第5話
海岸に止められている大きな船。建長寺船ではなく安宅船に近い船でした。船の中には100ほどの女子供が捕縛されていました。
「いつも思うんだが、こいつらを売り飛ばしてナンボになっているんだろうな」
「そんなのわからねぇよ。お頭に聞きな。俺は怖くて聞けねけどな」
浜辺でダイスをボコボコにしたゴロツキたちが汚い笑い声を上げていました。その声に怯えるものや諦めているもの命乞いするものたちがいました。そのものたちの中に例の女の子が静かに混ざっていました。
女の子は揺れる木の床に座りながら体を縄で結ばれていました。荷物置き場みたいな部屋に大人数が押し込まれていました。女の子はその押しくらまんじゅう状態の中を窒息しそうに苦しみながら首を伸ばします。
水面から顔を出すように人ごみから出た女の子の頭がゴロツキに掴まれました。女の子の絶望したような目とゴロツキの面倒くさそうな目とが合い、そのままぬか漬けのようにゴロツキの手で女の子の頭が人ごみの中に押し込まれました。ゴロツキからしたら商品を静かにさせただけであり、女の子は窒息で気絶して静かになりました。
「おい、騒がしいぞ、どうした?」
「はっ、すみません、お頭! 商品が騒いでいましたので、静かにさせました!」
ゴロツキたちが敬礼する先に、2mを超える巨体の男がドアを開けて部屋に入ってきました。坊ちゃん刈りの筋肉質というアンバランスなお頭と呼ばれる男は、交渉のための身なりの整えと実力行使のための体躯の鍛えを持ち合わせていました。黒い綿の着物は西洋の悪魔や東洋の鬼を想起させる威圧感を纏わせていました。
お頭は返事をしたゴロツキの首を一刺ししました。頭を落としたゴロツキは悲鳴の1つも上げずにその場に倒れました。広がる血溜まりの上を小刻みに震える胴体を見て、見張りのゴロツキたちは言葉を失い、商品の人たちはざわつき始めました。
「お前たちに言ったよな、商品に騒ぎを起こさせるなと。たとえ静かにさせたとしても、一度命令を守れなかったやつなんか要らないんだよ、カス」
お頭は壊れたおもちゃを見るような目でゴロツキたちを見下しました。ゴロツキの1人がそれに対して自分たちの言い分を放とうとしました。するとお頭が投げたナイスがそのゴロツキの首を貫通して頭と胴体を布のように切り離しました。
ナイフがそのまま捕縛された人々の方向に飛んで行きました。そのうちの1人の子供が刺さりそうになったところを、隣の女性が身を呈してかばいました。ナイフはその女性の胸を貫通して、そのまま子供の顔の深いところにまで進み止まりました。
ゴロツキたちも捕縛された人たちも鈴虫のように一斉に声を上げかけましたが、お頭が床を地震のように蹴飛ばして黙らせました。ここで声を上げたら殺されることは教養のない小さな子供でもわかっていました。お頭は不機嫌そうに体中の血管を浮き上がらせて足から目まで赤く染めて、赤い蒸気が迸っていました。
「うるさいのは嫌いだよ。俺はイライラしているんだ!」
周りが深海のように静まり返った所に、生命の誕生のように声が上がりました。その声の主は先ほど窒息により気絶させられていた女の子でした。起きたばかりで今の状況を理解できない女の子は倒れていた自分の目の前に流れてきた血に驚いたのです。
周りの者たちは慌てふためき女の子から離れようとしました。しかし、まとめて束縛されているので動けませんでした。女の子の上に体ごと覆いかぶって口を塞ごうとしましたが、それでも隙間からナイフのように鋭い悲鳴を上げていました。
お頭は虫のように集っている女子供たちをかき分けて声を上げた女の子を掴み上げました。蹴散らされた者たちは自分が殺されない可能性が高くなったことに安堵して、こんな危なっかしい女の子をさっさと殺してくれと保身のために悪徳に思っていました。女の子は首根っこを掴まれたまま持ち上げられて、足はジタバタと空を蹴っていました。
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