19:浅層の探索
浮浪者達に別れを告げたカケルとピケルは坑道のある採掘者協会に戻り、建物を素通りして坑道に入って最深層を目指して進んでいた。
昨日とは違い、枝分かれする細道は無視して一番太い道をまっすぐに潜っていく。
たまに別の採掘者とすれ違うことはあるが、それも少しずつ減ってきて、奥に進むほど少しずつ薄暗くなっていく通路に心細さと不安を感じつつ歩き続けて数分経つと、不意にピケルが立ち止まった。
「気をつけろ、カケル。何かがこっちに近づいてくる……」
「うん……」
ピケルが指さす細道から、なにかがうごめく気配を感じたカケルは背負っていたツルハシを正面に構え直す。
じりじりと気配に近づいていく二人の目の前に現れたのは、全長が三十センチ以上ある巨大なネズミのような生きものだった。
昨日倒した小さなネズミと違って、二人の様子を見てもおびえて逃げることはせず、それどころか前歯を剥いて「キシーッ」と威嚇の声を上げていた。
「ピケル君……あれは?」
「おそらく、魔物だ。……俺達に喧嘩を売っているみたいだな」
「だったら僕達も逃げるわけにはいかないね! 昨日と同じ作戦で行こう!」
二人はその場で目を合わせて頷き合う。
カケルは物陰に移動して、ピケルはネズミの魔物に飛びかかった。
魔物は突然飛びかかってきたピケルに驚いてその場を飛び退くが、すぐに体勢を立て直す。
そしてそのまま地を蹴って、ピケルに向かって飛びかかってきた。
「クソッ、こいつめ……」
鋭い前歯を持つネズミと、ツルハシすら持たないピケルでは攻守がすぐに逆転し、今度はピケルが逃げる番になる。
カケルの隠れている場所に向かって後ずさりをしながら、飛びかかってくるネズミを振り払う。
はたき落とされたネズミは大したダメージを受けた様子もなく、再びピケルに向かって飛びかかり……
「うわっ……」
ピケルは、足元の出っ張った石に気づかずに、体勢を崩してしまう。
ネズミの魔物はその隙を逃そうとせず、助走をつけて全力で飛び上がり……
「ピケル君! そのまま、倒れて!」
いつの間にかピケルの真後ろに移動していたカケルのかけ声を聞いたピケルは、背中から転がるように地面に倒れ、その真上をカケルのツルハシが通り抜けていく。
空中に飛び上がっているせいで身動きを取ることもできないネズミは、カケルのツルハシ二直撃して弾かれて、壁に叩きつけられてから地面に落ちた。
「ピケル君!」
「俺のことは良い! それよりカケル、あいつにとどめを刺せ!」
「わ、わかった!」
地面に落ちてぐったりとうずくまっているネズミの魔物に、白く輝くカケルのツルハシが勢いよく振り下ろされる。
床ごと削り取るような一撃を受けたネズミの身体は灰のように消滅し、一瞬の静寂の後、カランと音を立てて体内から出た魔石が地面に転がった。
周囲を警戒して他の魔物がいないことを確認して、カケルはピケルの倒れている方に振り返った。
「ピケル君、大丈夫!?」
「俺は平気だ。ナイスアシスト、カケル!」
倒れていたピケルが手を床につけて起き上がるのを見て、カケルは安心したように落ちていた魔石を回収した。
「この魔石、昨日のよりも大きい……魔物も、昨日よりも凶暴だったし……」
「そうみたいだな。まあ、まだここは浅層だけど、昨日よりは深い場所まで来ているからな……でも、油断しなければまだ、なんとかなるだろ!」
「そうかな……そうかも」
「それに、俺達が目指しているのは『最深層』だろ。こんなところで足踏みするわけにはいかないし……それに、大丈夫。さっきは俺が油断しただけだ。次はもう、油断しないから。カケルも、気を抜くなよ?」
「も、もちろんだよ。それじゃあそろそろ……」
「そうだな。先に進むか!」
カケルは魔石を袋にしまい、ピケルは背中に着いた土を手で払いながら、再び坑道の奥を目指して進んでいったのだった。
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