第153話 夜の訪問者2

「いやー涼しい。外暑すぎるんだよね」


 エアコンの前で大の字。手を広げる岩見先輩。


「それならなんで暑い中ここまで来ちゃったか」

「後輩くんと遊ぶためだね」

「夜に遊びに来ないように」


 現在石見先輩が俺の部屋にて荷物を隅っこに置いて、大の字からの、そのまま俺のベッドにダイブしていた。もうなんも言わん。面倒なことにしかならない予感がしたんでね。それから少し石見先輩と、あーでもないこーでもないと話していると。


「あっ。後輩くん」

「はい?」

「私お風呂まだなんだよね。なのにベッドダイブした。ごめん、あははー」

「——お気になさらず。って既にかなり転がってますけどね」


 現在も石見先輩転がっている。


「あっ、やっぱり何も言ってこなかったから、後輩くんベッドに私のにおいを付けたいんだね。変態さんだー」

「とっとと風呂行ってきてください。多分なんやかんやしている間に空いたと思う――」


 ♪♪


 するとナイスタイミングで俺のスマホが鳴った。お相手はばあちゃん。風呂空いたみたいです。


「石見先輩。ホントちょうど風呂。空いたみたいです」

「おぉ。ナイスタイミング。じゃあ後輩くんって後輩くんもこれから?」

「ですね。風呂の順番待ちをしていたら石見先輩が来たので」

「どうする?禁断の2人で――」

「そんな未来はない。とっととどうぞ」


 何を恥ずかしそうに意味の分からないことを言っているのか。


「あー、そう言って覗くつもりかー」

「……先行くか」


 そう言いながら俺が立ち上がると。


「その場合私が覗くかもー」

「——誰かヘルプだ」


 結局その後石見先輩が先に入ることになりました。


「いやー、さっぱりー」


 俺が自分の部屋でなんでこうなった?これこそ結崎にヘルプの電話か?などなどと考えていると部屋のドアが開いて、ワンピース姿の石見先輩が戻ってきたのだった。

ロングルームワンピースと言うのかは知らんが。いや、前開き?で長めのワンピースだったから勝手にそんなことを思いながら石見先輩を見ていると。


「あれれ?後輩くんが見惚れてる?見惚れちゃってる?これ選んだ私勝利?ってか後輩くん。これかわいいでしょ?」


 俺の前でくるりと回る岩見先輩。なんかいい香りがしたのは――気のせいだろう。この家に洒落たシャンプーとかボディーソープはない。いや、待てよ。でも結崎達が泊まった時もかなりいい香りがしていたような――持参してる?または――みんな普段からいい香り?って、俺は何を考えているのか。


「——見惚れてではなく。部屋着ってかルームウェアというのかは――詳しくないんでわからないんですが。いろいろあるんだなぁー。と、それと普段見ない姿だったので。あっ。確かにかわいいですね。似合ってます」

「あっ、あとねこれ。超冷感素材?で気持ちいいんだよ。この時期に最高なんだよ触る?」

「大丈夫です。触ったらいろいろ言われそうなので」

「遠慮しなくてもいいよ?後輩くんと2人しか居ないんだし」

「大丈夫です」

「あっ、夜な夜なこっそり触ってくるパターンか」

「ってか、石見先輩泊まるんですよね。風呂まで入っている状況で今更かもですが」

「当たり前。オールナイト営業!」

「……元気すぎる。あと普通に迷惑だ」


 別のところでしてください。


「私は大丈夫。仮眠してきたから」


 この先輩なんかおかしい。今知ったことじゃないが。おかしい。確実にネジがぶっ飛んでいるよ。


「遊びに全振りだったか……」

「さあさあ、後輩くん何する?」

「……家まで送りましょうか?まだ電車——あるかな?」


 ちょっと電車がまだ走ってるかはわからないが。時間的にまだありそう。いやさすがに無い気もする?うーん。まあまだあるか?などと俺が考えていると。


「外は暑いよ?私を倒す気?そんなことしてきたら後輩くん呪うよ?」

「……呪わないでください。まあ確かに外は暑いですから……もういいや。ご自由にです。俺は風呂行きます」

「やったー、さすが後輩くん」


 石見先輩を部屋に残すのは――大変危険な気がしたが。俺はとっとと風呂に入るため一度自分の部屋を出たのだった。


 それから俺がババっと風呂に入って部屋へと戻ると。


「あっ。後輩くん戻って来たー」


 予想していたのは、部屋で勝手に何か漁っている石見先輩だったのだが。普通にベッドに寝転んでスマホをいじっていた。って、石見先輩足をバタバタしない。ギリギリ。ギリギリですから。既に太ももまで丸見えですから。


「——石見先輩。足をバタバタしない」

「あっ。見られたー」


 そう言いながらわざとらしく太ももを隠す石見先輩。しまった。この先輩狙っていたな。


「見えてないですから」

「見る?」

「見ないです」

「いいの?ニヤニヤー」


 ワンピースの裾をチラチラめくる石見先輩。


「はぁ……とっとと寝てくれないかなー」

「なっ!?後輩くん――私にベッドから動くなと……そんな命令をしてくるとは……」


 ちょっと顔を赤くして驚く石見先輩って、俺は静かに寝てほしいと言っただけなんだがね。このまま相手とか超疲れそうだもん。


「——石見先輩。なんかおかしなこと考えてますね?」

「ベッドに拘束されて襲われる!きゃ!」


 キャッキャッしながらそんなことを答える石見先輩だった。


「……はぁ。ネジがホント足らないのか……」


 誰か石見先輩を病院に連れて行ってくれ。手遅れだとは思うが一度診てやってほしい。マジで。


「あれ?そういえば私が服の感想聞いた時後輩くんかわいいって言ったよね?」

「この時差何!?びっくりなんですけど。いきなりどうしたんですか?レベルですよ?確かそれ俺が風呂に行く前の話ですよね?」


 多分今着ている服を褒めたことかと思うがすごいズレで話が戻ってきた。ホント病院送りにした方がいいのだろうか?


「いやー、かわいいとか言われるとヤバイなー」

「あの――ワンピースが。ですからね?先輩が聞いてきたんですよ?かわいいでしょ?って、ワンピースを持ちながら」

「そんなこと言って、実は私に見惚れてたんだね。うんうん。かわいい後輩くんだー」

「突然話が戻ったと思ったら……なんかもうわからん。まあ石見先輩は、普通にかわいいに入るかと思いますが」

「そこは美人でしょ」

「かわいいですね」


 ガキですから。可愛いでいいでしょ。


「なんか後輩くんに子ども扱いされている」

「——バレたか」


 石見先輩とそんなやりとりをしていると――。


 ♪♪~


 机の上で俺のスマホが鳴ったのだった。

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