#5 残された人が悲しむ姿を見るのもつらいよね

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一同絶句した。


扉の前に立っていたのは、アーシュの言葉とは似ても似つかない美少女っていう奴だ。いやマジで、何って言うのアイドル?すっげえ愁いを帯びてる・・・齢不相応な際立った美人さん・・・けどその恰好・・・寒くない?

そして俺以外はみーんな後ろに下がってしまった、何かなんだかさっぱりだった。

逆に彼女とお連れの騎士様はどっかり入り込む。


「ご無礼をお許しください・・・。かつて15年前・・・魔皇竜ゲルニガを撃ち滅ぼした勇者御一行の皆さま。」


俺の視線気にせずに皆に一瞥しながら挨拶しちゃって・・・。


「剣の勇者、ラグナ・エクスバーン様。叡智の魔導師、エルシャ・エルフィーア様。思慮の勇者、アイザック・ザラージャ様。」


変だぞ?皆強張ってる?どうして?・・・・全くわからん?!っていうか何故か皆下がっている・・・、ビビりまくって部屋の向こうまで行っちまった・・・。


「医の勇者、アイシェン・フェイ様。鉄の勇者、ガラム・ガーン様。商の勇者、オマリー・アルバー様・・・。」


オイオイ・・・みんなどうした、完全に固まって・・・。っていうか・・お姫様?何、跪いてるの?ちょっと・・・?ねぇ・・・???変だぞ???


「皆様がご健在と知り、此処まで出向いて来ました。私の目的は、この首を捧げる代価として今一度この世界をお救いの嘆願を為に参りました。・・・お願いです!!我が祖父の行いを知った上での身勝手な嘆願!!その血を持つ私がこの命をささげる代わりにお赦しになりこの世界を・・・・」


彼女は息をのみ、唐突に何処からともなくナイフを取り出す。・・・腹を切るつもりか?!

それと同時に、側近の軽鎧の女騎士が剣の柄に手をかける。マズイ!!突飛な展開に一同遅れている。サークが一番感づいたが、誰よりも距離が遠すぎる!!

「お救い下さい!!勇者様方っ!!後は頼みます!!シャリーゼ!!」

「ハッ!!姫っ!!私、シャリーゼが介錯いたします!!」


ナイフを掲げた両の手、俺は咄嗟に腰に携えた十手を取り出し投擲する。


半ば振り下ろした手の甲にバキンという音が響いた。魔力の帯びた飛び道具は人力以上の精度を発する、手からナイフが離れる。

「あぁっ!!」

大上段からの首切り刀を振り下ろすモーションは始まった。介錯の剣士に向かって飛び込みチャージアタックで突き飛ばす、魔法で飛ばせばよかったか?とてもじゃないがそんな人の意識を奪う程の練度は今の俺では不可能だし。その証拠に吹き飛ばされた騎士が直ぐに立ち上がる。手練れの剣士だ。


「部外者が邪魔をするな!!!」


「うっさい!!目の前で自決?勇者???とりあえず・・・」

一番の鬱憤が入り混じった俺の怒号が響いた。

「せつめいしろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」



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突っ伏したお姫様が激昂し怒鳴ろうとした、が次の瞬間俺の顔を見て絶句する。


「貴方は・・・ひょっとして?先ほど私たちを助けた方では?」


ん?どこかでお会いしました?こんな別嬪さんなら覚えているが・・・助けた?そう言えば・・・。


「ひょっとしてルイーンさんを助けた剣士殿で?」


ぽつりと語る。


「何ぃ・・・確かに・・・その眼帯!!顔の傷・・・おお!!あの時の!!」


介錯の騎士様も覚えていらっしゃる。だが次の瞬間には睨む。俺は気にも留めず、お姫様を立たせようとするも突っ伏す、彼女は顔を床に伏せていた。ん?何で?


「とりあえず、父さんたちが勇者一行ってどういう事?それがさっき話そうとした事と関係があるの?」


その言葉に女騎士と姫様が驚く。姫様が再度顔を上げる。


「なに????勇者の息子殿だったのか?!!!」


父の顔は迷走困窮に困惑と物事の展開が付いていけない様子だった。母さんたちは父さんの顔を見て「あぁ・・・」って顔になる。どうも父さんは筋金入りの脳筋らしい・・・。


この状況下で比較的冷静で説明上手なオマリーさんが話してくれた。その最中に、俺は突き飛ばしたナイフと首切り刀を取り上げ、アーシュに手渡す。

珍しく彼女も動揺している、アーシュは再び突っ伏したお姫様の近くにいて頂戴と促した。え?俺が?・・・彼女の服装は酷く極薄の着衣だった。標高1000mでは自殺行為だ・・・とりあえず俺の厚着の上着をそっとかける。体を震わせていた。


「本当に我々はこの世界を救った勇者の一行です。・・・その旅は過酷を極めました、それは愚王ローレライとそれに癒着する無能ギルド上層と貴族の輩。・・・その一方で貴方の父親達は大罪人と称して、雀の涙ほどの報酬と援助しか払わず。逆に過剰な支払いを要求、国は異様な圧税で我らを苦しめました・・・・。愚王ローレライという男は稀代の低能無能な男でもあり、何より我々一行の面々を目の敵にしていた・・・・。」


「何で・・・?」

実直な疑問だった・・・。口を開いたのは帆立貝の様に突っ伏したままの、お姫さまだった。



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「元よりお爺様は病的な程、自己承認欲求の強い方でした・・・。幼少で王となりずっと甘やかされて育ったのです、そして平民達の勇者様たちへ称賛。それはますます深く嫉妬狂ったもの、更に勇者様に恐ろしい冤罪と圧迫、それを繰り返し。最後の最後に祖父は貴方の家族をどの国にも入れないと言う御触書を諸国に掲げ、勇者様方の居場所を追いやってしまいました・・・・。」


姫様は突っ伏したまま、震える声で吐きつくした。

あぁ・・・自分も身内の愚行を知り、それを自身の罪と重ねて苦しんでいる・・・。思わず近づいてゆっくり背中を撫でる。ふわっと艶やかな匂いが漂う。


「お姫様がこんな薄着でやってきたのは・・・死に装束のつもりか・・・」


俺は思わずぽつりと口に出す。その言葉に連れの女騎士が嗚咽と怒号の声を上げ床に拳をガンと叩きつける。


「そうだ!!姫様の命一つで世界がまた救われるならと・・・私が罪を被るつもりで、介錯を買い出したのだ・・・・それを貴様がぁ!!」


でもいきなり来て懇願して切腹、介錯の上に強要もいささか滅茶苦茶では?そんな言葉を思わず飲み込んだ。・・・・ん?ちょっと待て・・・。


「ひょっとして・・・貴女様の独断か?」


サークが俺の言葉を代弁した、姫様がビクリと震える。この子が自身で勝手に?こんな無茶を?さっきから黙っていたアージュがはっとなる。


「貴女・・・母親の名前は?教えなさい・・いいえ・・もう一度顔を見せなさい!!」


今度はアージュさん?何?どうしたの??


「!!やめて下されーーーー!!!勇者殿!!何も言わず姫様の首で!!!なにとぞーーーー!!!なにとぞーーーーーーー!!!」


騎士さん?ちょっとぉおおお????コントみたいに叫ばないで!!


「慈愛姫??」

「慈愛姫?誰?!それ?」

母の言葉に俺はやまびこの様に繰り返した。

今度は母さん?誰ですか?その人、嗚咽の声に混じって驚愕の呻きが彼女から漏れる。図星らしい・・・。震えている。

男陣があーーーーッと声を上げる、今度は何?


「慈愛姫・・・ネージュ様の娘様か?!!!」

「思い出した深いその海の様な蒼の髪、間違いなくネージュ様!!!」

「小鳥の様な囀りの美声・・ネージュ様ににそっくりだ・・・」


父、ガラムにサークまで、山彦と一緒に我に戻ったか?今度はネージュ様?誰?この子の母親の名前か?


「ネージュ様は私達を支援して頂いた大恩人。あのローレライの奴すら口出しできない大恩人でね・・・。」


あの敬意を払うを絵に描くサークが呼び捨てだ・・・よっぽどひどい奴なんだな・・・。

俺は思考を繰り返し整理整頓しながら。騎士様、姫様、勇者一行様の身内の三方向に梟の如く首を振る。


一応変な形だかようやく理解できた。


15年前の昔にお父さんたちはメッチャ強いパーティだった。

でもローレライ王って奴は嫉妬し続けて、色々苦しめた。でも父さん達は屈せず数々のクエスト成功、ヤッター。愚王は最後の最後に魔皇竜ゲルニガって奴を討伐を命じた。それも成功させて世界が平和に訪れたバンザーイ。では成果を見繕った結果、諸外国からの追放デース!バイバーイ。

あー成る程、だからどの国にも属さない新霊峰フューザーの麓に暮らす事になった・・・ちゃんちゃん・・・じゃねーよ!!ひでぇなオイ?!


それに・・・

そんな愚行が根を張り、苦しむ人たち。すれ違いで一つ間違えたら・・・俺は思わずゾッとした・・・運命の綱渡りである。もし・・・もしも、その言葉は言わずには居られなかった。それは俺の前世の後悔の一つだ。


「ネイア姫・・さま・・俺にはうまく言えないけど・・・・これだけは言える。君の今の行いが・・・残された君のお母さんと俺の家族の関係を壊すかもしれない・・・。」


それを聞いて皆ハッとなる。自分でも残酷な言い草だ。どっちの面々に殴られても言い返せない無神経な言葉だと思ってる。


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・うぅつ・・・お母さん・・・みなさん・・シェリーゼ・・・」


その日は彼女が見上げる事は無かった。

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