第14話かぁわいい ✴︎
挟まれた。
夕方の裏通り。
寮からウチまでは大した距離じゃないとは言え、住宅の切れ目が何ヶ所かある。
イチの背後に近づく男は、あたし達よりも少し年上かな。
顔はまあ。ギリ、イケメンの部類に入れてやってもいいかなぁ? と言うところだけど、目つき顔つき共にお世辞にも友好的とは言い難い。
ついでに見覚えもなし。
「あたし達のような普通の高校生に何のご用ですか」
今は制服じゃないし、会話の内容を聞かれていたのはわかっているけど、一応シラは切っておく。
「後ろから近づく敵が、気にならないのか?
振り返って、ちょっと見てみろよ」
あら、無視ですか。
あたしと目を合わせたその男は立ち止まると腰に手をあてる。
黒のTシャツにゆったりとした黒のパンツ。
目立った武器はなし。
あたしが一歩右にズレるとほぼ同時に、イチも自分の右にズレた。
「全然気にならない。
相方信用してるもん。
今日は不本意だけど」
視界の隅のイチの顔が、一瞬諦めたような笑いを見せてあたしの頭にぽふっと手を乗せる。
「悪かった。
捕まんなよ」
「当然っ!」
男は鼻で笑うと、前髪をかき上げイチの正面の相手に視線を送る。
「
お前はそっちがいいだろ? アギト」
餓狼っ!
イチと一瞬視線を合わせる。
「敵前で気安く名前を出すな」
背後からは苛立ちを含んだ男の声。
「いいじゃないか。
俺はキバ。これから自分達を狩る人間の名前くらい知っておきたいよな?
少年マンガの醍醐味だろっ」
そもそも少年マンガじゃないし。
あたしに向かってダッシュしてくるキバに、距離を取るようにイチから離れる。
視界の隅のイチも跳んだところを見ると、アギトとの交戦が始まったのか。
スピード申し分なし。
あたしを追う身体に正面を向ける。
顔面を狙う正拳突きに身をかがめ、キバのみぞおちを狙い蹴りを放つっ!
ガッ!
衝撃を受けてフォローに入ったキバの左前腕があたしの蹴りを受け止めた。
クルッと肘を支点に手のひらを返したかと思うと
さわわっ。
ショートパンツから伸びたあたしの太ももに手が這って来るっ!
「ぎにゃぁぁぁっっ!」
全身総毛立つ。とはこの事かっ!
ズザザザァッ!
音を立てて後方に跳びずさるっ。
「んななななっっ!
何してんのよっ!」
一気に赤面するのがわかった。
「若い肌はいいねー。
ま。俺もそんなにおっさんじゃないけど」
にぃっと口が歪む。
###
カエがサイドに跳びずさり、イチもアギトに向かって跳ぶっ!
(早く片をつけてカエのフォローに……)
構えるアギトに上段蹴りを放ち、腰を落としてカバーに入っていた身体ごと後方に吹き飛ばすっ!
「っ!
いい蹴り足。いいね」
かろうじて体勢を保ち、転倒を免れたアギトの視線がイチの全身を舐めるように移動していく。
(軽いな。スピード
ジュニア程じゃなきゃいいけど)
再度追いすがり、足元をすくうようにローキックで
「ぎにゃぁぁぁっっ!」
突如上がったカエの叫び声に、一瞬集中が散った。
「キバは重度の女好きだからね。
お持ち帰りされないように気をつけな」
耳元で囁く唇が、舌を出してイチの耳たぶに絡んでくる。
「っっ!」
耳を抑え跳びずさるイチに、にぃっとアギトの口が歪む。
「かぁわいい」
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