第73話 人は焦ると、ドジを踏む。「え?あー、えっと.............。」
「ボス。どうしやす?」
「そろそろ身代金でも頂戴しますか?」
「いや、焦るな。もう少し組を焦らせろ。」
中でそんな声が聞こえる。
■■■■■
バン!
大きな音がする。
俺が、倉庫の扉を勢いよく開いた音だ。
中は荷物で少し、入りくんでいた。
ただ、その通路の真正面、視線の先に、伊世早美優の姿が見えた。
「美優!!」
俺は普通に、彼女の名前を叫んでいた。
「何?!」
「誰だ!」
「ヒュー。男がいたのか。」
「助けに来たのか?バカなやつめ。」
「い、糸谷くん!!」
俺の登場に驚いたのか、目を丸くしている彼女。
両手足を縛られ、目に少しの涙が光るのが分かる。
こんな時に不謹慎だが、アリだと思ってしまった。
すまん、美優。
彼女なりに、抵抗を試みたのだろう。
腕に痣が出来ていた。
そして、縛られた状態で動くから、胸元がはだけて大変だ。
ふざけるな!
俺の妹に手を出して良いのは俺だけなんだ!!
あ、タンマ。
俺が妹に手を出すのもダメな気がする.............。
ち、違う。
今はそれどころじゃないんだ。
話の腰を折るなよ!!オレ!!
「おい!誰だ!」
取り敢えず、見張りの男が3人。
その奥から、5人が出てくる。
どこかの不良グループの集団のようだ。
皐月組が金で雇ったな。
その不良に囲まれるように彼女は転がされていた。
一部の不良メンバーが、俺の周囲を取り囲んでくる。
「誰だ?
名前を名乗れと言ってるんだボケが!!」
サブリーダーのような、体格の良い男が近づいてくる。
見るからに喧嘩慣れしてそうな感じだ。
「えーっと、すいません。
迷子になっちゃって.............。」
ここ、いったいどこですかねー。
俺は、キョロキョロと、一応、振りだけしてみる。
「あぁん?」
まぁ、そうだよな。
銀髪にオールバックの男はさらに不機嫌な声を出した。
「こんな軍の倉庫に、一般人がいるわけねーだろ。
もうちょい、考えて嘘をつくんだな。
兄ちゃんよー。」
「おら、おら、おら。」
一人の不良Aが抜きん出て、俺の前方をとる。
「メガネの陰キャは部屋の隅が似合うよなぁ~。」
そして、下手な挑発をしてくる。
「簾の前髪は、引っ張るために伸ばしてるんだろ?」
俺は、前髪を引っ張られる。
「いやー、自分からいじめで欲しいと、体づくりする人は初めて見たねー。」
そいつに釣られるように、じりじりと他の仲間が接近してくる。
「おい。
ボサッとしないで、捕らえろ。」
サブリーダーの男が顎で指示をすると、一斉に、俺に飛びかかって来た。
俺の腹部に、拳がささる。
「ぐっ。」
思わず、声が漏れる。
やっぱ、来るって分かってても、痛いな。
俺は、されるがままに殴られ、蹴られる。
「ぐっ!
かはっ!!」
意図せず、息がつまり、目が滲む。
「おいおい。好きな女を迎えに来て、この様じゃ、彼女に幻滅されるぜ?」
「なぁ?」
そして、その様子を高みから見物するリーダーが、そばにいる美優に視線をおくる。
「止めてください!!」
必死に男の体の中で抵抗する彼女。
「いったい、あなたたちの目的は何なんですか!!」
「だから、何度も言っているだろ?
お嬢ちゃんよ~。
金、金出せっていってんだろ~?」
伊世早は、ガッポリ儲けてるだろー?
「
糸谷くん、糸谷くんを助けてあげて下さい!!
彼は、伊世早の関係者でもないんです!!」
「それがどうしたんだよ。
お嬢ちゃん。
世の中、そんなに甘くは無いんだぜ?」
「止めてください!!
彼は、高校のクラスメイトなんです!!
私の大切な友達なんです!!」
彼女は、制限された体を、最大限に震わせ、懇願してくれる。
「おい。もっとやれ。」
リーダーが呟き、俺への暴行が激しくなりかけた時、俺の前にいたサブリーダー男が吹っ飛んだ。
いや、正確には、吹っ飛ばした。
「正当防衛、だよな?」
俺は、汚れた唇を手で拭い、立ち上がる。
防弾チョッキって、衝撃回避能力無いのな。
「な!!」
リーダーの顔が驚きに溢れるのが見えた。
「やれ!!」
慌てて取り繕うが、時既に遅しだ。
俺は、キッチリと相手が仕掛けてくるんのを待ち、反撃に転じた。
「へっ、ザマーないな。」
俺は、その拳を余裕で交わす。
ひゅ。
ドカ。
すまないな。
俺、格闘技得意分野なんで。
俺は、次々と倒れ込むチンピラに少し謝りつつ、薙ぎ倒していく。
最近、演技も上手くなってきたよなー。
さすがは、矢々葉絃千で鍛えただけある。
ただ、痛め付けられる演技は、あんまり要求されないんだよなー。
「な!」
不良の顔が歪む。
俺は、手の埃をはらうように、パンパンと擦り合わせた。
「どーも。」
俺は、リーダー以外を殲滅させると、彼のもとに歩み寄る。
「お、おい。聞いてないぞ。こんなに強い奴がいるなんて.............。」
狼狽えるリーダーは、先ほどの勢いを微塵も感じない。
ジャコ。
俺は、服の内側に隠していた拳銃をリーダーに向ける。
「か、金で雇われただけなんだ!!なんでもする!!
なんでもするから、い、命だけは!!」
ふっ。
銃口を前に、必死なリーダーの顔は鼻で笑えた。
「バン。」
俺は、声帯で銃声を轟かせた。
「うわわわわーーーー!!!」
ドサッ。
呆気なく、リーダーは泡を吹いた。
これ、モデルガンなのに、ダサ。
俺は、失神した不良どもを一瞥し、お嬢様のもとへ駆け寄った。
「お嬢様!!大丈夫ですか?」
俺は、すぐに美優の縄をほどいた。
目に涙を貯めた美優は、すぐに俺に抱きついてくる。
小刻みに震える体。
冷たい手。
嗚咽混じりで、さっきの声の張りは影を潜めてしまっている。
怖かったな。
ごめんな。
美優。
そんな彼女をそっと抱き締めていると、俺も、ぽろっと本音が出た。
「お嬢様に大事がなくて良かったです。」
「はい。
やはり、鳩谷さんは、いつでも私の傍にいて下さるのですね。」
静に、そっと、呟いた彼女の言葉が、なぜか俺の脳裏に深く刺さった。
ん?
あれ?
俺は、彼女を抱き締めながら、目だけで自分の服装を確認する。
えっと、これ、水族館の時のまんまの服装だよな。
あれ?
って事は、鳩谷じゃないじゃん!!
え?
あれ?
俺、さっきからなんて言って.............。
『お嬢様。』
あ、あれー?
いや、スルー、スルー。
「伊世早さん。無事で良かったよ。」
そう言い直し、
俺は、床に落ちていたメガネを拾い、かけ直した。
「ふふふ。
誤魔化さなくていいですよ?
鳩谷さん。私には分かってしまいました。」
美優は、意地悪く微笑むのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます