12:美女の会談
ここは、表通りにほど近いとある酒場。
二階建ての店の窓側の席に、トゥインクル・マイナーズという、この街でも屈指と言われるギルドに所属する四人の女性が腰掛けていた。
「カケルは、店の中に入ったみたいですわ!」
「そうね。一緒にいるあの子に装備を買ってあげるのかしら……ということは、しばらくは出てこないはずです」
テーブルの窓側に座っていた赤髪の女性と青髪の女性の二人から、カケルが店の中に入ったという情報を聞くと、心配そうにしていた黄髪の女性と緑髪の女性も一息ついて、張り詰めていた表情を緩めていた。
そう口にはしながらも彼女たちは、気配探知や遠隔視などのあらゆる方法を使ってカケルの気配や行動を観察しているのだが、カケルたちが入った店は四人にとっても信用できると思っているようで、ここに来てようやく気持ちに余裕を持つことができるようになったようだ。
「それでは、第一回。カケちゃん見守り会議を開始しますわ!」
「「「いえーい!」」」
トピが会議の開始を宣言すると、他三人は大きな声でノリよく返事をする。
当然この店には、四人以外にも夕食を食べに来た客がいたのだが、女子会で「かんぱーい!」と叫んでいるのと同じような感じだと認識し、しかも彼女たちが全員、声を掛けるのもためらうほどの美女だったこともあり、誰もが見て見ぬ振りをしていた。中途半端な美女であれば逆にナンパをされていた可能性もあるが、絶世の美女というのはこういうときに便利なのである。
「それで皆さん、見ましたか? 見ましたわよね? カケルの採掘者姿! もう、格好良すぎですわ! ああ早く、褒めてあげて撫でてあげて、甘やかしてやりたいですわ!」
「ルピ、落ち着いて。気持ちは分かるけど、気持ち悪いから……でも、本当に格好良くなったよね。いつかあの日の約束のように、私の王子様になってくれる日も目前ですね」
「サフィちゃんは、いつまで経ってもお姫様願望ですよね〜! 私は〜、カケちゃんと一緒に坑道に潜って、一緒に採掘して、一緒にお買い物をしたいです! ……エミちゃんはどうですか?」
「私は……今のカケルを見ているだけでもお腹いっぱい……これ以上は、刺激が強すぎる……」
四者四様、それぞれ気持ち悪い反応をしているが、カケルのことに関して話し合うときは、これが彼女たちのデフォルトである。しかしこれでも彼女たちは、トゥインクル・マイナーズという、この街でも屈指と言われるギルドに所属する四人なのだ。
カケルのこと以外に対しては、常識外れにハイスペックで、それぞれに数千人規模の固定ファンがいるほどの有名採掘者なのだ!
「それにしても、私は思うのですわ! あのもう一人の男の子! あの子も、なかなか、その、かっこいいな……って。皆さんはどう思いますの?」
「ルピちゃんは〜、かっこいい男の子だったら誰でも良いのですか〜? 私は、カケちゃん一筋です〜!」
トピがルピをからかうように言うと、サフィもそれに賛同するようにして、ルピに向かって体を乗り出して持論を語りだす。
「私も、トピと同じ意見です。彼もカケルの友達として丁重に扱いますが、カケルほど大切にできるかは分かりません……」
「トピとサフィは見る目がない。あの子は、カケル以上の才能を持ってる。弟はカケルだけだけど、あれはカケルのパートナーとして、ふさわしい原石。カケルはやっぱり、人を見る目がある。すごい!」
「ほら! 聞きましたか? エミの言う通り、サフィとトピには見る目がないんですよ! もちろん、私にとってもやっぱり一番はカケルですわ! でも、あの子もあの子で、光る物がありますわ!」
「まあ、エミがそう言うのなら……」
「それでも私はカケちゃん一筋です〜! でも、あの子もカケちゃんのついでだったらかわいがってやっても良いのです〜!」
こんな話ばかりしているが、これでも彼女たちはトゥインクル・マイナーズという、この街でも屈指と言われるギルドに所属する四人なのだ。
一説によると、彼女たちが採掘した鉱石だけで、この街で消費する鉱石の半分近くを補えるほどの実力を持っているという、超一流の採掘者なのだ!
「ああ、あと、そういえばカケルが裏の商人と関わりを持っていましたね。それについて、みんなはどう考えてる? 話を聞いてた感じだと、悪い人ではなさそうでしたが……」
いつまでもカケルとピケルについてのトークが終わりそうにないかと思われた矢先、サフィがふと気になったことを質問した。
裏の商人とは、カケルが鉱石を売ったモスという人物だ。ちなみに彼は、カケル達が立ち去った直後、空から降ってくるようにして現れたサフィに尋問されている。結果的に、カケルのことを騙していたわけではないと言うことを信じてもらえたおかげで、命拾いしたどころか、むしろ迷惑料として大金を手にした彼だったが、もしも少しでも悪意があったとしたら……彼はそれ以来、人を騙すときは、より慎重に相手を選ぶようになったのだとか。
「それについては、私はあまり心配していないのですわ。カケルにはそういう『裏の事情』も知ってほしいと思っていますし。それよりも、許せないのはあの、表の商人ですわ! カケルから成果を奪うだけでなく、泥棒呼ばわりしやがって……ですわ!」
「トピ、それについてはあの商人も反省していたみたいだし、エミによって十分な制裁を受けているから、もう許してやっても良いんじゃない?」
「やり過ぎたとは思ってる。でも後悔はしていない(キリッ)」
カケルがピケルを追って姿を消し、ディンによって誤解が解かれた直後、人混みをかき分けて現れた、目尻に涙をためて半泣きになっているエミの右ストレートが、商人の太った身体に突き刺さっていた。直後に、別方向から監視していたルピとサフィが止めに入ったので商人は一命を取り留めたのだが、恐らく彼は、「許さないんだから、このデブ!」と言いながら羽交い締めにされてどこかに連れ去られていく緑髪の女性のことを一生忘れることができないだろう。
こんな彼女たちだが、何度でも言おう。これでも彼女たちはトゥインクル・マイナーズという、この街でも屈指と言われるギルドに所属する四人なのだ。
多くの採掘者達にとっては目標であると同時に憧れのような存在で、彼女たちのようになりたいと思って採掘者を目指す若者も大勢いるぐらい、超、超一流の、採掘者なのだ!
「ところで、気になってたことが一つあるのですわ! カケルが採掘したときに、やけに壁が簡単に掘り進められていたのですが、これは誰かが何か仕込んでましたの?」
「え、ルピじゃなかったの? てっきり、私はあなたが何か仕掛けたのだと思っていたのですが……」
「そういえば〜、カケちゃんがツルハシを受け取って試し掘りしたときも、壁がボロボロ崩れてたよね〜! やっぱりカケちゃんはすごい!」
「確かに私たちは、カケルにツルハシの振り方を教えたし、練習にも付き合った。でもあれは異常。あんなの、私たちでも難しい……もしかしたら、カケルがこの歳でも白髪なことに、何か関係があるのかも……」
これでも彼女たちは、トゥインクル・マイナーズという、この街でも屈指と言われるギルドに所属する四人なのだが、それでもカケルがもつ力の正体を見抜くことはできていないようだった。
彼女たちは、カケルの謎を解明するというタスクを、心のやることリストに追加して、引き続きカケルのことを監視……見守ることを、心に誓ったのだった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます