい背の曲がった個体。蟻型を基本とした魔獣って言う定義ずれした個体をマジマジとみる、そしてホムンクルスで作り上げた、偽造魔獣とは異なる生々しい剥製の個体。
『郡を成す個体』に俺は内心警鐘を打ち出していた。
-22-
——クラン
——私、シャクル・ガリーフは不満だった・・・。「勇者の子」レージ・スレイヤー、初日の模擬戦ではフォローメインで本領が発揮させなった事を・・・彼の実力を見誤ったと言えばいいだろう・・・。しかし、それに打って変わって。ミスティア・ミロス君の逸材の能力をこの目で見た時は胸が晴れるような気持だった・・・。
——それは彼女の過去を知っているからこそ、煮えるものを覚えたからだ・・・。
「やぁレージ君、ちょっと話したいことがあってね・・・例の偽勇者の子の一件で話題になった・・・ホラ、飛び級で入ったミスティア君の事でね・・・。」
「偽勇者?・・・ええっと・・・」
「ああ・・・そうか・・君は知らなかったんだね、私も君の正体を知っている。・・・何、ネージュ様から要請を受けた協力者さ・・・それで、何故連中がミスティア君に執着しているか、教えにね・・・。それには彼女の事を知ってほしいんだ・・・。」
——ミスティア君は彼・・レージ君に酷く懐いている。あんな有能な逸材が優良な種に惹かれるのは当たり前だ。彼ならこの彼女の仄暗い過去を見知ったとしても、それを受け入れてくれるに違いない・・・。
「見様見真似のお茶ですがどうぞ・・・」
——レージ君はお茶を入れてくれた。味は悪くない。
「彼女は本当の事は言えないだろうね・・・、まさか、自分が奴隷施設で生まれた根っからの奴隷少女だなんてね。・・・可哀そうに元来は性玩具の実験台の母から、強制的に妊娠させられ出産・・・偶発的に魔脈と魔眼を生まれながら持ってしまった故に、物心ついた幼少から、徹底的な魔法関連の強制養育の数々施され続けた。封印環まで度を超えた施しを受けながらね・・・。あの子の身体が歳の割に異様な発育を持つのは・・・性奴隷の名残でね、何時までも影を引き攣っているのさ・・・」
「それって・・・ミスティック・アークの国内で?」
——彼女の出自を掘り下げようともせず、話を進めていこうとする。・・・祖国の腐った本性を晒すのは辛い・・・だが・・。
「あぁ・・そうだよ・・・うちの国は根の腐った連中が多く居てね。彼女の事を欲する面々は腐るほどいる。うちの結社『パンドラ』じゃぁ、性奴隷解放に右往左往しているのさ・・・既に性奴隷の管理なんかはひとつ前の国王が撤廃しているはずなんだがね・・・。」
——ピリピリとした怒りを感じる、当然だろう。手に持っているカップから妙な波紋が帯びていたからだ・・・。
「ローレライからも非合法で要請を受ける色欲木っ端な貴族共が未だにコソコソやっているのさ・・・・。ローレライには金も伝手も無い癖に祖国からの違法奴隷を受け取り横流し、金儲けをしている。表向きは国交断絶しているからバレたら大事さ・・・我ら、『パンドラ』はそんな連中を取り締まる結社。・・・アサシンギルド、アウトローの魔導師らが結託してね・・・。私もその一人さ。」
「要はその・・連中が欲しているのは・・彼女の身体そのモノ?」
——私は頷いた。奴らの吐き気を催すような考え方が想像ついてしまう・・・。
「だが・・君と一緒に戦っている所を見て、安心している。親心って言う奴かな?彼女を助けた時よりずっと生き生きしているからね・・・。」
——彼が驚く。少し照れ臭そうにしていながら、彼は口を開いた。
「柳の下のドジョウの様な考えですが、彼女には自身で切り開く術を与えようと思っています・・・。俺は未熟だし、シャクル講師殿にもお力添えを・・・」
——そう言って彼は頭を下げた。ミスティアに魔脈を駆使した身体能力という技能をシャラハ講師から受けていたんだったな・・・。口下手な私は、彼の入れたお茶を飲み干す。そして部屋をでた、大きな仕事を終えた気がした・・・。
——しかし・・・「ヤナギノシタノドジョウ」とはいったい・・・
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——私が講師としてやって来て二週間が経った。
——午前、午後と続いた夜の鍛錬が終わり・・・施設内にある湯殿にて皆湯浴みの中で汗を流していた。
——私、シャラハ・シャラ・ラハは。アルフレッド様からの要請で、『レイグローリー同盟学園』の特別クラン
——方向性としては、ミスティア様以外のメンバー共々。レージ様の経験に基づいて、同じ最高位の封印環を施す事で魔脈を活性化する事で様子見する事になった。
「魔脈の解放を何度か繰り返せば、体が少しずつ馴染んでいきます。」
——流石、勇者の元で修業したネイア様は平然としていたが。獣人である、ヴィラ様は耐性を持っていながらも膝を曲げる程だった。そして、ハルーラ様やダルダ様は肩で息をしていた。
「えぇっと・・・皆さん大丈夫ですか・・・?」
「ミスティアは大丈夫なの・・・?」
「貴女何ともないの・・・??」
——ヴィラとハルーラは、一番体力が無さそうなミスティア様はケロッとしている事に驚いておりました・・・。
「ミスティアさんはお体の負担は大丈夫そうですね・・・。」
「ええ・・・」
——封印環の負荷は魔脈に大きく影響与える、最も大きな効果は自己回復性を伸ばし。その次に自身の身体の強化に関わる、魔法の負荷によるバフやデバフもこの魔脈によって大きく左右される。
——シャクル様からの資料でも、彼女の過去は知っていた。相当異常な過負荷を魔脈に加担し続けていたのだろう・・・。
「ミスティアさんの魔脈は魔眼を持つほどの成長をしております。ですので、今後は無属性安定能力を重点的に行いましょう。」
「え?それはどうして・・・」
「身体の関与と言うのは無属性が主ですから、レージ様の拳打も無属性による身体の強化を重ねております。身体強化の魔法は内性的魔法系統・・・と言う事は・・?」
「あぁ・・・そっかぁ・・・」
——このアドバイスは元々レージ様からの受け売りだ。彼からもし詰りそうなら無属性安定を促す様にしてほしいと言われたからだ・・・。だがこうして話してみると意を得た内容だと実感した。
——しかしレージ様がアドバイスした際のあの青ざめた顔・・・うーむ・・・。勇者の元での修行と言うのは相当、過酷のようです。
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