第13話俺はっ
土曜日の報告はおしまい。
深雪のPTSDの件にも一応触れておいた。
「下校するにはあの道しかないものね。
しばらくはカイリへの報復も考えて、カエちゃんと深雪ちゃんには護衛を付けましょう」
リカコさんが唇に細い指を当てて指示を出す。
「カエが一緒ならコソコソ尾行する事も無いもんね。
僕とイチで見るよ」
ジュニアの視線にイチもうなずく。
「ありがとう。
深雪にはあたしから話しておくね」
とりあえず、近々の問題は回避かなぁ。
「むううぅぅぅぅー」
ぐるぐる回る問題の数々に、ため息とも何ともつかない息が漏れる。
「こんなに騒ぎになるなんて。
深雪のことと言い、さっきの学生のことと言い。
SNS恐るべし」
ソファーの上で体を折ると、隣に座るイチが前屈の背中を押してきた。
「この前も言ったけど、あれが一番最善だったって。
あの場にいなければっ。なんて事はそもそも無いんだし、カエがいたからこそ被害が最小限で済んだんだって思えよ」
「……うん」
窓の外がゆっくりと夕焼けの紅に染まっていく。
「カエはしばらく護衛付き」
1人ならどうとでも巻けるから大丈夫なんだけど、みんなに押し切られての帰り支度。
一緒に立ち上がるイチが、席を立たないジュニアを振り返る。
「ジュニアは行かないのか?」
なんとなく、リカコさんを送るのはカイリ、あたしを送るのはイチとジュニア。とセットが決まっている。
「今日はいい。
土曜日の怪我の報告を黙ってたお説教には巻き込まれたくないもん」
……はっ!
あたしかっ。
パッとイチを振り返ると、しれっと視線を逸らされる。
「いやぁ。ジュニアも一緒に帰ろうよー」
「いってらっしゃぁい」
ジュニアの袖を引くあたしは、無情にもイチに襟を摘まれて連行された。
「付いて行かなくて良かったのか?」
閉まるドアの音を聞き、カイリがコップを片したキッチンから出てくる。
「大丈夫じゃない?
今回はフォローが足りなくて怪我させちゃった。
フォローにも回れなかったイチはもっと悔しかっただろうしね」
パソコン画面を見つめ、テーブルを拭くリカコとカイリを振り返る事もなくジュニアは返事を返した。
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寮を出てから一言も話さないイチにチラリと視線を送ってみる。
「怒ってる」
寮では普通に話してくれてたのにな。
「……。自分に怒ってる」
ん?
イチの言葉を頭の中で繰り返す。
「えと……イチは悪くなくない?
現場にもいなかったわけだし」
「だからだ。
倉庫の下見をした時にでも、やっぱり代わっておけばよかったんだ」
むむむっ。
足を止めてイチを睨みつける。
「あそこで代われっていわれてても、あたしは絶対代わらなかったよ。
イチがそういう交代を申し出てこないのは、あたしをちゃんと同等に見てくれているんだと思ってたのにっ!」
なんだか悔しくて目の端が潤んだ。
「カエ。今回は撃たれてたかも知れないんだぞっ」
「そんなの今に始まった事じゃないっ!
イチだったら怪我をしなかったってわけじゃないでしょっ!」
つい語気が荒くなる。
「俺はっ」
「天下の往来で話すには、内容が過激じゃないか?」
あたしの背後から聞こえた声にイチの視線がその姿を捉える。
あたしも、イチの背後に近づく影に視線をぶつけた。
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