第15話 心造(オリジナル)武器

◇心造(オリジナル)武器

「ルネ、どこに向かってるの?」

 ギルドを出て、どこかへ歩いていくルネに俺とテイラーは付いて行きながら、既にかれこれ三十分ほど歩いただろうか。

「いいからいいから」

 さっきから俺達がどこへ向かっているかを訊いてもこの言葉の一点張りでいまいちその真意も探り出せない。ただ一つ分かるのは何か企んでいるような笑みをしていることだけ。

 歩いた先は王都の東側に存在するギルドとは丁度逆側の西側へとたどり着いていた。

「おい、ここって……」

「あー、うん。あれだね」

 そう、この工房はあのロリ店主のいる『黄金工房』である。

 昨日と比較しても今日はまだ昼前だからか知らないが、人が並んでいないことは幸いだった。

「あれ、もしかして?」

「ああ、昨日ここに来たんだ。ここだと自分でアクセサリー作りができるっていうからな。そういうルネは来たことあるのか?」

「来たことあるっていうか、まぁそうなんだけど、店主とは友達なんだよね」

 ルネとオームにそんな関係があったとは。それにしても世間というのは狭いものなんだな。

 そういえばオームとは次に会うのはまだ先くらいのノリで分かれたけど、まさか昨日の今日で会うってなったら驚くだろうな。そうなったらなんて言うんだろうか?

そんなことを考えていると、不意に笑みが零れたことに気づく。

 いつもだったら思ったりすらしないが、プレイヤーに会うというのに楽しみにしている自分がいる。

 それも全てテイラーに助けられ、ルネに出会えたからなのには違いない。

「アンディ君、何入口の前で二ヤッて立ち止まってるるの?後ろ詰まってるんだけど。早く中入れてくれない?」

「……」

 赤面し、硬直した俺をドアの前から退けるようにしてテイラーとルネは——ガチャリとドアを開ける。

 二人が店の中に入っていくのに連れて、俺も遅れながら店の中へと入っていった。

「いらっしゃーい、今日は……って、えっ⁉」

「こんにちは、今日も来ちゃいました」

 驚くオームにテイラーが挨拶を返すとなぜかオームの顔は見る見る内に青ざめ、文字通り顔面蒼白になっていた。

「おい、オーム、なんでそんなに青ざめた顔すんだよ?それともどっか体調でも悪いのか?」

俺はオームのその急変ぶりに心配しながら側まで行こうとする。

 しかし、俺が一歩進むとオームは二歩後ろに後退る。

「おい、オーム。ここまで露骨に嫌がられると流石に傷つくぞ」

 このままでは最早店から逃げ出すかもしれなかたので俺は少々荒っぽいがオームの腕を掴んで、この場から逃げ出そうとする彼女を引き留める。

「いや!いやぁぁぁぁ!この手を離せ!やめ、やめろぉぉぉぉ!」

 オームはパニックになり目をぐるぐると回しながら俺の手を強引に引き離そうとする。

 オームが俺の手を引き離そうと益々力を入れてくるので俺もそれに応じるように力を加える。しかしそれでもオームの力には敵わず俺の手は次第に引き離されていく。

こいつ、どんだけ力強いんだよ!幼女の力ってレベルじゃねぇぞ!

そして俺の手がオームの腕を離れた瞬間、元々体勢を後ろに倒していたせいでオームはそのまま凄い勢いで背後の壁へと突っ込んでいく。

「うわっ!」

「危ない!」

 急に後ろへと進みだした体に驚くようにオームは声を上げる。

(まずい!このままだと壁に激突する!)

 俺は咄嗟に彼女の腰へと手を回し俺の体へと引き寄せる。それでも勢いは収まらない。

 俺は壁に衝突することを覚悟し、体を回転させる。

 ドンッと大きい音と共に俺は壁にぶち当たる。

 痛ってぇ……まぁ、いつもの殴る蹴る極めるよりはマシか。これに関しては普段の暴力に関しても感謝だぜ。

「お、おい!大丈夫か!」

 イチゴのような甘酸っぱい凄い良い香りがする。目の前にはオームは心配そうな表情で俺を見ていた。

「あ、ああ大丈夫だ。そんな心配すんなよ」

「心配すんなって言っても、って口から血が!」

 言われて気づいたけど口の中に血の味がする。どっか切ったかな?まぁ直ぐ治るだろ。

「オームも怪我は無いか?」

 寧ろそっちの方が俺にとっては心配だ。男は怪我なんてしてなんぼだが女の子の怪我は一生物に成り兼ねない。そうなったら賠償金とかなんか払わされることになったら洒落にならない。

「ウチは大丈夫だからって……ん?」

 どうしたんだ?オームはなぜか下を見ている。

 そんな下を見てもその小さな体には胸もなにも無いのだからあるのは足だろうと思うのだが、その視線の方向に釣られるように俺もオームの目線の先を見る。

 あれ、オームの脇のところに手が生えてる。あれ、でもオームには既に手が二本。

 それとは関係無く右手に妙に柔らかい感覚がある。

 ああ、これはオームの三本目の手と間違っているなんてことでは無い分かっている。だって無い物に柔らかいも何も無いんだから。

「おい、オーム。お前手が三本になって——」

「胸触ってんじゃねぇ!」

「ブボッ‼」

 痛っ!なんでその小さい体と腕で一人の男をアッパー一撃で吹っ飛ばせるんだよ⁉

「ってかなんでお前そんなにパニックになってたんだよ。俺なんかしたっけ?」

 俺はあちこち痛む体に鞭を打ち、なんとか状態を起こす。

「い、いや、それは、その……」

 ゴニョゴニョとしながら指を向ける、ルネに。

 あー、なんか分かってきた気がする。

「ルネ、なんかやったの?」

 テイラーは不気味な笑みを浮かべながらルネに詰問する。

「え、い、いやぁなんかしたっけ?」

「ルネ!お前ウチにしたこと忘れたつもりか!ある日に一緒に魔獣討伐に行ったと思えばウチを囮にして百匹近い魔獣から逃げ帰るし、またある日にはウチのお気に入りの使い魔ごと魔法ぶっ飛ばして瀕死にするし、またある日には……って挙げ出したらキリがないくらいやらかしてくれただろ!」

「え、でもルネ結局あのときは生還したし、使い魔も生きてたでしょ?」

「あれから僕の使い魔は君とどこか行くと酷く怯えるようになっちゃったんだよ!」

 これは完全にルネが悪いな。うん。

「テイラー裁判長、判決は?」

「原告の訴えを認め、被告ルネを死刑とす。以上」

「死刑⁉」

 ルネはテイラーからの突然の死刑宣告と羽交い絞めに困惑の顔を見せる。

「あー、えっと、まぁ色々トラウマ植え付けちゃってごめんって。ほらほらこれで許してよ」

 そういってルネがオームの足元で土下座でもするように膝をつく。

 ほう、ルネもこんなに素直に謝れるのかと一瞬でも感心した俺が甘かった。

「ほーら高い高~い」

 ルネはオームを肩車に乗せ、幼児をあやす様に高い高いをしだす。

 何も状況を知らなければ元気な母親と子供に見えることだろう。

「これで許されると思っとんのかぁ!」

 肩車された状況からぐるりと体を回すと——そのままの勢いでフランケンシュタイナーだと!

「ブゴッ‼」

 オームのフランケンシュタイナーを受けたルネはというと豚の鳴き声のような声を上げて店の床に突き刺さっていた。

「ふぅ、スッキリしたぁ!ごめんよ、待たせちゃったな」

「……お、おう」

 やっぱ最近可笑しいって、女子の強さインフレしすぎだって。まず、普通の人間フランケンシュタイナーやらないし、そもそもフランケンシュタイナーで床が抜けるとか可笑しいでしょ。なんですか、俺いつのまにパラレルワールドとか来ちゃったんでしょうか?

「そんで今日はどういう要件だい?」

「あーそれなんだけどちょっと工房貸してくんない?」

 ルネは床からなんとか抜け出してオームに頼む。ってか俺もだが、こいつの体も丈夫過ぎるだろ。

「オッケー、工房は開いてるから好きに使ってくれ」

 ルネはオームから工房の鍵を受け取るとテイラーと共にそのまま工房へと向かったので、俺もそれに付いて行こうした。

 しかし、その時オームに呼び止められる。

「お、おい!」

「ん?」

「さ、さっきはその、ありがとう」

「何が?」

「何がってほら、壁にぶつかった時だよ」

「あー別に大丈夫だぞ。俺、体は丈夫だからな」

「本当にお前って変わってるよな!」

 愛らしい一人の少女の笑顔。ほんの数日前ならただプレイヤーが笑ってるくらいにしか思わなかったであろうその笑顔が今の俺には凄く心に沁みてくる。

「ほら、早くいけよ。こっちは店やってんだから」

「はいはい」

 ルネも先に行ってしまったし、ここにいてもオームの仕事の邪魔になるかと俺は直ぐに二人の後を追った。


 工房まで行くとルネはまた嫌らしい目で俺を舐め繰り回し、テイラーはジト目で俺を見つめてきた。

「何話してたのかな~?」

「別になんも話しちゃいねぇよ」

「アンディ、本当に何も無かったの?」

「なんだよ二人して。本当に何もなかったって」

 逆に俺の方が何を期待していたのか訊きたいんだけど。

「そういやルネってさ、何ていうかこういう時、変態エロ親父みたいな目付きしてんのな」

「グハッ」

 あれ、ルネが倒れた。これはもしや……

「なんていうかさ、ルネってやってることちょくちょくっていうか大体爺臭いよね」

「グフッ」

 今なんかカンカンカーンって鐘の鳴る音が聞こえた気がする。

ま、それはそれとしてルネの弱点を見つけた気がする。

「ふ、二人とも、人をおっさん呼ばわりするのは止めてよ、僕まだ十八の女子だよ?」

「いや、その行動一つ一つがおっさん感あるんだよな」

「……」

 あ、なんも言わんくなった。これは少し言い過ぎたか?

「はいはい、じゃー武器作るから見てろガキ共」

「態度変わりすぎだろ!ってか最早誰だよお前」

「君らがおっさん臭いっていうんじゃん」

 おっさんおっさん言うとルネはこうなるのか。こいつのコントロールの仕方を一つ身に付けたな。

「分かった。おっさんばっか言ったのは悪かった。それで何作るつもりなんだ?」

 俺は当初から気になっていたことをもう一度切り出す。

「ずばり、お答えしましょう!それは武器です!」

「あー。やっぱりか」

「アンディ失礼でしょ!ルネは今精一杯あたし達を驚かそうと努力してるんだから」

「ちょ、おい!アンディ君もだけどテイラーちゃんも大概に失礼だと思うよ⁉」

 テイラーの残酷なカミングアウトにルネは愕然としている。

「と、とにかく武器を作るんだよ!武器が出来れば君らの攻撃力が、テイラーちゃんみたいなタイプなら多分魔力が上がるんだ」

 そうなれば俺達の全体的な火力の増加になる。

「でも俺ら別に技術も金も無いぞ?」

「材料とかも持ってないんだけど」

「それも大丈夫。材料は僕のもってる物で何とかなるはずだから。あと、作るのは君ら自身だけど、そこに技術的なものは何も要らないよ。必要なのは君らの心。今から作る武器は君らの心と最も適合する形の武器。それは即ち君らだけの心造(オリジナル)武器ってことだね。金は……仕方が無いから僕が払うよ」

「「心造武器……」」

 心造武器が如何様なものかは知らないがなんか凄そうなことだけは伝わってくる。

「例えば僕のこの剣も心造武器だね」

「ねぇ心造武器と普通の武器って何か違いがあったりするの?」

「お!いい質問。心造武器っていうのは普通の武器と違って武器に特殊な能力が付与されているんだ。それらの能力は発動する時武器の名前と能力名を口にすると発動できる。僕のこの剣には一定範囲内に前提を強制的に作り出す能力がある。この前の戦いではプレイヤー含む人間全員に他者への攻撃ができなくなる前提を作り出したんだ」

「ナニソレ最強じゃん」

 それ全員の攻撃を向こうかできるってことだろ。滅茶苦茶強いじゃん。

 しかし、俺の考えを否定するようにルネは人差し指を振る。

「全ての人間はって僕も攻撃できないから僕も攻撃できないんだわ。あと、範囲外からの遠距離攻撃はどうしようもないし。そもそも僕に直接の攻撃じゃなくて、例えば僕の上に天井があったとして、そこに放った攻撃によって落ちた天井は僕に当たるんだよね。だから厳密に無敵って訳じゃないんだ。他にもこの前戦ったネイピアって言う人のあの矢を増やす能力も心造武器による能力開放だったね。ってな感じでちょっと前置きが長くなったけどまずどっちが先に作りたい?」

「じゃああたし先に作るよ」

 テイラーは立ち上がってルネと共に大きな台の前に立つ。

 ルネは大きな袋を取り出し、台の上に中に入っていた何かの粉を出す。

「なんだこの粉?」

「これは魔獣の素材、他にも希少な鉱石とかを全て粉状にした物だよ。まぁ見てなって。それじゃテイラーちゃんは心を何も考えずこの粉の上に手を置いて」

「こう?」

 そう言って、テイラーが粉の上に手を置くと今さっきまでただの粉でしかなかった物が水銀のような光沢のある真鍮色の液体のように溶けていく。

「うわっ、なにこれ」

「もうちょっとそのままにしてて」

 そうテイラーが言うと、それまでは無秩序に散らばっていた液体はまるで何か意思があるかのようになにか幾何学上の模様を描いていく。

 ホントどういう原理なのか全く理解を超越している。

 最後に液体は激しく光を放つと台にはほんの数瞬前まではあった液体が全て無くなり、テイラーの手元にはユニコーンの角のように捻じれた形の一本の白銀のロッドが握られていた。

「これが、あたしの心造武器……」

「ロッドだね。やっぱテイラーちゃんにソーサラーの適正はかなり高いと見て間違いはないね。そんじゃ次はアンディ君」

 俺はテイラーに代わって台の前に立ち、ルネの用意した粉に手を置く。

 やはり粉はテイラーの時と同じく光沢のある真鍮色の液体へと変化していく。

 ここまでテイラーとプロセスは全て同じだ。暫くすると液体は魔法陣を描き始めた。しかし、魔法陣は一つではなく三つの魔法陣。

「な、なんだこれ」

 やがて液体は一瞬だけ太陽のように白く発光すると、先ほどまで魔法陣があったところには三枚の金属片だけが残っていた。一枚は鋼色の、もう一枚は藤色の、もう一枚は赤銅色だった。

「おい……ホントになんだこれ」

 形としては全体的に丸みを帯びた三角形の形、ギターのピックが近いな。

 よく見ると金属片の周りには刃がついている。

「ブフッ!ねぇ、これ何処持つつもりなの?」

 ルネは笑ってるけど、これ本当にどこ持つんでしょうか。まぁ俺の心が映し出したものだからどこか持てるようには作ってあるはずなんだけど……え、これ挟んで持つの?危なくね?敵と刃交えたときに指ちょっとでも滑ったらスパーッて手ごと切れるよね?危なくね?

「アンディ、ちょっと持ってみてよ!」

 テイラーに言われるがままにその武器っぽい何かを俺は手に取る。

 持ってみて俺は一つ分かった。この武器は多分人差し指と中指で持つんだと思う。

 理由は分からない。けれど、それがこの武器の正しい持ち方だということだけは感覚的に俺の脳へ流れてきた。

「ルネ、軽く剣振ってくれないか?」

「え?危なくない?その武器なんとなく切り結ぶような武器じゃない気がするんだけど」

 まぁ、そう思うよな。

「そこに関しては大丈夫だと思う」

「じゃ、じゃあ行くよ?怪我しないでよ?」

 ルネは剣を抜いて構え、振り下ろす。俺は右手の指で挟んだその武器でルネの剣を受け止める。

「もっと力籠めていいぜ」

「いや、本当に危ないって」

「お前は俺のおかんかよ!」

「そんな歳行っとらんわ!」

うお、やっぱ煽ったら力入れてきたな。でもやはり俺の指が剣から離れるような気配は一切ない。

それが確認できたところで俺はルネの剣を横に逸らす。

やはりそうだ。この武器は敵の攻撃を受けるのではなく流す方がずっとやりやすい。むしろそっちの方に特化しているのかもしれない。

「もう大丈夫なの?」

「ああ、多分心造武器って自分の体の一部みたいになるから指から離れることはまず無いんじゃないのか?」

「確かにこのロッドも初めて持つのに何も違和感とか持ちなれない感覚ってないかも」

「……えぁー、そ、そうだった。心造武器は手からは離れないんだよね」

「ルネ、知らなかったんだね」

「……しょうがないじゃん!僕だって知らないことぐらいあるんだよ!ってかそんなこと誰が気づくよ!」

 まぁこの感覚は確かに凄く気付きづらいものかもしれない。正直、持ちづらい俺の武器だからこそ気づけた事とも言えるかもしれない。

「まぁ、それはそうとしても、俺のこの武器ってクラスは何になるんだ?」

「だから分からないよ。こんな異形の武器なんて見たことないよ。あとその武器に既に名前が刻まれてると思うんだけど?」

 そう言うルネが自分の小太刀の柄を見せるとそこにはその刀の銘が焼き印として刻まれていた。

「僕の小太刀は刃の無い無銘の剣だから多分『無銘の鈍』って名前になってると思うんだよね。なんかカッコ良くない?」

「普通だな」

「普通だね」

「え、ちょっと待って!君ら今日僕に対する扱い酷すぎない⁉いや、確かに冷静に考えてみれば普通と思うかもしれないけどさ!ずっと使ってるとそれなりに愛着も沸くんだよ!」

 甘いな、ルネ。それが因果応報というものよ。普段の自分の行いを悔い改めるのだな。

 でも名前かぁ。俺は名前に期待を寄せたいが、いまいちこの武器に信頼というのが置けないんだよな。武器としては使えるとは思うし、さっきは小太刀で軽く刀を普通に戦闘で大剣とかとやりあったら俺の指ごと粉砕するんじゃないのか。

 などと、自分の武器の名前に不信感を抱きつつある俺を傍にテイラーは自分のロッドの名前を探している。

「えーっと、このロッドの名前は——あ、これか。えーっとエヴィアット・ドライブ?」

「なんかその凄い名前だね」

「う、うん。正直もうちょっと普通で……」

「かっけぇ……」

 うん。なんかカッコいいことだけは分かるぞ。いいなぁ。俺もあんな名前が良い。

「「え?」」

 え?なんで二人ともそんな目を向けるんだよ。そんな腫れ物を見るような目をするなよ。おい、訳も分からずそんな哀れな目を向けられてもこっちは困惑するだけだぞ。

「ま、まぁ趣味は人それぞれだからさ、それでアンディ君の武器は?」

 そうだった、頼むぞ俺の武器。見た目はちんちくりんなんだから、名前だけでもなんかカッコいい感じにしてくれよ。

 俺は恐る恐る武器の裏面を確認する。

「名前は——ピックナイフ」

 なんだよこれ!テイラーはあんなカッコいい名前なのになんで俺のはこうも普通オブ普通な名前なんだよ。ってかこれナイフって括りだったんだ。刃はあるけど分類的にどれに属すのか分かりづらいぞ。

「こっちは普通なんだね」

「あたしはこっちの方が良いと思うけどね。それで他の二つの名前は?」

 そうだった俺の武器は三つあるんだった。もしかしたらそれぞれ名前が違うのかもしれない。

「ピックナイフ、こっちもピックナイフ」

 一緒ですね。薄々気づいてはいたよ。

 まぁ名前のカッコ良さなんていざ戦闘になってみれば気にならないものだろうし諦めるとしよう。それより名前やら武器の種類やらで忘れていたが、能力の方はなんなのだろう。

「もう名前の方は仕方が無いとして、それで武器の特殊能力ってどうやって分かるんだ?」

「あ、そうだよ。そっちの方があたしも知りたい」

「それなんだけどさ、君達って視界に他のプレイヤーの名前とか見れないんだよね?」

「当たり前だろ」

 逆に見えるならどういう風に見えるのか教えて欲しいぐらいだし、そんなのが一々視界に映ってたらプレイヤーの名前とかばっかで視界が埋め尽くされて何も見えなくなるだろ。

「そしたら後は何度も使ってみて直観とセンスだね」

「それって両方とも同じじゃ……」

「細かいことは気にしないの」

「ルネ、登録も終えて、武器も作ったことだしそろそろ王都ともお別れか?」

「そうだね。能力については君らの村に行く途中にでも僕が直々に稽古付けてあげるから覚悟しといてね」

覚悟しなきゃいけないレベルなのか。でも強くなるためだ、それが目的を果たす為に必要だと言うのなら甘んじて受けなければいけないだろう。

 今こうしている間だってまたどこかの人がプレイヤーに利用されているかもしれない。

少しでも早く強くなるためにはより多くの経験を積み、極限まで追い込む他は無い。

「あれ、もう武器制作は終わったのかい?」

 俺達の様子がどうなっているか気になったらしいオームが部屋に入って来た。

「うん、ちょうど今終わったところさ。テイラーちゃんのがこちら」

「ほえー、凄い綺麗だな。心造武器は心の写し鏡だから、それも表してるのかもしれないな」

 オームの誉め言葉にテイラーは思わず頬が緩んでいる。

「それでアンドリューの武器は?」

「これだよ。ピックナイフって言うらしい」

 俺は三枚のピックナイフを見せるとオームは目を大きく開けた。

「なにこれ!こんな武器見たこと無いよ。もしかしたら世界初のナイフかもしれないな。しかも三つもあるのか。武器の攻撃力自体はそこまで高くは無いけど戦略は格段に広がるに違いない。ほかにも……」

ピックナイフがそれ程までに希少性の高い物だとは知らなかった。だがそれ以上に意外だったのはオームが武器になるとここまで目を爛々と輝かせて武器について語り込み没頭するほどの所謂武器オタクだったとはな。

「まぁオームは生粋の武器コレクターなんだよ。この子多分この世界の心造武器以外の武器とかは大概持ってるくらいだからね。ほらオーム戻ってこーい」

「はっ!ごめんごめん、ちょっと自分の世界に入りすぎてたか。ごめんな、見たことも無い武器だったからつい」

 オームは顔を赤く染め、一瞬俺と目が合うと直ぐにそこから目を逸らした。

「それでアンドリュー、もう王都を出てっちゃうのか?」

「ああ、一先ず王都でやることは全て終えたからな」

「そ、そうか。またこの街に戻ってくるのか?」

「あー多分また来ると思うぞ。いつになったらってのはちょっと分からないけどな」

「そ、そうか。それじゃ、またな……」

 どうしたんだろうか?なんか今日は体調でも悪いのか?そういえば顔も赤かったな。大丈夫だろうか。

そんなよく分からないオームと俺を交互に見るようにして、「ふむふむ、これはもしかして……」などとルネはぼそぼそと呟きながら考え込んでいる。

「アンディ、早く出るよ!オーム、もうやることは終わったんでしょ!」

 なになに?もう少し別れの余韻とか楽しませてくれないの?

「おいテイラー、なんでそんな焦ってんの。まだ時間あるよね?」

「早く出てっても良いでしょ!」

「じゃあオーム、僕らもう行っちゃうけど……」

「な、なんだよ」

 ルネはオームと別れる前に何やら品定めでもするような目を向ける。

 すると——パンッと一つ猫だましをし、すぐさまオームの背後に回り込む。

「うわっ!」

 唐突な猫だましに驚いたオームは後ろに重心が行ったのが運の尽き。丁度回り込んでいたルネに抱き着かれる。

 オームの血相はあっという間に真っ青になり、目元には薄っすらと涙が滲んできている。

「お、おいルネ止めような?な?」

 あ、オワタ。今ルネの目が獲物を見つけた獣張りに光った気がする。

 ルネはまず抱き着いたオームの体をまさぐるように腕を伸ばしをあちこちを撫でまわす。

「いやっ……ちょ……そこは、ダメだって……」

 なにこれ。女子同士なら犯罪にならないってこと?ヤバい、どういう訳か鼻から血が……

ってかテイラーは大丈夫なのか、こんなん見てて。と思ってテイラーの方を見ると、テイラーは目の前で何が起きていることが最早己の理解を超越したことで脳がショートし、赤面したまま硬直していた。

「離せ!はーなーせー!ヒャッ!もう通報だ!通報!」

「あ、ダメ通報はしないで!ごめんって本当にごめんって。いや、オームとの別れが惜しかったから遂ね?」

 遂でそこまで行くのかぁ?という疑問はあったがそれ以上に再びオームにはルネに対するトラウマが刻み込まれたらしい、それはもう深く。

「ルネ許すまじルネ許すまじ……」

「ルネどうすんだ。重症だぞ」

「ちょっと調子乗りすぎました。あのオーム、ホントごめんね?あの今度何でも言うこと聞くから」

 GG。

「え?今何でもって言った?」

「え、あ、しまったぁぁ!」

 途端に先ほどまでとは形成逆転。ルネの顔が青ざめ、オームの顔は見る見る元気になっていく。ルネって結構詰め甘いよな。

「今度絶対復讐するから覚えとけよ?」

 オームのその満面の笑みからの復讐宣言怖すぎでしょ。ルネとか膝震えてるよ。

「それじゃ、俺たちはもう王都を出発するから。またなオーム」

「うん、アンドリューも元気でやれよ」

 どこか名残惜しい気持ちが無いわけでは無い。NPCでありながらこんなに自然に接してくれる。もっと話とかしてみたいとも思った。でもこれで終わりじゃない。必ずまたどこかで会えるんだから。

 だからこそここで言うべき言葉は「さようなら」じゃない。

「「またな!」」

 二人の声が交わり合う。俺達は再会を願って工房を後にした。

 

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