第13話
それは災害警報のアラームだった。携帯の使用が禁じられている僕らは鳴り響くアラームを誰も止めず、伏見がちに飯島を伺う。
飯島が携帯を取り出し、「大雨警報だ」と言った。なんとなく教室に安堵の空気が流れる。警報の中では比較的マシな部類だった。それから何度か警報が鳴って、その度に僕らは肩をビクつかせた。
ついに警報は残ったまま、僕は早退して例の喫茶店でコロンビアコーヒーを飲んだ。先の警報でその日の空気というか意気込みのようなものが崩れてしまったのだ。僕はまた、意味もなく画材屋を眺める。
今日が金曜じゃないというだけで喫茶店も画材屋も随分違うようだった。店内は学生風の若者が多く、どこか雰囲気も軽い。色も甘酸っぱいオレンジ色だ。一方の画材屋はより暗い様相で、人も寄り付かず、余生をしぶしぶ過ごすような紺色が張り付いている。
それは壁いっぱいの硝子窓を境に、二つの世界が両立しているようだった。全くの明るみと全くの暗がりが、こんなにも隣接している。けれどもそれは特段不思議なわけじゃない。何となく腑に落ちるほどの違和感だ。
人も、そういうものだと思う。感情も思考も、全てがシャボン状のオブラートに包まれて、相反するものがいくつもこの身体に溢れている。「怒り」のシャボン玉があって、その隣に「平和主義」のシャボン玉があって、僕らはそれらから刹那的に選択して生きている。それがどうということではないのだけれど。
少し経って、雨は疎らになった。雲の重さは変わらないけれど、心なしか気が済んだような表情をしている。席を立って、カウンターでコーヒー一杯分の金額を払った。店員は爽やかを絵に描いたような男の人だった。
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