第31話 夜のテラス③
「.......っつ。
私を抱き締めなさい!
王様の命令は絶対です!」
つっかえつつも、彼女は、そう言った。
「え!?」
俺の視界から、彼女の姿が揺れる。
次の瞬間、俺の視覚、嗅覚、.......五感は全て彼女に支配された。
白くてスベスベした細い腕を俺の腰に手を回し、顔をあげ、むー。
と口を尖らせ何か、催促顔。
顔はやはり赤いままだ。
俺は、反射的に俺の体に収まった彼女を抱き締める。
大きな胸と対照的な女性的腰周り。
俺の鼻を刺激する髪の毛の匂い。
ストレートに少しウエーブががった長い黒髪。
その髪が、彼女の背中に回した俺の腕をくすぐる。
「お、お嬢様?」
突然すぎて、すっとんきょうな声になる。
「今日の王様ゲーム、鳩谷さん、お仕事でいなくなってしまいましたから。
江口君が言っていました。
王の命令には、逆らえません。
あの時、私、17番が鳩谷さんで、嬉しかったんですよ。」
彼女はそう言って、俺の首に腕を巻き付けてくる。
「なのに、どっかいちゃうんだから。」
耳元で、少し、恥ずかしそうに、ふて腐れぎみにささやかれた。
彼女の顔は見えないが、皮膚を通して感じる彼女の顔の火照りは、いっそう強く感じた。
いつもの、公の前で、堂々としている伊世早美優ではなく、少し甘えベタな妹のようだ。
少し垂れるケモ耳が彼女に見える。
「暖かいです。
鳩谷さんの体。
寒いです。
もっと、ぎゅーってしてください。
明日、風邪を引いたら、鳩谷さんのせいにするんですから。」
まるで、『私の言うこと聞かないと、先生に言うからね。』と、
本当は、かまって欲しいけど、直接言えない幼子のようだ。
俺は、彼女の言われるがままに、抱き締める。
「『月曜日から、高校頑張れるように、充電です。』だから、もう少しだけ、このままでいて下さい。」
『鳩谷さん。私、.......。』
顔が、お互い反対を向いているせいなのか、彼女の言葉は、とぎれとぎれでよく聞き取れなかった。
そして、よく分からず始まった、4月最初の土曜日はこうして、幕を閉じたのであった。
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