5章 母なる星、海王星

5-1. サーバーアタック

 空間の裂け目を抜けるとそこはレヴィアの神殿だった。画面の前で座っていたドロシーは俺を見つけると駆け寄って飛びついてきた。

「あなたぁ! あなたぁ……、うっうっうっ……」

 俺は感極まってるドロシーを抱きしめ、優しく頭を撫でた。


「感動の再会の途中申し訳ないが、ヌチ・ギを倒しに行くぞ!」

 レヴィアが覚悟を決めたように低い声を出す。

「え? どうやってあんなの倒すんですか?」

「サーバーを壊すんじゃ」

 レヴィアはとんでもない事を言い出した。

「え!? サーバーって……この星を合成レンダリングしてる海王星にあるコンピューターのことですか?」

「そうじゃ、サーバー壊せばどんな奴でも消える。これはあらがえん」

「それはそうですが……、いいんですか? そんなことやって?」

「ダメに決まっとろうが! 禁忌中の禁忌じゃ! じゃが……、もはやこれ以外手はない」

 レヴィアは目をつぶり、首を振る。

 レヴィアの覚悟に俺は気おされた。この世界を作り出している大元を壊す。それは確かに決定的な攻撃になるだろう。しかし、この世界そのものを壊すわけだからその影響範囲は計り知れない。どんな副作用があるのか想像を絶する話だった。

 とは言え、このままでは俺たちも多くの人たちも殺されてしまう。やる以外ない。


「大虐殺は絶対に止めねばなりません。何でもやりましょう!」

 俺も覚悟を決め、レヴィアをしっかりと見つめた。

「じゃぁ早速このポッドに入るのじゃ」

 レヴィアはそう言って、ガラスカバーのついたリクライニングチェアを二つ出した。

 そして、赤いボタンのついた装置をドロシーに渡して言う。

「お主は画面を見て、敵の襲来を監視するのじゃ。どうしようもなくなったらこのボタンを押せ。火山が噴火して辺り一面火の海になる。時間稼ぎができるじゃろう」

「ひ、火の海ですか!? ここは……、無事なんですか?」

「んー、設計上は……大丈夫な……はず?」

 ちょっと自信なさげなレヴィア。

「『はず』ですか……」

 不安げなドロシー。

「そんなのテストできんじゃろ!」

「そ、そうですね」

「わしらが行ってる間、体は無防備になる。守れるのはお主だけじゃ、頼んだぞ!」

「わ、分かりました……。それで、あのぅ……」

「ん? なんじゃ?」

「アバドンさんや操られてる女の子たちは……助けられますか?」

 ドロシーがおずおずと聞く。

「ほぅ、お主余裕があるのう。ヌチ・ギを倒しさえすれば何とでもなる。そうじゃろ、 ユータ?」

 いきなり俺に振られた。

「そうですね、手はあります」

 俺自身、一回死んでここに来ているのだ。死は絶対ではない。

「そう……、良かった」

 ドロシーが優しく微笑んだ。

 妻の心優しさに、自分たちの事ばかり考えていた俺はちょっと反省した。こういう所もドロシーの方が優れているし、そういう人と一緒に歩める結婚は良いものだなと思った。


 レヴィアが隣の小さめの画面を指さして言う。

「それから、こっちの画面は外部との通信用じゃ。ここを押すと話ができる。ヌチ・ギが来たら『ドラゴンは忙しい』とでも言って時間稼ぎをするんじゃ」

「ヌチ・ギ……、来ますか?」

 おびえるドロシー。

「来るじゃろうな。奴にとって我は唯一の障害じゃからな」

「そ、そんなぁ……」

「いいか、時間稼ぎじゃ、時間稼ぎをするんじゃ! ワシらが必ず奴を倒す、それまで辛抱せい!」

「は、はい……」

 うつむくドロシー。

「大丈夫! さっきだってうまくやれてたじゃないか」

 俺は笑顔でドロシーを見つめながら、そっと頭をなでた。

「あなたぁ……」

 目に涙をたたえながら不安そうに俺を見る。

 しばらく俺たちは見つめ合った。

 そして、俺はそっと口づけをし、

「自信もって。ドロシーならできる」

 と、優しい声で言った。

「うん……」

 ドロシーは自信無げにうつむいた。

「ユータ! 急いで座るんじゃ!」

 レヴィアの急かす声が響く。俺は優しくドロシーの頬をなでると、しっかりと目を見つめ、

「待っててね!」

 そう言って、ポッドに飛び乗った。

 ハッチを閉め、内側からドロシーに手を振ると、ドロシーは、

「あなた……、気を付けてね……」

 そう言ってポッドのガラスカバーを不安そうになでた。

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