4-4. 決死の奪還計画
俺たちは部屋に入り、作戦を練る。
しかし、ドロシー奪還計画はそう簡単には決まらない。何しろ相手は無制限の権能を持つ男、普通に近づいたら瞬殺されて終わりだ。だから『見つからないこと』は徹底しないとならない。見つかった時点で計画失敗なのだ。
アバドンによるとヌチ・ギの屋敷は王都の高級住宅地にあって小さなものらしい。しかし、今までに連れ込まれた女の子の数は数百人規模、到底入りきらない。つまり、屋敷は単なる玄関にすぎず、本体はどこか別の空間にあると考えた方が自然だ。そんなところに忍び込む……、あまりの難易度の高さに考えるだけでクラクラする。
しかし、今この瞬間もドロシーは俺の助けを待っている。『命がけで守る』と言い切ったのだ、たとえ死のうとも助けに行くことは決めている。
幸い俺にはレヴィアからもらったバタフライナイフがある。これで壁をすり抜けて忍び込み、何とか屋敷本体へのアプローチの方法を探そう。
そして、忍び込めたら見つからないように秘かにドロシーを救出し、連れ出す……。出来るのかそんなこと……。
俺は無理筋の綱渡りの計画に胃が痛くなり、思わずうなだれてしまう。
「旦那様、あきらめるんですか?」
アバドンは淡々という。
どう考えてもうまくいくとは思えない。成功確率なんて良くて数パーセントとかのレベルだろう。
でも……、成功の可能性がほんの少しでもあるのならやるのだ。上手くいきそうかどうかなんてどうでもいい、成功のために全力を尽くす。ただ前だけ向いて突き進むのだ。俺は覚悟を決める。
「いや、どんなに困難でも俺は行くよ」
俺は顔を上げ、しっかりとした目でアバドンを見た。
「グフフフ、成功させましょう」
アバドンは
ただ、単に連れ出すだけならすぐに見つかって連れ戻されてしまう。相手は管理者なのだ。どこに隠れたって必ず見つかってしまうだろう。これを回避するにはもう一人の管理者、レヴィアに頼る以外ない。彼女にかくまってもらうこと、これも必須条件だ。
俺は早速レヴィアを呼んだ。
「レヴィア様、レヴィア様~!」
しばらく待つと返事が来た。
『なんじゃ、朝っぱらから……。我は朝が弱いのじゃ!』
「お休みのところ申し訳ありません。緊急事態なのです」
『なんじゃ? 何があったんじゃ?』
「ドロシーがヌチ・ギに
俺は淡々と言う。
『んん――――? なんじゃと?』
「俺も無力化されてしまいました」
絶句するレヴィア……。
俺は神妙な面持ちでレヴィアの返事を待った。
部屋の静けさのせいか、やけに時間が長く感じる……。
ためらいがちな声でレヴィアは言う。
『それは……、んー……、申し訳ないが、どうもならん』
管理者同士は相互不可侵。ヌチ・ギがやる事にレヴィアは干渉できないのだ。だがそれは想定内。
「わかってます。ドロシーの救出は我々でやります。ただ、救出した後、かくまって欲しいんです」
『いやいやいや、そんなのバレたら、我とヌチ・ギは戦争になるぞ! この世界火の海じゃぞ!』
管理者権限持っている者同士の戦争……それは確かに想像を絶する凄惨な事態になりそうだ。最悪この星が壊れかねない。しかし、引くわけにはいかない。
「そもそもドロシーはレヴィア様の知人じゃないですか、相互不可侵と言うなら非はレヴィア様の知人を
『うーん、まぁそうじゃが……』
「バレなきゃいい話ですし、バレても筋は我々側にあります!」
俺は
『むぅ……。それはそうなんじゃが……』
あと一歩である。
「かくまってくれたら、なんでも言うこと聞きますから!」
もう、大盤振る舞いである。
するとレヴィアは、
『なんでも? 昨晩彼女にやってた、あのすごいこともか? キャハッ!』
と、うれしそうに笑った。
「レ、レヴィア様! のぞいたんですか!?」
真っ赤になってしまう俺。
『あれあれ、カマかけたら引っかかりおったわ。一体どんなことやったんじゃ? このスケベ。 キャハハハ!』
「……。」
引っかかった俺は返す言葉がなかった。
『まぁええじゃろう。ただし、見つからずに連れ出された時だけじゃぞ!』
「……、ありがとうございます……」
これでドロシー奪還計画の懸案は解決した。そして、こんなバカ話ができることの幸せに改めてみんなに感謝した。
◇
宮崎の火口のだだっ広い神殿でレヴィアはゴロンと冷たい床に転がって考えていた。ユータたちがヌチ・ギの屋敷からこっそりドロシーを奪還する? どう考えても無謀で滑稽な挑戦だった。管理者をなめ過ぎではないだろうか……?
何か策があるか……、特別な情報を持っているのか……、いろいろなケースを想定してみた。
「いや、違う!」
レヴィアはガバっと起き上がった。
そして、つぶやいた。
「あやつら、死ぬつもりじゃ……」
レヴィアは
晴れ晴れとした口調だったから気づかなかったが、成功できるなんて本人たちも思ってないに違いなかった。たとえ死んでも成し遂げねばならぬことがある、その覚悟にレヴィアは思わず震えた。
レヴィアは大きく息をつき、金髪のおかっぱ頭をぐしゃぐしゃとかきむしると、
「我も覚悟を決める時が来たようじゃ……。お主らに教えられるとはな……」
レヴィアは今まで事なかれ主義で、現状維持さえできれば多少の事は目をつぶってきた。でも、それがヌチ・ギの増長を呼び、世界がゆっくりと壊れてきてしまっていることを認めざるを得なかった。
スクッと立ち上がるとレヴィアは、空間の裂け目からイスとテーブルを出して座り、大きな画面を三つ出現させた。青白い画面の光がレヴィアの幼い顔を照らす。
レヴィアは画面を両手でクリクリといじりながら情報画面を操作し、何かを必死に追い求めていた。
「ふーん、暗号系列を変えたか……、じゃが、我にそんな小細工は効かぬわ、キャハッ!」
レヴィアはそう言って笑うと、画面を両手で激しくタップし続けた……。
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