第5話 続・十才 味方作りから始める件3

「はい。じゃあ契約書」

「しれっと出すな……。ほら」

「うん。ありがとう、お兄さん」

 シェルディナードの出した契約書を確認し終えた青年が署名サインして返してきた紙を確認して、シェルディナードはにっこり笑った。これでしばらくは美味しいごはんGETだ。

「でも、何で急に契約してくれる気になったの?」

 契約内容の報酬は確かに破格にした。けれど、先程までの様子ではそれでもけるとは思えなかったのに。

「契約満了で起業の援助、物件込みとか、時給も良いし」

 それ、契約書見る前は無い情報だよね。とは思ったけれどシェルディナードは黙っておいた。

「ルーちゃん。良かった、ね」

 横で見ていたサラに頷く。それを見た青年こと、ディット・クロケードが金色の視線を向ける。

「そういや、こいつは弟とかじゃねーの?」

「あー……。サラは別の家の子」

「オレは、ルーちゃんの、親友」

「ルーちゃんて……いや、それはいいや」

 あえてつっこまない事にしたらしい。

「丁度良い。改めて。シェルディナード・シアンレード・メラフです。これからよろしく、お兄さん」

 笑顔で手を差し出したシェルディナードに、ディットが諦めたように息をつく。

「ディットだ。ディット・クロケード。ま、少しの間だけどよろしくな」

 握手を交わし、シェルディナードが隣のサラを見る。

「親友のサラ。これからちょくちょく顔を合わせると思うから」

「サラフォレット・リブラ・シェンダリア」

「ちょい待て。リブラ!?」

「あ。やっぱりそこはスルー出来なかった?」

「出来るか!」

 十貴族と称される貴族家の上から十家は基本対等とされているが、実際の所は割りと明確に差がある。

 シェルディナードの家は十家中、十か九か。正直そこら辺はドングリの何とやら。四から十まではそこまで差が大きい訳ではないが、それ以上は大きな差があり、一位の家と二位の間ではそれこそ越えられない壁がある。

 で、その一位がサラの家だったりするわけで。

「……待て。あの家の、子供?」

「ちなみに本家」

「…………やっぱ契約破棄」

「ダメ。やっと捕まえたごはん」

「俺を飯みたいに言うな!」

 ディットがサラを見て後退あとずさる。

「だってこいつ、本家って事は、今代の黒陽ノッティエルードだろ!?」

「ひかえおろう」

 ふんす、とサラが胸を張る。

(サラ、ノリ良いからなー)

 そんな風に考えてほのぼのするシェルディナードと、半眼でドン引きするディットの反応が対照的だった。

 この世界に王は居ない。けれど二つの特別な称号を持つものがそれぞれいて、黒陽ノッティエルードというのはその片割れ。

 サラの家、その本家の跡継ぎに受け継がれる称号で、唯一人の例外を除いて世界で一番多い魔力をもつ者に与えられる。

 何をするにも魔力がまずありきの世界で、魔力が多いのはそれだけで力だ。しかもサラの家は、代をるごとにその魔力が増えていく、血筋で魔力量が高まる家系。

 それに比べればシェルディナードや他の家など大差無いと言える。要するにあまりにも差がありすぎて比べるのも馬鹿らしい。

「何で実質魔王が十家とはいえシアンレードの、しかも第二夫人の息子と居んだよ!」

「むー……。関係、ない、でしょ。ルーちゃんは、親友、だもん」

 プンプンとご機嫌斜めになったサラがシェルディナードの腕にしがみつく。まるで引き離されるとでも思って、それを断固拒否するかのように。

 ジットリとしたものを藍色の瞳に浮かべ、サラはディットを見詰めた。

「ディット、は、友達を、そーいうので、選ぶの?」

「そ…………んな事はねえ、けど」

「じゃあ、オレは、その基準じゃないと、選んじゃ、いけない、の?」

 サラの言葉にディットが言葉を詰まらせ、ばつが悪そうに視線を落とす。

「悪かった。そうだな。ダチなんて、そういうもん関係ねぇよな」

「そうだよ」

 失礼しちゃーう。そんな事を言いつつ、シェルディナードの腕をそっと離した所をみると、サラもとりあえず落ち着いたらしい。

(あー。でも、多分、自分が大人から求められてる『友人』としての役割は、何かあった時の『盾』役でもあるんだろうなー……。サラには言わないけど)

 サラならその内、気づいてしまうかも知れないけれど。今はえて言う事でもないよね、と。シェルディナードは心の中に仕舞う。

 何はともあれ、ごはん事情はどうにかなった。

(ディットには、後で御守アミュレット渡そう)

 自衛してもらうけど、最低限の補助は雇い主であるシェルディナードの役目だ。

(まずは一人目)

 自分の環境がどうにかなったら次はやっと領地だ。

 ディットの反応からして、「うわ、シアンレード領うちの評判悪すぎ……」ってなりそうだから気合いを入れなければ。

 シェルディナードはそんな予感を抱えつつ、親友と新たな味方に笑顔を向けた。

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