第34話 テスト結果

テストから3日後の木曜日。


朝、学校に来ると、クラスの前の掲示板に、望月先生が紙を貼ろうとしていた。



まだ、生徒がいないからか、いつもより、独り言多めで頑張っている。




「うぐぐぐ。

はぁ。

やっぱり、とどきません。」




腕を思いっきり伸ばして、紙をとめようと試みている。




ダメだ。

掲示板の半分まですら、とどいていない。





俺は、それを横目で見ながら、そっと通りすぎようとした。




「あ!糸谷くん!おはようございます!早いですね~!」


「.......。ぉはょぅござぃます。」



気配を消していたはずなのに、廊下の隅を歩いていた俺に、望月先生が声をかけた。




前髪の間から、見える先生は朝から、元気そうだ。





「糸谷くん!

おめでとうございます。頑張りましたね?」



尻尾をふりながら近付いてくる。

「何を?」


「ほら、ほら!

見てください!!

糸谷くん、この前の新入生歓迎テスト、全クラスで成績トップだったんですよ!!」




望月先生は、そういって、貼ろうとしていた紙をヒラヒラさせる。




ギョッとした。




新入生歓迎テスト(全クラス集計版)

一位、糸谷早瀬(c組)

二位、伊世早美優(c組)

三位、岩泉凛(A組)



新入生歓迎テスト(クラス別集計版)

c組


一位、糸谷早瀬

二位、伊世早美優

三位、中村優







と、書いてある。

どういうことだ?!何かの間違い.......。




「ふふふ。

驚きましたか?

糸谷くん、中学の時の成績表を確認しましたが、そんなに成績が良い方ではなかったんですよね~。


でも、この春休み、よく勉強した証拠だと思います。

頑張りましたね!!」








俺は、今の状況についていけず、目の前で、小さくはしゃぐ子犬を見つめることしか出来なかった。



呆然としている俺、そんな俺を見て、望月先生は何か閃いた顔をした。




「そうだ。

ちょうどよかったです。

先生、手がとどきませんでした~。





掲示板にテストの結果を貼るの手伝ってもらえませんか?」




これ、新任の先生のお仕事なんです。そういいながら、紙と磁石を渡してくる。




これは、チャンスだ。

この紙を破いてしまおう。





最近の教育の場は、個人情報の管理にうるさいから、基本、バックアップを取らず、印刷した内容は、その時点でデータを廃棄するのがマナーだ。

つまり、これを破けば、この情報を知るものは、一部の教員だけになるはずだ。

破いてしまえ。





いや、そんなことをして、変に目をつけられたらどうする。

しかも、このポスター制作データを削除したからと言って、原本を削除するわけ無い。成績判定に使っていくんだから。



破くといっても、先生が見ている前、両手で引き裂くのは、まずい。

自然に、あたかも偶然破れた、と思わせなければならない。




ただ、この掲示板はホワイトボードだ。

押しピンではなく、磁石である。

紙を、自然に破いてくれる鋭利なものは、存在しない。



どう、破いても、不自然になるではないか。



サイバー攻撃で、学園中のシステムを破壊するか?

いや、修理費に手を焼くのはこっちだ。



ここは、いっそ、おとなしく、現実を受け入れるか?



入学当初、成績が良くても、このまま、急降下するやつなんて山ほどいるだろ?

『ああ、入学したときは、賢いと思ったけど、そうでもないな~。』って、思わすことも出来るはずだ。





いや、でも、確か、新入生歓迎テストの成績で、委員会やその他の行事の役割が決まっていくはずだ。

ただでさえ、目立ちたくないのに、ここでトップを取ってどうする。

馬鹿か?



そもそも、あんな簡単なテスト、満点が、うじゃうじゃいるんじゃないのか?

俺は、65点を取ったはずだが.......。




「あの、先生.......................................。」



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