第44話 新入生レクリエーション1日目

井勢谷桜

伊世早美優

仕田原理子

青山智明

佐々木樹

糸谷早瀬


こうして、新入生レクリエーションのメンバーとなった俺たちは、バスで森に来た。

あんなに、くねくねと山道を上るのは、二度とごめんだ。

はぁ。

俺は、体から空気を吐き出す。






「はー。

やっぱり、空気が新鮮っていうか、都会のごちゃごちゃした空気とはまた違うね。」



「はい。軽井沢の別荘の森とはまた違った、本物の自然です。」



「んー。きっもちーーー!!」




バスを降りると、春、若葉の匂い、優しい緑、鳥の鳴き声、風に揺れる草木、山桜なのか、森に所々ピンクが見えた。


彼女たちは、目を閉じたり、両手を広げたり、深呼吸をしたりと、思い思い、自然を全身で感じている。





「うわ。マジで、何にもねーな。」

自然豊かな森に感動する彼女たちのムードをぶち壊す、横槍が入る。

青山智明だ。




「そんなことありませんよ。

ほら、分かりはりますか?あれ、」




その後から、佐々木樹が降りてくる。

向こうの山道を指差す。


「ん?」

「あの足跡、サイズからして猪ちゃいますやろか。」


京都に住んでた頃、よく、畑を荒らしてもろたんです。

植えた野菜をご丁寧に全部掘りおこされるんで、難儀したんですよ。


佐々木樹は、懐かしそうに、足跡を見て微笑む。






「なんだそれ、熊とかなら良いけど、猪の足跡とかビミョー。」





「おいー。

せっかく、佐々木くんが頑張って、やっと絞り出した面白いものに、そんな態度はよくないと思うけど。」

仕田原がすかさず突っ込む。



「ええ。そうね。

面白くなくても、ここは大人の対応が求められると思うわ。」



「うーん。

2人とも、あんまり佐々木くんのフォローになってない気がするな.............。」




「ちょ、せっかく、楽しませようとおもたのに、その態度、僕、このまま帰ってもええですやろか?」


しょぼんと、肩を落として、バスの方に戻っていこうとする。


面白い。




何となく、俺の想像していた佐々木樹とは違った。

天然というか、黙っていれば、爽やか男子なのに、喋り出すと、突っ込みどころ満載なへっぽこ男子になるというギャップ。



「でもなー。なんで、今年は森なんだ?」


「うん。

去年は、都内の大型スポーツ施設を貸しきって、いろんなスポーツを体験できたらしいね。」


私は、そっちの方が好きだったかも.............。

と、井勢谷桜は言った。


「スポーツなんて、とんでもない。

僕、去年、入学してたら、即、退学申し込んでましたわー。」


「えー、体動かす方がいいだろ?」


「全然。僕、こない見えて、運動音痴なんです。」



「一昨年は、遊園地と豪華客船で遊び放題、食べ放題だったらしいです。

まだ、知らない美味しいスイーツを今年も期待していたのですが.............。」


伊世早美優も、残念そうに言う。





「まぁ、今年は、何も無いただの森だね。

でも、住めば都じゃないけど、やれば以外と楽しめるんじゃない?


ね。

メガネくん!」




「え、あ、ああ。」


今まで、黙って見ていた俺にいきなり話がふられる。



俺は、ここで、一つ気がかりなことがある。

それは、俺の裏の顔を知る妹が近くに居るということだ。


もしかしたら、本人も自覚していない癖から、正体がバレることだってある。

その辺は、十分注意してやろう。



ただ、兄として、兄の専売特許だけは、誰にも譲らないようにしよう。と、兄目線で語ってみた。




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