#4 魔剣を抜くことが騎士になる条件では無く、持てる事が条件だそうです


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「用意しました」


ガラガラと台車がやって来る、その上には奇妙なモノだった。

きっちり、鞘に納められた。剣が9本。等間隔に並べ立てられていた。台車を推した兵士は怪訝な表情で俺を見た。

『この中から一本を手に取り、鞘から抜いて見せろ』と言ってきた。意味が分からん・・・。


「ちょっとぉ?!あなたぁっ??待ちなさい!!その試験は・・・」


獣人の女の子が俺が動く度に、騒ぐ。そのお陰で野次馬が出来上がっていく。彼女が騒ぐ意図も、試験の真意を全く理解できず、困惑するも。

とうとう、イラついた試験官から催促の言葉、指示通りに何となく一本、事も無げに鞘からスッと抜いた。・・・が俺は思わず声を上げた。


「なんじゃ・・・こりゃ?」


鈍い。っていうより、濁った感じだ。拵えから素材まで見てくれ、杜撰で握り心地が悪い。っていうか俺が手に取ったものを、何回かふった。妙につっかえる感触を覚える。二束三文の安物か子供の玩具っていう言葉がしっくりくる。


「う~ん・・・なんだこれ?これが魔剣?っていうが・・・」


思わず『なまくら』と言う言葉をグッと堪えた。とりあえず、汚水の河川っていう言葉がよく似合う。神秘的なモノとも、異質なモノとも感じない。理解しがたい現状にちょっとムカついた。


「んんんん・・・・ん・・う~ん・・・これ全部見て良い?」



担当の試験官と獣人娘が大きく「はぁっ?」と声を上げた。

俺は、試験の真意より。気になってしまった。

最初に取ったひと振りを、戻して一本一本手にとっては抜刀し見比べる。一本また一本・・・と全部抜いてみせた。刀身はどれもこれも似たり寄ったりのナマクラ。全部同じ造りだった。


「ええっと・・・アレ?」


えぇ???何この野次馬?

気付くと、獣人の娘の後ろに相当な野次馬が集まっている。指をさして俺の行動のおかしさを指摘しどう言えばいいか解らずあんぐりとした兵士。

「あははははははっっひぃぃ~~~~~~~おなかいたい~~~!!!!」

掠れた濁声の笑い声が静寂を破った、そして思わず俺の息子がママンを求めてしまう・・・声の主は例の面接官だった。


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「ねぇ君何ともないの?ねぇ・・・あは・あっはっはっ」

「え?ハイ・・・え?」

「ですってぇ・・・・ひぃい・・・おなかいたい~~~!!君面白~い!!」


彼女が笑い、獣人娘が呆れた顔。事の騒動が収まるまで、近場の休憩所で話す事になった。


「いやぁ・・面白いなぁ・・・なぁ?・・・ヴィラ」

「・・・クシュリナ教官殿、笑い事ではありませんわ・・・っていうか面接官のお仕事は?」


教官と裸マントの痴女系優等生とのやり取り、教官と言われたクリシュナは『中途編入学して来る希望者はもうおわったよぉ~。ほら騎兵学科って倍率キッツイし、中途編入受験の希望者も雀の涙よ』と軽いノリで言い切った。


あの魔剣適正試験以降、面接担当官・獣人娘の二人とに行動する事になる。


ヴィラ・ヴィギュレィ・ヴィシャと言う俺と同い年のSMケモナー露出痴女は恰好こそは見事トチ狂っているが、性格はまじめドが付く真面目委員長ちゃんで内心驚いた。


「私は、ヴィラ・ヴィギュレィ・ヴィシャ。私の事はヴィラとお呼びになってくださいまし。いずれ騎士なるお方なら、獣人独立国家のヴィシャ家の一子である私をぜひぜひ覚えて下さいませ。レージ・スレイヤー殿、それと先ほどは失礼を・・・。」


一度ため息をついてから、俺の胸に指を押し当て迫った。そこからいきなりキッツイトーンで口を開く。


「ですが・・あの試験を最初に受けるなんて常識外れもいいとこですわ・・・モノを知らないと言う事は罪ですっ!騎士になられる方なら覚えなさいまし!!」


ヴィギュレィの二の腕の腕章は青かった。獣人は魔脈を戦技につぎ込む為、同族の殆どは前衛学科志望なると話す。元来世話焼きな女房な性分らしい。

数少ない騎兵学科の俺と一緒に、斬撃刺突技能ならびに共通の拳打試験も含め、俺の後衛学科系の受験を案内すると言う。

クリシュナからは、彼女は元より幼年より在籍している生粋のレイグローリ育ちで。金狼と言う獣人ながら貴族の家系と地位を持つ特異な家柄の生まれ、この丁寧な言い回しは貴族育ちという。


そして、クシュリナ教官からあの『魔剣適正試験』は全部同じの造りをしており、抜刀し倒れないかのテストだと教えられた。持って倒れたら一発アウト。要は、騎兵学科の受験者は最後の最後に受けるのがセオリー。何故なら滑り止めの別の学科も受けられなくなるからだ。


「まさか全部引っこ抜くなんてなぁ・・・傑作傑作・・・」



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後衛学科系のテストを受けていた。


既に周りの面々が道を開ける・・・・。ヴィラとクシュリナに怯えている訳じゃない。原因は俺。


ズルズルと俺の監視名目で物見遊山でついて来る、不真面目系熟れた美人肉食教官は、事ある毎に俺のドリフを見事大爆笑する。

親切心で案内した、生真面目系ハードコアボンテ嗜好露出痴女委員長は事ある毎に擁護をこの頃は既に放棄していた。


まぁ実際、俺の普段の感覚でやっているつもりでテストを受けるのだが、その基準が実母・エルフィ基準によるものだ、完全にゼロインのパワーベクトルはオーバーテクノロジーレベルと知った。


なぜそうなったか・・・振り返ってみても酷かった・・・。



序ノ口と言われた、『魔力密度試験』。鉄の壺に扇状のメーターがついており、ツボの表面の部分に魔力を密度を高めるとメーターの針が動いていく仕組みだ。俺がやり始めると、アナテクメーターの針が限界値をあっという間に振り切れてしまい、今度はメキメキ変な音を立てて圧縮崩壊を起こし、最終的にビー玉の様な丸い鉄の球になってしまい思い思いっきり空気が凍った。


ちなみに母から似た形の訓練をしていた事を思い出した、の魔力を圧縮した球を渡されそれを維持すると言うモノだった。



会場を騒がしくしたのが『魔力放出測定試験』、パラボラアンテナ状の鍋みたいな奴に向けて。魔力を放出するテスト。

がっ・・・・魔導師達をぶっ飛び、待機していた医療魔導師が出張って見る、無残な同僚を治療し救急搬送騒ぎになってしまった。


訓練方法は母と同じ放出を圧し合うと言う、ぶつかり稽古の様な力技の修練。魔導師と言う知的な世界はこれっぽっちも無い。


で次に、『魔力無属性安定試験』、魔力知覚を施したプレートの上で無属性の力場を生成・維持させる試験だ。維持と計測時間は10分程、一般的魔導師は炎か氷のどちらかに偏る。

左右どちらかに必ず傾く弥次郎兵衛の様な属性表示、魔力の濃度と示す針メーターで表示するのだが。針メーターがマックスまで振り切れて、弥次郎兵衛は無反応だった。

一回目は故障と思われて。機材を全部とっかえひっかえ再テスト・・・合計6回やり直す。ラストはクシュリナさんが笑いをこらえ続けていた。トドメに業者への呼び出し伝令が駆け出す事になった。


母の基準は無に限りなく近い塩一粒位の超極小魔力で無属性を維持させると言うモノ。量が少ないと消滅するからと説明を受けた。


とっかえた理由は、俺も涼しい顔でしていたのも原因だった・・・。この頃から自覚し始めた。



で・・・受付の担当の子が俺を見て震え出した。


項目は『魔力瞬発測定試験』だ。計測方法は縦横2m厚み80㎝程の対魔法超抵抗を施したプレートに、バカでかいグミみたいな緩衝材が支え代わりに置いていた。その横に衝撃値を感知する機材が置いてある。


期待に胸を膨らませる教官を、不謹慎とヴィラが咎める一幕があった。


期待するには理由があった・・・。

実は直前に似た様な形式の『拳打試験』があったのだが。

捻りも何もないパンチングマシーンみたいに純粋に殴るアレ。一発軽く打ち抜いたら。バカでかい風船の割れる轟音がグラウンド中に響いた。グミの塊の向こう側が破裂し。飛び散る破片が観客席に向かってビタビタと、音を立てて落ちていったのだ。

幸い観客にはケガ人が無いものの。皆、目を合わせず避けて行く様になった・・・。


その事もあって、手加減をしたんだ・・・が。

これが仇となった。水風船の様に緩衝材の中身が熱湯化して破裂、原因は拳打と違い魔力には物理の元を震わせる力があり物質が変化。質量が増え外皮からぬるま湯ローションがドロドロと噴き出した。酷く汚い飛沫音と共に流れ出した


側面歩いていた、他の受験者にまさしく強姦魔に襲われたような悲鳴が上がった。


「きゃぁああああぁああああああ!!!ああ・・・・うぅう・・・おぅえぇ・・ん!!ごぼ・・あああ・!!」


「うわぁ!!!大丈夫か・・・」

「レージ君、マズいでしょこりゃ。」

「レージィィ!!加減を学びなさい!!」


尻餅し嗚咽する彼女。俺は咄嗟に眼鏡を拾う、俺は上着と掛けて、眼鏡を渡す。


「本当に申し訳ない・・・ワザとじゃないんだが・・・」

「あうぉぅ・・・・・・私の・・・うえぇ・・・んぶ・・・げほ!!がほ!!ひ・・・ううう・・・」


如何にも文系、如何にも文学少女。中等部の制服って言うのは独特だ。学校から基本装備が支給されている。

ハイネック系のノースリーブのインナーに、腹回りはハーネスコルセット。深いスリットが入った、タイト系のスカートにハイブーツと言う格好だ。

インナーは極薄で谷間から部分、肌と黒い影が見える。胸部の切っ先からトロッと糸が引いている。くぅうんと子犬の様に甘い声を上げ、すすり泣きと呻き声を上げながら、粘液が口内に入っており咳込み舌先から粘液を垂らす様子は。犯罪臭が拭えずクシュリナとは違う毒物とも劇薬にも似たヤバいモノを漂わした。


「すまない・・・ごめん・・・えぇっと・・・」

「はすう・・ううぐぐう・・・がっは・ケホ・・・あ・・・いいえ・・さ・・・さむい・・・」


彼女、怪我らしい怪我と言うのは無いものの。春前のこの季節で風邪をひきかねなかった。


試験会場から彼女を連れ出す事になった・・・・。

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