第35話 お疲れ結崎5

『おはよう。今日なんだけど……休むね。ちょっとまだ怠さがあって。また松尾君たちに迷惑かけそうだから』


 朝起きてスマホを確認したらそんなメッセージが届いていた。


 いつも通りの時間に起きた俺はそんな結崎からのメッセージを見つつ――「まあ俺はこのままいつも通り。普通に準備して朝ごはん食べて学校に行くだけ」とか思っていたのだが。まあ気にならないと言えば嘘になる。


 さすがに昨日帰る時はまあちゃんと歩いていたが。学校の時に1度ふらついた感じがあったのでね。なので俺は自分が出来る事だけをしておくことにした。『お大事に』と返事をしておいて――。


「ばあちゃん。ばあちゃん」


 ◆


 それからしばらくして。俺は普通に教室に居た。遅刻することなく。いつも通りの時間くらいに教室へとやって来た。

 教室内の雰囲気はいつも通り。ちょっと違う事と言えば、俺の後ろの席がまだ空いているということ。

 そういえば結崎ってすでに1度休んでるんだよな。ってか俺もか。その時は一緒に休んだためクラスの雰囲気がどんなのだったか知らないが。今はわかる。


 いつも集まっているクラスの人気者さんら。って、今日は長宮さんのところに在良君。大木君らが集まって話しているだけなので、少し規模が小さめ。そういえば蓮花寺さんが居ないな……と思ったら。


「おはよう。松尾」

「うん?」


 周りをちょっと観察しつつ。自分のスマホをぼーっと見ていた俺は、目の前の空いていた席に座る人物への反応が遅れた。


「……あっ、蓮花寺さん。おはよう」


 目の前に今日も完璧に変装—―って言ったら怒られるな。間違いなく怒られるな。とりあえず今日も完璧に準備をしたいつも通りの蓮花寺さんが座った。


「ゆえ。やっぱり今日は無理だったか」

「えっ?ああ。休むって言ってたね」


 俺が普通に蓮花寺さんの話に返事をすると。


「ふふふー」

「……うん?」


 すると何やら蓮花寺さんは楽しそうな顔をした。


「いや、ちゃんとゆえ。松尾のところにも連絡したんだなー。って」

「……まあ朝来ましたね。ってか、正確には来ていたか」

「仲がよろしいことで。ってか、ゆえ大丈夫なわけ?って、松尾も連絡がいったんならさ。朝遅刻する感じで家行って様子見てきてあげたらよかったのに。この学校遅刻欠席くらいあまり怖くないし」


 蓮花寺さんの言う通りこの学校ホントゆるゆるだからな。欠席もほとんど痛くないと思う。大丈夫かと思うが。とりあえず今はいいか。


「いやいやさすがにそれは――ってまあ一応派遣はしたんだけど」

「……派遣?」


 蓮花寺さんが不思議そうな顔をする。


「派遣」

「——うん?」


 再度蓮花寺さんが何をそれ?という顔をした時にチャイムが鳴り。それと同時に先生が入って来た。


「チャイム鳴ったぞー。戻れー」


 それから結崎不在のクラスは、特に問題なく。結崎が居ないから授業が進まないとかないからな。授業開始の号令担当が不在なので今日の日付の人がちょっと仕事が増えていたが。まあそれは運だな。


 それからあっという間に昼休み。俺は今日も中庭に向かってのんびりしようとしていたら。


「松尾ー」


 また蓮花寺さんに掴まった。って、なんか長宮さんもお昼?を持って俺の席のところにやって来た。嫌な予感がする。


「えっと――これは?」

「取り調べ?」


 蓮花寺さんがそんなことをさらっと言う。


「—―はい?」


 そして、少しクラスがざわついた。ではないが。俺の周りの席の人たちが珍しいものを見る。見たというのか。そんな感じになっていた。


 そりゃそうだよな。俺と蓮花寺さん、長宮さんの3人でお昼?いやいやなんかおかしいでしょ。と俺は思ったが。この2人は――普通にお昼を食べる気らしい。


「松尾。ぼさっとしてないで早く机の向き変える」

「—―あっ、はい」

 

 俺は蓮花寺さんに言われて自分の机の向きを変えて、今日は空席の結崎の机へと自分の机をくっつける。ちなみに長宮さんがすでに結崎の席に座っている。蓮花寺さんは近くの空いていた席から椅子を持って来た。


「うんうん。このメンツ面白いかも」


 すると、長宮さんがそんなことを言いながらお弁当を出していた。確かに意外性ならすごいと思うな。


「えっと――これは何でしょうか?」

「いや、まあたまには良いでしょ?うるさいのが居ないから」

「—―うん?うるさいの?」

「ゆえが居るとねー。なかなか松尾君の話題出せなんだよねー」


 長宮さんが早速ご飯を食べながら言う。それを聞きつつ。あれ?そうなの?と俺が思っていると。


「だってゆえ。松尾って名前出しただけで反応するからね。くくくっ」


 今度は蓮花寺さんがそんなことを言いながら野菜ジュースを開けていた。こちらは……健康志向の様子。ってそれはいいか。


「まあまあ松尾君もそんな固くならないでとりあえずお昼食べよー」

「え、あ、うん」


 ってか、やっぱり周りから不思議な視線があるような。って、そうか。よく一緒に居る男性陣。在良君。大木君らがこの2人と別々に居るからか。向こうは向こうで男子グループ何人かで食べているみたいだが。こっちが気になるのか。ちょっと視線を感じるような――気のせい?


 後で俺それこそボコられるのでは?とか思いつつ俺も準備していたパンを取り出して食べる。


「あっ。そうだ。松尾」

「うん?連絡先教えて。今スマホあるから」

「えっ……ああ」


 そういえばこの前中庭でそんなこと言ってたかと俺は思いつつ。スマホ出して蓮花寺さんと連絡先の交換をした。


「あー。そこもつながったかー。これで昨日みたいな私の作戦が使えないなー」

「奈都は不正しかしないからね」

「根回しです!」


 何故か笑顔でピースサインをする長宮さん。いやいやあれは不正。ズルかと。


「いや、それを不正と言うのでは……」


 俺がつぶやくと。


「ってかさ。昨日松尾君がバラしてくれたから大変だったんだからねー」

「えっ?」


 長宮さんがお昼を食べつつ急にそんなことを言い出した。昨日?もしかしてケーキのあれか?


「あの後追いかけられるは捕まったらしばかられるわ。もうホントくたくた」

「—―お疲れ様です?」

「全面的に奈都が悪い。鬼とか言うからね」


 そりゃ――長宮さんが悪いか。などと俺が話しを聞きつつ思っていると。急に長宮さんが身体を乗り出してきた。


「ってか知ってる?松尾君。澪はね。休みの日……」


 そして長宮さんがなんかニヤニヤしながら話し出したら――ヤバイ。俺の横に居る方が獲物を見つけたかのような表情をしていた。

 って、もしかして長宮さん。蓮花寺さんをわざと怒らせている?というか。これで楽しんでいるのでは?


「——奈都。放課後覚悟しときなよ。今日ならゆえが居ないから、止めてくれる人居ないからね」

「怖ーい」


 めっちゃ笑顔の長宮さん。これ楽しんでるわ。


「って、何を言おうか何となくわかったけど。松尾は別にいいだけどね。もう知ってるから」

「—―うん?」


 すると長宮さんがどういうこと?という顔をしつつ俺と蓮花寺さんを見た。


「うん?うん?あれ?うん?」


 そして蓮花寺さんも俺も答えないのでこの話はここで終了。ってか俺は何の話をしているかも変わっていなかったので、なにも言えなかった。

 いや、確証はなかったが。何となく普段バージョンの蓮花寺さんの事だろうと思いつつ。でも、知らないふり。気にしないふりをしつつ。パンをかじる。そして飲み物を飲む。変に触れないのが正解だろう。


「そういえば松尾」

「うん?」


 すると蓮花寺さんが思い出したように話し出した。


「派遣ってなに?」

「あー」

「——派遣?」


 どうやら蓮花寺さんは朝の会話を覚えていたらしく。その事を聞いて来たのだった。ちなみに長宮さんは知らないので、頭の上にはてなマークが浮かんでいるみたいだった。


「いや、一応。派遣というのは。まあ結崎さんの事を知っている大人というか。食事やらやら気にしている人が居て、俺もその人知っているから。まあ様子見を頼んだというか」


 嘘だが。嘘ではないというか。これでいいかな?と思いつつ俺は話す。


「あー、そういう事。じゃゆえ1人じゃないんだ。1人暮らしとか言ってたけど」


 ◆


 これは朝の事。


 俺はばあちゃんに結崎の事を話しておいて、結崎の家の場所をちょっと頑張ってというか。ネットの地図アプリを使いましてね。ばあちゃんに教えておいた。

 ってか、教えてからだが。ばあちゃん地理が苦手とかそういうのはなくて。ある程度場所を聞いたら隣町の事くらいはわかるとか言っていたから。俺はちょっと無駄なことをしたみたいだが。でも今の地図アプリなら航空写真というのか。いろいろ見れるのでね。朝ご飯を食べつつ。結崎の家の確認をしていた。


 そしてその後はどうなったかは知らないが、多分ばあちゃんの事だから。様子を見に行ってくれたはずと思っている。

 あー、そうそう2人に、ばあちゃんと言わなかったのは、なんか家族ぐるみ?見たいに思われてもなので、今のところは大人の人ということにしておいた。


 ちょっと気になることと言えば、今のところ結崎からの反応がない事か。

 でもばあちゃんもすることがあるから、お昼から――今頃行ってるかもしれないから。どうなってるんだろうか。俺には現状の結崎はわからない。


 ◆


「なんやかんやで結構。松尾君とゆえって接点あるんだよねー」


 長宮さんが言いつつフルーツを一口。


「……まあ偶然と言いますか――ね」

「ってか。誰か行ってるなら安心か。1人だと何かあってもわかんないからねー倒れてても」

「多分行ってる。だけどね。いろいろあるからすぐにではないと思うけど――」


 そんな感じで謎な組み合わせでのお昼休憩。チャイムが鳴るまで俺は2人に掴まっていましたとさ。

 ってか、なんか話しつつ居たら。普通というか。雑談をしてお昼休みは終わっていったという感じか。

 その後の授業も問題なく終わり。


 俺は放課後今日は楚原先生にいじられることはなく……えっ?なんでかって?

 そりゃ楚原先生も暇暇しているわけじゃないからね。俺は今日は荷物運び――先生は先生側で書類かなんか詳しくは知らないが。やることがたくさんあったらしく。奥に籠っていた。

 そして俺は頼まれた仕事を普通に1人でしていたので、平和な放課後だった。今日は利用する生徒も居たしな。よかったよかった。毎日利用生徒0人は――だからな。


 そして多分その時くらい。バタバタしている時に連絡があったのかな?帰る時に電車の中でそのメッセージには気が付いたのだった。

 簡単に言うと結崎からで。お昼からばあちゃんが来たらしく。いろいろご飯やらやら持って来てくれたと。結崎自身は昼過ぎにはもうほとんど良くなっていたらしく。でも助かった。という感じのお礼のメッセージが来ていた。


 って、まあ家に帰ったらばあちゃんも結崎の事を話していたんだがな。

 思っていたよりも元気で。ちゃんと寝ていたみたい。とかばあちゃんは話していたか。勝手にばあちゃんを派遣したので結崎に何か言われるかな。とは思ったが。問題なかったらしく良かった良かった。しいて言うなら――ばあちゃんが結崎の家を知ったから。後自分で何か持って行く。とかがあるかも。とか思ったが、今は気にすることではないか。


 本当は朝お大事にとかメッセージを送った時にばあちゃん派遣の話を――と思ったのだが。先に言うと結崎が断って来るというか。遠慮しそうだったし。なんか、部屋の掃除とかしそうだったからな。ドッキリではないが。今度謝っとくか。


 あー、そうそう問題がなかったわけではないか。

 ばあちゃんは俺が学校に行った後。料理など結崎のところに持って行くものを作っていたらしい。そしてそれが出来たのでお昼に家を出発したらしい。

 家に残されたじいちゃんの昼飯が無かったということを先ほど聞いて笑ったところである。


 じいちゃんは勝手に何かあったものをつまんでいたらしいが。ばあちゃん結崎の事好きというか。やりだすと、それに一直線という。


 そんなことがあって、少しくらいは影響したのかはわからないが。

 翌日。結崎は元気満タンというのか。ピンピンしていて。おばあちゃんが置いていってくれた料理がとっても美味しかったと。学校で会った時に言われた。

 そしてその時に勝手に派遣したことを謝っておいたが、結崎はむしろ感謝。みたいな感じだったので――よしだな。


 なお、その後ピンピンしていた結崎は長宮さんと蓮花寺さんに回収されていったのだった。

 なんか、取り調べの雰囲気だったな。俺は巻き込まれないようにすぐに逃走したからその後は不明だ。


 その後結崎はなんかぶつぶつ言っていたが……いや放課後か。俺が図書委員の仕事で職員室と図書室を往復している時に廊下で結崎と会ってね。いろいろ聞かれた。とか聞いたので。

 あっ結崎の方は書道の部活中で、ちょっと手を洗いに出たらちょうど俺が歩いていたみたいで捕まえたとか言っていた。短時間だがね。


 とりあえず結崎が復活したので、その週はいつも通りの学校生活になった――のだろうか?俺はなんか蓮花寺さんや長宮さんに話しかけられることが増えたので……ちょっと生活が変わった気がするが。


 周りからの視線もあるのでね。クラスの人気者にいきなり変なのが付いたというか。この前蓮花寺さんと長宮さんとお昼を食べている時もなかなかな組み合わせとか思ったが。そこに結崎が居るとね。まあもう大変。いや、さすがにその時は俺逃走したがね。無理無理である。


 まあそれで平和に過ごしていけばいいのだが。平和ってあまり続かないんだよ。マジで。

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