第72話 2度あることは……5

 ギュ……。


 やはり結崎はかなり無理をしていた様子で、限界に早くも近づいていたらしい。

 実は電車に乗った時は出来れば公民館前まで頑張ってくれ。と俺は心の中では思っていたのだが。って。長宮さんと話していた俺は、手を握ってきた結崎の方を見ると。


「……」


 結崎は俺の顔ではなく。手の方を見て……固まっていた。でも俺の手を握った結崎の手は……弱弱しくだがまだ頑張っている。

 気が付いて……という最後の力が感じられた。


「結崎。やばいか?」


 俺がしゃがんで結崎に聞くと。


「…………うん」


 結崎は小さな声でそういいながら小さく頷いた。ホント最後の力を振り絞っているみたいな状態だった。


「うん?」


 すると状況がわからないのか。っか多分走行音もあるので長宮さんまで声が聞こえなかったらしく。長宮さんが不思議そうな顔をしてこちらを見ていたが。俺が説明している時間はなさそうだったので、俺は一応予定というか。結崎がやばそうだったら高校前で一度降りるという選択肢を頭の中では考えていたのでそれを実行することとした。


「長宮さん。高校前で降りるから」

「えっ?」


 俺はそれだけ長宮さんに言うと結崎に再度声をかけた。


「結崎。ちょっとだけ頑張れ。でも最悪ちゃんと袋はあるからな。いるか?」

「……」


 結崎はゆっくり横に首を振った。まだ我慢はできるらしい。


「袋?袋?ってか降りるの!?」


 ちなみに隣では長宮さんがまだ何を言ってるの?という状態だった。

 するとその時電車にブレーキがかかった。どうやらギリギリ大丈夫そうだった。


 そして電車が止まると。俺は結崎に肩を貸して電車から降りた。するとその後ろから荷物を持っている長宮さんがわたわたと俺と結崎に付いてきていた。


「はぁ……はぁ……」


 電車の外に出ると。外の空気を吸うというか。結崎は……これはヤバイ方のサインか。と俺が思っていると。


「ゆえ?もしかして……気持ち悪いの?大丈夫?」


 そんな結崎の様子を見ていた長宮さんもやっと状況がわかったらしい。


「まあ、そういうことだな。っか、結崎トイレ行くか?」

「……」


 俺が聞くと結崎は小さく頷いたため。俺は駅のトイレへと結崎とともに向かう。

 再度おんぶ……という選択肢もあったが。トイレまでは近いので、俺が肩を貸せば結崎はゆっくり歩いていたので、とりあえずそのまま歩かせた。というか。変に俺に乗るとかの作業の方が辛いかもしれないからな。


 ちなみに高校があるからか。この駅はちゃんとトイレ。綺麗なトイレがあるんだよな……って、待て待て。


「そっか、女子トイレに俺入ったらダメか」


 俺はそのことにトイレに入る前に気が付いたのだった。すると俺の横に来た長宮さんが話しかけてきた。


「まあ、この時間ならいいんじゃない?誰も居ないだろうし。私も居るから」


 長宮さんはいうが、いいのだろうか?いや、やっぱりこういう時は長宮さんにとりあえず……とか俺は考えつつ。結崎の方を見ると。


「……」


 結崎はどうやら自力はもうきついのか……って、これやばいな。多分限界に近い感じだった。もうこちらの会話とかより我慢するのに精いっぱいという感じだった。その時俺はあることに気がついた。


「そうか。誰でも使っていい場所があるか」


 俺は男子トイレと女子トイレの間にある場所を見つつ。つぶやいたのだった。


「長宮さん」

「えっ何?ちょっと飲み物。水でいいから買ってきてもらえるかな?」

「あ、うん。いいけど?」


 長宮さんが近くに居るとと、俺は思ったのでとっさに思いついたことで長宮さんを自販機の方へと行ってもらい。


「結崎。車いす用のところ入るぞ」

「……」


 俺が結崎に言うと「わかった」という合図だったのか。小さく結崎は頷いた。

 そして長宮さんは自販機の方へと向かっていったのを俺は確認してから。車いす用トイレというか。今はなんて言うんだったっけな?多目的トイレ?って、言いはとりあえずドアを開けて中へと俺と結崎は入った。


 そして入ったら……まあすぐだったな。

 多分結崎は、長宮さんが居たからか限界まで我慢していたらしいが。

 多目的トイレへと入り。俺は結崎を奥に……って、まあホントギリギリだったんだな。すぐに便器に自主規制、自主規制……自主規制となったのだった。


 俺も直視は……だったので明後日の方向見つつ。そうそう一応トイレの鍵をしめてから。ってまあ、でも前にぶっかけ自主規制、自主規制があったんでね。

 ちょっと込み上がってくるようなものはあったが……俺は大丈夫だった。

 経験してるってすごいわ。


 俺は結崎の隣へと移動して背中をさすりつつ。自分も落ち着かせた。変に直視とかして……俺もだとね。この後が大変なことになるので。


 俺が落ち着いてから。結崎の方を見たのだった。

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