第47話 因幡堂での屈辱
弘安2年(1279)春、一遍上人さまに率いられた一行は京へ入りました。
偶然の出来事がきっかけとはいえ、福岡の市での思いがけない盛況はわれら時衆に多少の自信めいたものをもたらせておりました。地方めぐりもさることながら、都市の底辺に生きる民衆の魂に救いの手を差し伸べることもまた上人さまの目標であられましたので、わたくしたち全員、大いに勇んでの
ところが、好事魔多しと申しますか、都での反応は思いもよらないものになってしまったのでございます。
京入りされた上人さまがまず
なれど、渋々とした様子も隠さず応対に出て来られた因幡堂の役僧は、露骨に顔をしかめ、「かような集団に貸す宿は当院にはありません」として内陣の扉を閉ざされましたので、わたくしたちは夜風の冷たい縁先に締め出されてしまいました。
そのころ、都には
もとより、野宿を覚悟のうえの遊行ではございましたが、藤井の里や福岡の市で思わぬ歓待を受け、さらに多数の帰依者を獲得したあとでございましたから、因幡堂での屈辱は、いっそうの
地位も名誉もなく、拠るべき寺院も持たない遊行僧は宗教者として認めない。
そんな声なき通告が、上人さまと時衆の前に立ちはだかったのでございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます