第96話 信玄死後の政変
信玄が義信に討たれている頃、武田信繁は急ぎ今川館に向かっていた。
ヒロユキが離反しないようにするために説得に行くつもりであった。
そして、運悪く、信玄が死んだ翌日に到着してしまう。
「叔父上、よくお越しくださった。」
義信は信繁を迎え入れる。
傍には虎昌も控えていた。
「義信、よくもまあ、そんな涼しい顔をしておるな。
自分が何をしたかわかっているのか?」
信繁は叱るように義信に言うが、当の義信は涼しい顔をして聞き流している。
「まあまあ、落ち着いてください。
それより、遠い所から来られたのです。
まずは茶でもどうですか?」
「そんな事をしている場合ではない、兄上は何処だ、今後について話し合わねばならん。」
「ヒロユキを討つという話でしょうか?」
「違うわ!ヒロユキが離反せぬようにせねばならんのだ!」
「そうですか、叔父上はヒロユキの味方にございますか?」
「当たり前だ、ヒロユキは私の家臣なのだからな。」
「残念です・・・」
その言葉で虎昌が信繁を刺す。
「なっ!虎昌・・・血迷ったか!」
「申し訳ござらん、我等にはもうこうするしか道が無いのでございます。」
虎昌の言葉に義信の謀反を確信する。
「ぐっ、まさか兄上も・・・」
「・・・昨晩。」
虎昌の目には涙が浮かんでいる。
「叔父上、貴方には味方になって欲しかったですが・・・今楽にしてあげましょう。」
義信は刀を信繁の首に当てる。
「義信、血迷ったな・・・お前に武田は纏めれん。」
「言うな!」
義信は刀を振り、信繁の首を斬る。
「家臣達に使者を出せ!
父上が急死してしまった、今後について話し合いを行うから躑躅が崎館に集まるように伝えろ。」
「わかりました・・・」
「まずは甲斐に向かい、譜代の家臣を纏めるぞ!」
「虎昌急げ!」
義信は信玄の直属の兵を連れて躑躅が崎館に入る。
其処には義信の書状によって集められたもの達がいた。
一族から
武田信廉、武田勝頼、一条信龍、武田信豊
親族から
穴山信君、木曽義昌
重臣から
筆頭家老、甘利信忠、板垣信憲
老将、多田満頼、原虎胤も老いた身体を押して息子達と来ている。
他にも小山田信茂、三枝昌貞、飯富昌景、跡部勝資、長坂光堅が来ていた。
集められた、家臣の中に地方の家臣はいなかった。
代表して武田信廉が義信に挨拶をする。
「義信様、此度はお悔やみ申し上げます。
しかし、信玄様が亡くなられるとは・・・」
「うむ、実は父は信繁叔父上に斬られてしまったのだ、私が着いた時にはもう父は・・・」
「嘘です!父がそのような事をする筈ありません!何かの間違いです!」
信豊が自分の父の無実を訴えるが・・・
「信豊!よくも私の前に顔を出せたな!この者の首をはねよ!」
「なっ!」
兵が入って来て信豊を連れて行く。
「お待ちを、信繁様が信玄様を手にかけるとは思えません!」
飯富昌景は信豊を擁護するが、
「昌景!義信様に逆らうな!」
虎昌の一声で昌景は止められる。
「兄上、信豊は関係無いと思います、どうか命を助ける事は出来ませぬか?」
勝頼も信豊の命を助けようとするが・・・
ザクッ!
義信は勝頼を刺す。
「あ、あにうえ・・・?」
「勝頼、私には調べがついているのだ、お前が家督を狙って、信繁叔父上を誑かし、父上を暗殺したのだ。」
「そんなことは・・・」
「黙れ!お前など弟でもないわ!」
義信は止めをさす。
重臣達はあまりの光景に声が出ない。
義信の狂喜は異常であった。
この場で下手な発言をすると殺される、そんな雰囲気に包まれていた。
「義信様して今後どうするおつもりですかな?」
原虎胤が義信に質問する。
虎胤自身、老齢であり、斬られても構わないという気持ちで聞いていた。
「うむ、私に従ってもらう。皆には誓詞を出して貰おう。
そして、憎きヒロユキを討つ!」
「ヒロユキをですか?かの者に何か落ち度がございましたか?」
「あやつは私に歯向かった、これが討伐理由である。」
「・・・そうですか、ならば仕方ありませぬな。」
虎胤はこれ以上は問わなかった、歯向かっただけで功多き者を始末するのだ。
自分が何を言っても無駄であろう。
諦めて、領地に帰ってから身の処し方を考えよう。
多くの者が同じ考えを持ち、その場は静かにおさまる。
武田勝頼と武田信豊を犠牲にして・・・
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