高校生活始まるなー。平均に埋もれていくのが手っ取り早い。

第32話 新入生歓迎テスト


月曜日。


「おはようございます!!!

 みなさん!

 土日はゆっくりエネルギーを蓄えましたか?」


 てけてけてけ、と、担任の望月先生が元気に入ってきた。




 その小さな体をで、精一杯背伸びをして、教卓から、顔を出す。


「うぐぐぐ。みなさんとの間に、強大な壁が立ちはだかりますぅ~~。ううう。」

 ギリギリ、顔が出た。

 まるで、教卓に生首が乗っているみたいだな。





 俺は、そう思い、隣の窓から外を眺めた。

 耳だけは、先生に傾ける。




 眠いな。

 この土日は、色々あったし。

 春の清々しい陽気、ついつい睡魔に襲われる。




 危うく、寝かけた。


 そんなとき、望月先生が言った。

 自力で、教卓から頭を出すのは、無理と判断したのか、いつの間にか、パイプ椅子の上にいた。





「今から、新入生歓迎テストを行います。筆記用具以外は、鞄にしまってくださーい!」





「えーーーー!」

「聞いてないし。」

「うっそーん。」

 何人かは、ざわつく。







 いや、3月に高校から送られてきた、一年間の行事予定を見れば、今日、何があるかぐらい分かるだろ。





「はい。後ろに回してください~。」

 先生が問題用紙を配る。

 新入生歓迎テストは、国語、数学、英語。この基本の3教科の問題からなっている。


 中学の総まとめ的な試験だ。






 俺は、この高校で、糸谷早瀬として生活していくために、こういうテストの点は大切にしなければならない。うっかりすると、高得点を叩き出してしまうからな。

 高校ここでは、静かに、自分の正体を気にせず過ごすと決めたからな。


 よく、漫画や小説で、正体を隠すときは、自分が誰よりも劣っていると見せかけるため、すごく低い点数を取り、『俺は、勉強も運動も苦手なんだ。だから、全然大したこと無い。』なんて、会話をしている事をしばしば見かける。

 だが、それを現実で再現することは、自分の正体を怪しまれる事につながる。






 例えば、

 まあ、正体を隠したい場合、自分の実力をそのまま発揮する事は避けたい。だから、高得点で名を馳せるような真似は決してしない。


 だからと言って、最も、低い点数を取れば良いのかというわけでも無い。なぜなら、馬鹿や劣等生などは、かえって悪目立ちする可能性があるから。



 俺は、これら全てを考慮し、順位が決まるもの、成績判定の場となるときの行動指針をまとめた。




 ①満点、0点など、極端な点数は避け、過度に人の記憶に残らないようにする。

 ②回答用紙は綺麗なまま出さず、何度か答えを書き直して、必死に解いたかのような工作をする。

 ③毎回、過去問や、クラスの成績推移を調査し、平均点前後を目指す。

 ただし、あくまで、平均点前後であり、平均点ジャストは取ってはいけない。

 ④高校生は、どの問題でつまずきやすいのかを把握し、間違える問題はしっかり、吟味する。

 ⑤そのつど、臨機応変に対応する。





 こんな感じだ。

 つまり、




 馬鹿の集まりに、天才がいたら、その人はチヤホヤされると思うが、

 天才ばかりいる世界に、異世界では天才と呼ばれたキッズが送り込まれても、

 周りも皆、

 天才であるから、天才であることが普通で、逆に、馬鹿が珍しく、目立ってしまう。




 白い布に、醤油のシミが目立つのと一緒の現象だ。

 何がその環境に多くあるのかで、人々の持つ異か同かが決まるのである。





 つまり、平均の集団に埋もれることこそが、周囲に怪しまれず、かつ、自分もある程度自由になる最善の方法である。







 そして、今回の歓迎テストの成績は、各クラス上位3名が廊下に張り出されることになっている。間違っても、上位3位以上を取ってはならない。



 確か、

 毎年、新入生歓迎テストは、平均点が、

 一昨年は、61.3点。

 去年が、59.8点。


 過去5年を見ても、テストの平均点は、大体60点前後で推移していた。


 まあ、誤差5点ぐらいを見積もって、56点くらいが妥当だろう。




 俺は、問題用紙が手元に来るのを待ちながら、作戦を練る。





「それでは、始めてくださーい!!」

 望月先生の合図で、一斉に問題用紙をめくる。




「今年から、問題作る先生が、変わって、大変かも知れないけど、みんななら、やりきれると思います。頑張って下さい!!」




 望月先生は、テスト開始早々にそう言ったのだった。





 え?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る