#6 お姫様で美少女だけど、それでも嫌われるのは理不尽だよね
-17-
とうとう試験も締めに入った。
実技の試験会場はコロッセオから近隣の『決闘堂』へ移動する。
その時に気づいたが、ここに来て異様に受験者の数が減った事に気づいた。
頭に『?』をしながらついていく。
『決闘堂』に続く回廊には、名前が並んでいた。名前も何もわからず、その下には失格と刻まれて。徐々に見覚えのある四桁数字がずらずらと並ぶ。それに気づいて口を開いた。
「ひょっとしてこれ・・・」
「そのひょっとしてです・・・」
「さっきやった例のテストのスコア表とランキングよ。」
「下らん手間よ・・・・でも良いんじゃないかしら?ねぇ?」
電光掲示版の様な機能を持った魔法板がつらつらと並んでいた。ミスティアとクリシュナの言葉が重く。ヴィラは言葉少なげに毒を吐くも、すぐに声高に俺に向けて話しかける。
クシュリナは目に留まった紫のボードの名前に驚きの声を上げる。
「ネイア?あの子推薦じゃなかったの?!」
「クシュリナ教官・・・ご存じなかったのね・・・」
「・・・ネイア姫様は・・・その・・」
「ヴェルソーの魔剣が折れた一件で推薦取り消しし、その推薦枠がヴェルソーが・・」
言葉重くヴィラが口を開く、ミスティアがしどろもどろな言葉で続こうとするが、ヴィラが事情を簡潔に伝えた。
ネイア?ひょっとしてネイア姫の事?ん?ネイア・ネレイド?・・・ローレライじゃなくて・・・?俺の思考はそっちだった。しかし驚いた、唐突に激昂して怒鳴るクリシュナに。
「あんのクッソガッキ・・・・マルスのダンナは一体どうしてた!!??」
驚くクリシュナの問い詰めの末にヴィラとミスティが向き合い、口を開いた。意外な人物の名前がぞろぞろ出てしまい、俺も巻き込んでの顛末を知ってしまう。
-18-
——魔剣をへし折った翌日、ネイア姫、シャリーゼ・シャルルーラを後ろに控えさせ。私が中等学長室の執務机の前に立っていた。目の前には肥え太った狸と狐、横目に赤酒を傾けた腐ったニンジンのクソガキ。
「我が家宝である、ヴェルソー・ネレイドの愛剣、『深淵の黒き牙』をへし折った代価はネイア姫のご推薦取り消しと言う事で手を打とうではないか?のう?・・・そして空いた推薦枠にはヴェルソー殿が・・・」
——学長室の奥のソファーに足を組んでいたヴェルソーはその光景をニチャニチャを笑みを浮かべてその光景を肴に楽しんでいる。
——不服だった・・・いくら何でも、推薦取り消しの上にヴェルソーを入れると言う言うのは暴挙の極みも良い所だ。腹が煮えると言うのはまさに今の感情だった。その怒気に学長とネレイド家の家長代理人、クソガキがピクリと怖気づく。
——ネレイド家とナイアド家のいさかいも此処まで贔屓する学長の考え方に、憤怒を隠さずにはいられなかった。腰元の魔剣を抜いて切り捨ててやりたかった。しかし驚いたのはネイア姫の言葉。
「マルス・ガルガン殿・・・お気持ちだけで十分です。喜んで推薦をお返しいたします。もちろん騎兵学科で受験をさせていただきます。それで折れた魔剣代価が払えるなら・・・」
——私はネイア様の片腕でシャリーゼに目を配った。貴様は何をしている!と・・・。しかしこの馬鹿は自信満々に声を荒げてそうになった。
「ネイア様がお決めになった事、私はそれを信じておりますぞ!!マルス・ガルガン大隊長殿!!見事受験を合格するに違いませんぞ!!」
「私も、なまくら一本で推薦取り消しで全てが収まるなら安い物だと自負しております・・・。それに私自身の能力で騎兵学科を見事修めて見せる所存。今まで家名親の七光りと言われた御身、母ネージュにも安心・・・」
「貴様がぁネージュ様の名をかたるなぁ!!けがれぇ!!貴様も!!貴様の連れも!!俺様の権利で追い出してやるぅ!!タッシッかっぁ!飛び級で入る・・・お気に入りの魔導師も居たなぁ?いつもいる・・・くっっっさい獣人もぉ!!アイツらひっくるめてココカラタタキダッスッ!!穢れも穢れたおっぶつもぉぉおお??ネージュ様の作った聖域カラオイダス!!貴様諸々タタキダスッ!!」
——ヴェルソーの金切り声と赤酒を注いだグラスをネイア様へ投げ飛ばす。ネイア様の顔に赤酒が滴る。・・・・目の色が違う、本当にネイア様か?私ですらゾッとした。シャリーゼが拭う手をやさしく収めさせた。
「姫!!」
——ネイア様は物怖じせず、自らの手袋をヴェルソーの顔面に叩きつけた。
「実技の最終試験は騎兵科受験の方は全員参加・・貴方も『今』推薦を受けた身なら存じていると思います・・・不参加は幾ら推薦を受けた身でも不合格となりますのでお気御付を・・・。今の意味を存じて居ましょう・・・早くご自慢の魔剣を用意しなさい・・・」
——手袋を相手に投げつける行為。それは『すべてを賭けた決闘』の意味だ。予想外の行いに、わなわなと震えヴェルソーは唇をかみ切っていた。ネイア様は失礼と一礼し出る間際に一言。
「審判は其方の方で選びなさいな・・・それと本物の魔剣・・・そして貴方がそれを持てれば・・楽しみです・・ではごきげんよう・・」
——私、マルス・ガルガンもネイア様に促されて部屋から出る。奇声と破壊音が廊下まで届いた。
-19-
「ヴェルソー・ナイアド・・・『深淵の黒き牙』ねぇ・・・ネイア・・・姫・・・」
イメージが沸かない俺は、腐ったニンジンとヴィラは例え、マンドレイクの様な声で耳が痛い人とミスティ、彼女らの表情から察して途方もないマイナスイメージの塊と言うのがよく分かった。彼女らも辛酸を舐められたようだ。トドメのクシュリナが口を開いた。
「ハッキリ言って悪く言うしかないけど・・・狡賢くて手前の学位と保身が第一でインケンでネクラで絶対に女の子にモテない、ああいう男は生徒にしたくない、ていうタイプ、なーにーが『深淵の黒き牙』よ!!魔剣擬きでイきるな餓鬼が!!」
前置きからして擁護の無い、評価と言うより悪口を言い終わる。クシュリナはヴィルソーのネームを見つけると。「クソガキィ!!」と怒号と鉄拳を見舞う。ちなみにヴィルソーのスコアは赤点の『609』赤文字表記。そしてネイアのスコアは『1218』の緑表記だ。
それとなしに、ネイアの名前、そしてシャリーゼと言うテンション高そうなお供の事をそれとなく振ってみた。やはりあの時の姫様だった。だからひょっとしてと前置きをした。
「え?どういう事?」
ヴィラが思いっきり食いついた。ハラキリと介錯の一件を隠し。
俺は事の顛末を話す。『ネイア姫とお供の騎士様が俺の村に修行しに来た子』と説明する。そして俺を見定めて、ネイア姫から来てみないかと誘われて訪れたクチだと誤魔化し。半月前に此処に到着した際、マリスの大隊長から色々お世話になった旨を話した。マリス氏が覚えているかは分からないが・・と。
「じゃぁ、貴方はネイア姫から今回の入学斡旋を受けたのね・・・。」
「ネイア様は色々気苦労が多くて・・・中等部でも酷い贔屓されておりましたから・・・。」
どうやら、ネイア姫の取り巻く状況は想像以上に厳しい環境た。
「マルスの大隊長も知っているとはねぇ・・・あ~元々、私も王宮親衛隊でね。シャリーゼ・シャルルーラは私の後輩・・バカみたいな声で色々空気読まないけど・・結構いい子よ・・・」
そんな話を交えながら『決闘堂』へ入っていく。
黒いドームで覆われた天井に、照明が一面を照らす、青芝で覆っており。
少年漫画の鉄板シチュである、トーナメントバトルの様な円型の舞台が目に飛び込む、決闘台は直径1キロ。更に周辺が青芝生の様なフィールドが広がり。入って来た出入り口近隣は休憩場、軽食、屋台が並んでいる。
一部仕切った場所に腕章は無い者達が居た。中・高等部の学徒、見上げると観客席にも一般客がごった返し。そこは入場料を払わないと入れない、歩き売り子らしい人がうろついている。まるで球場のビールの歩き売りをしているアレに近い。
ちなみにここいらの収益は、全て学院の徴収をしレイグローリ内のライフラインに当てていると言う・・・。
ドーム特有の半閉塞的な空気と振動、そして半端な密閉感が前世の感覚に近い。ちょっとした大学の講堂に似たアレに近い感覚を思い出した。
遠巻きからゴォオンと響いた。
決闘台の向こう側で後衛学科の実技試験が行われていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます