登校2

「揃っているな」


やべえよやべえよ。どうして皆さん運動着じゃないんですか? 僕だけジャージなんですけど? 巫女さんとか神主さんが居ますよ。コスプレですか? あの、未来の戦闘服みたいな方は何するつもりなんです? 超能力しかないっすよね? これで陰陽師だったら僕ぶっ飛んじゃいますよ? あ、お姉さまは制服のままだ。動かずに何でもできると言う自負と凄みを感じる。流石お姉さま。


「それでは早速授業を始める」


で、誰を呪えばいいんです? 信号無視した人にお仕置きしたらいいですか? 水虫の呪いとかどうっすかね?


「基本的に1年生の君達が実戦に参加する可能性は少ない。あったとしても上級生からだ。しかし妖異や怪異が蔓延る現代、どうしても手が足りない時は要請する可能性がある。一応入学前にその許可を得ているが、全員間違いないだろうか?」


ちょっと待ってください初耳です。僕たちマジで実戦投入されちゃうんですか? まだロールアウト、じゃねえや戦闘訓練なんかしても無いんですけど。シミュレーション時間もフライト時間もゼロなんですけど。


でもそんなこと言える雰囲気じゃねえな。皆頷いてらっしゃるんですもの。さっきまで喧嘩してたのにどうしてそんなに息ぴったり何ですか? あれですか? 命懸かってる現場じゃそんな事は一時棚上げってやつですか? 皆さんプロなんすねえ。でもおかげで言い出せなかったじゃないですか。


「万が一その様なことがあった場合でも、君達が出動するのは少しの危険、少鬼までだ。君達が試験で倒した相手相当になる。これ以上は原則無いと思ってくれ。もしあるとすれば、国家を揺るがすような非常事態だけだ。これまた万が一だが、君達も知っているように妖異の活動は何があるか分からない。現場に出る者として、一応そう言う事があると知っておいてくれ」


だから少鬼を簡単に相手させるんじゃねえ! 最初期にアメリカが、陸戦だとどう考えても被害が出まくるからって、空軍の飽和爆撃で仕留めようとしたの知ってんだぞ! しかも瀕死だけど生きてて、現場がえらい事になったのもな!


あと学園長てめえ、国家を揺るがす非常事態って言った時に、チラッと俺のこと見ただろ! わりいけどそれ怪物第一形態までなんだわ! そっから上は世界の危険かそれ以上だよバーカバーカ!

ついでに教えてあげましょう。私の変身回数は全部で4つです。そして親父すら知らない真の……。


「それでは早速授業を行う。諸君達が入学試験で倒した少鬼は、上中下でいうと下、下位のものに当たる。この下位と言う評価が実に面倒で、実は小鬼の延長上で力押しできるのだ。そのため今回は上中の本当意味での少鬼を体験してもらいたい」


はえー。あいつ等って少鬼じゃなかったんですねえ。そりゃああれだけボコられた恨みを溜めてるはずだわ。


「それでは……今日は出席番号の逆で行こう。四葉貴明!」


は?


「四葉貴明、最初を頼んだぞ」


はあああああああああ!? 頼んだじゃねえよ! 今日はって初日じゃねえかあああああ!


なんだおめえ、ありありと分かるぞ! 嫌な事は最初に済ましとこうって魂胆だな!? ふざけんじゃねえぞ一番注目されるじゃねえか!


ぜってえ嫌だかんな!


「頑張ってね。あ、な、た」


「はいお姉さま! 四葉貴明一番槍を務めさせていただきます!」 


しゃあこらあ! 何でもかかって来いやあ!


「うむ。いいか? 頼んだぞ」


2回言わなくても分かってんだよ! ここらで一発どでかいのかましゃあいいんだろ!? なんたって主席合格した奴が実績示さなきゃ面子に関わるもんな! 任せとけ!


「それでは開始する。頼んだ」


3回も言うなよ!


さーて御相手は……。


「シャアアアアアアア!」


真っ白蜘蛛君また君かあ。先日はお世話になったけどさあ、ちょっと空気読んでよ。皆さんもまたこいつか楽勝じゃんって空気になってんじゃん。分かる? そんな奴倒しても主席としてなんも目立たんのよ。


はあああ、まあええわ。そんで? 君の恨み値どのくらいなん?


恨まれ値70


おおええやん見直したで。学園長の言う通り、君がほんまもんの少鬼なんやな。でも惜しいなあ、恨みを爆発させてボンッするには一歩足りんなあ。精進が足りんよ精進が。


恨み値100


は? なんで?


え、また? 僕、君倒すんやなくて、恨みの解消お手伝いした方がいいん? 君どないしてそんな恨みを?


(……ミヲ。……ミヲ)


こりゃあ恨みが深いで。声まで聞こえるもん。


(ヤスミヲクレエエエエエエエエエエエ!)


アホかああああああああああ! 式神のくせして勤労体勢に恨みがあるんかああああ! あ、よく見たら式神符がボロボロや! 酷使されとんのかワレぇ!?


あ、ちょっ!? そのふっとい足でどない!?


「ぐああああああ!?」


いってええええ!? こ、この野郎よくもやりやがったな!? ど、同情した、お、俺様をコケにしやがって! もう許さあああああん! 今朝お姉さまに艶がいいと言われた俺様の第一形態を見せてやる! はあああああああ!


「そこまで!」


はああああ! は?


「うむ。少鬼とはこれほど恐ろしい存在なのだ。皆も気を引き締めてかかるように」


て、てめえ!? あれだけ頼んだって言っておいてそりゃないだろ!? なんだよそのよくやったって目は!? 俺のド派手な呪術ショー見たくなかったんか!? 皆さんもやっぱこいつ何でいるんだって目をしてるじゃん!?


ちょっと待ってくれ! 今からこいつをつま先から腐らせて


「次、四葉小夜子!」


お姉さま頑張れー! 自分今すぐどくんで!


「ふふ、あなたって恨みを溜めてる相手に優しいのね。妬いちゃいそう」


今その流し目にドキュンとしました!


「でもそれはそれ、式神だから倒しちゃっていいかしら?」


「勿論です!」


あんな汚れ腐った式神符なんて後で綺麗にしとくんで倒しちゃってください!


「ふふ、さあおいでなさい。少し遊んであげるわ」


「シイイイイイイイイイイ」


お姉さまが訓練エリアに上がると、蜘蛛君は威嚇の声を漏らすだけで微動だにしない。これには周りも困惑気にざわつき始め、気配を殺して訓練場に入って来た単独者と思わしき連中もお姉さまを凝視している。だが残念だったな! 俺に気が付かれない様するなら、我欲とか感情を一切合切捨てて来い! あと一分おきに視力が変わる呪いを掛けんぞ! 2から0.001の間でいいな!?


「つれないわね。これでいいかしら?」


「キシャ!?」


「……うむ」


蜘蛛君が全く動かない事につまらなさを感じたお姉さまは、蜘蛛君を裏にひっくり返して身動きが出来ないよう拘束した。憐れ蜘蛛君は、恥ずかしい所を丸見えにされてしまったのだ。


このお姉さまの鮮やかな蜘蛛君羞恥ショーに、学園長は重い頷きで、単独者の皆様はより強い視線、学友の皆さんは何だやっぱり楽勝じゃんと言った雰囲気で反応する。俺は心の中で万歳三唱だ。


お姉さまバンザーイバンザーイバンザーーーーイ!


いやあ、お姉さまの麗しさに俺の心まで浄化される様だ。ありがたやー。


「それでは次!」


負けろおおおおお! 俺が目立たない様負けろおおお!



「火炎舞きゃあっ!?」

「地獄ぐおっ!?」

「必殺超能力ハリケぐああ!?」


誓って言う。俺は何もしてない。蜘蛛君が強すぎるんだ。名家の皆さんが蜘蛛君のふっとい足でべしっと場外に飛ばされていく。攻撃は効いてるみたいなんだが、それを無視してカサカサと近づき、べしっだ。


いやあ、心の中で蜘蛛君を応援した甲斐があった。あ、それで強化されてる可能性は……無いなよかった。恨み値は100のままだ。これが120とかだったら俺がやらかしていたが……。


いやあ、これお姉さま以外全滅もあり得るんじゃ。


「【氷獄の檻よ】」


いや違ったあ! あれは橘お姉さまの浄力だ! というか結構変わってますね橘お姉さま。浄力が冷気に代わるなんて。あとその巫女服激カワです。

憐れ蜘蛛君はカッチカチの冷凍蜘蛛に。悲しいなあ。


あ、次の人は普通にぺしっとされた。悲しいなあ。


「【灼熱竜の息吹よ】! まあこんなもんだね」


おおおお!? あれは佐伯お姉さまの魔法だ! 訓練場の端にいる俺ですら感じる炎の奔流で、哀れ蜘蛛君は消し炭になってしまった。悲しいなあ。

あとその魔女っ娘服激カワです。


あ、でも次の人は普通にぺしっとされた。悲しいなあ。



「皆、少鬼と呼ばれる存在がどれ程恐ろしいか身に染みて分かっただろう。次の時間は監督していた教員達との反省会になる。教室に割り当てを掲示しているので、確認後に指定の場所に向かう様に。では解散!」


結局蜘蛛君を倒せたのは、小夜子お姉さまと橘お姉さま、佐伯お姉さまの3人だけだった。


かーっ、皆に俺の実力見せてあげたかったなあ!


はいはい、綺麗な符に変えてやるからそれで我慢しなさい。えっーっと、授業で符を作るための色々セットをっと。こうかな? あ。い、いや大丈夫だ。こう書いて。こうだ! んん……ん?。よし、後は俺の呪術を流せば完成ッと! さあそのオンボロ符から剥がすからな! ちょっと痛いかもしれんけど暴れないでね! 暴れんなって。よし!


それでは出でよ! ………何で黒くなってるの? というか力強まってない? やっべ、学園長にはちゃんと元に戻しますって言ったのに……。どのくらいかな……非常に危険、非鬼くらい行っちゃってるかな? やっべ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る