4-3. ドロシーの残り香
最愛の妻が奪われてしまった。
だから結婚なんかしちゃダメだったんだ……。
「うぉぉぉぉ」
無様な泣き声が森に響き渡る……。
俺は毛布を拾うと、ぎゅっと抱きしめた。まだ温かい毛布はドロシーの匂いが残り、俺を包む。
「ドロシー……。うぅぅぅぅ……」
俺はドロシーの匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
御嶽山に朝日が当たり、オレンジ色に輝くのが見える。
泣いてる場合じゃない、なんとかしないと……。
しかし、相手はこの世界の管理者権限を持つ男、直接やりあっても全く勝負にならない。どうしたら……。
俺は恐る恐る現状分析を行う。ステータス画面を開いて見ると、千を超えていたレベルは三十にまで落ちていた。もはやアルより弱くなってしまっている。
アバドンを呼ぼうとしたが、アバドンとの通信回線も開かない。魔力が落ちたので奴隷契約がキャンセルされてしまっていた。
もはや飛ぶこともできないし、そもそも生きてこの山奥から出る事すらできそうにない。妻を奪い返しに行くどころか、自分の命も危ない情勢に俺は絶句した。
誰かに助けてもらいたいが……、相手は無制限の権能をほこる絶対者。まさに死にに行くような話であり、誰にも頼めない。八方ふさがりである。
妻を失い、仲間を失い、力を失い、俺は全てを失い、もはや抜け殻だった。
俺は頭を抱え……、そしてテーブルに頭をゴンとぶつけ、そのまま突っ伏した。
「もう誰か、殺してくれないかな……」
俺はダラダラと湧いてくる涙をぬぐう事もせず、ただ、虚脱してこの理不尽な運命を呪った。
◇
「グフフフ……、無様だな」
いつの間にかアバドンが来ていた。
俺は身体を起こしたが……、何も言う事が出来ず、ただ軽く首を振った。
「もう、俺は奴隷じゃない、悪を愛する魔人に戻れた……グフフフ」
嬉しそうに笑うアバドン。
「そうだ、もう、お前は自由だ。いろいろありがとう……」
俺は力なく言った。
「強い者が支配する……、立場逆転だな。これからお前は俺の言う事を聞け」
アバドンが正体を現す。
「ははは、こんな俺にもう何の価値なんて無いだろ。そうだ、お前が殺してくれよ……それがいい……」
俺はガックリとうなだれた。
アバドンはそんな俺を無表情でジッと見つめる……。
「死にたいなら望み通り殺してやる……。だが……、死ぬ前に一つ悪事を手伝え」
「悪事? こんな俺に何が手伝えるんだい?」
俺は両手をヒラヒラさせながら首を振った。
「女を奪いに王都へ行く、ちょっと相手が厄介なんで、お前手伝え」
アバドンは俺をジッと見据えて言う。
「女……、えっ!?」
俺は驚いてアバドンを見た。
「急がないと
アバドンの目は真剣だった。
自由になった魔人が、まさか何のメリットもない命がけのドロシー奪還を提案するとは、全くの想定外だった。俺は
「手伝うのか? 手伝わないのか?」
アバドンはニヤッと笑って言う。
「アバドーン!!」
俺は思わずアバドンに抱き着く。男くさい筋肉質のアバドンの温かさが心から嬉しかった。
「グフフフ……、
俺は一筋の光明が見えた気がしてオイオイと泣いた。
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