第30話 夜のテラス②
「私は、王様です。
家来さん.......。
私の言うこと、一つ聞いて貰えますか?」
「なんなりと、お申し付けください。」
そう言った彼女は、俺に言った。
「私の体を暖めなさい!
これは、命令です。
でないと、さ、さむ、い、です.......。」
伊世早美優は、ゆっくりと、両手を広げ、目をそらしながら、そう言った。
だんだんと、勢いを無くしていく、口調は、いつもの優雅なお嬢様姿とは外れていて、親近感が湧くと言うか、幼くなった印象だった。
「へぁ?」
唐突な彼女の発言に、俺は、耳を疑う。
つい、素が出てしまった。
いけない。いけない。
そして、考えろ。考えろ。
今、この状況で、彼女を、いち早く、暖める方法を.......。
彼女は、随分と、テラスに居たようだ。
彼女の指先は、小刻みに震え、微かに荒い吐息が聞こえる。
寒さからか、鼻先はもちろん、頬、耳まで真っ赤だった。
そして、早く暖めろ。と言わんばかりに、ハの字に垂れた眉と潤んだ瞳で、懇願するかのように、少し、怯えながら、こちらを見てくる。
.....................。
ああ、分かった。
「畏まりました。只今、ボレロを取りに.......。」
彼女が、部屋に戻れば、話しは早いのだが、もう少し、ここに居るつもりのようだ。
だから、俺は、部屋に羽織物を取ってこようとした。
「ダメです。」
俺的に、ドレスの羽織物には、ジャケット風のボレロだと思ったが、違ったようだ。
上より、下を暖めたいのかもしれない。
ミニスカートに夜風は寒いだろう。
だったら、
「ボレロではなく、厚手のブランケットの方がよろしいですか?」
「違います。」
おかしい。
大体、彼女から言われたことは、一発で分かるのだが.......。
こんなに、意志疎通を図れないのは滅多に無い。
だんだんと、彼女の顔が曇っていく。
まずい。
今、機嫌を損ねたら、大変だ。
そう焦って、俺は、頭をフル稼働させる。
「むーーーーー。
.......。こんな恥ずかしいこと、言わせないで下さい。」
すると、彼女は、ほっぺを膨らませ、下から俺を覗き込む。
「.......?」
「.......っつ。
私を抱き締めなさい!
王様の命令は絶対です!」
こう、彼女は言いはなったのだった。
月明かりに照らされる、テラスの上で.......。
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