55話 Vtuberやろうぜ!


 ハンバーガーを食して自室に戻る。結局、戻って来るまで1時間近く経ってしまった。


「戻ったわよ」


 ヘッドホンを付けて帰還の報告をすると、栞が珍しく大きな声で叫んだ。


「やるわよ!」


「なっ、なにを!?」


「さっき言ったじゃない! アマテラスオンライン2よ!」


「オンラインゲームはやるつもりないわよ」


「えーーー、火恋のケチー!」


 否定はしたが、本音を言えば死ぬほど遊びたい。


 火恋はオンラインゲームが出来ない――というよりはやりたくない事情があった。


 数年前、大学に通っていた火恋はアマテラスオンラインにどっぷりと浸かっていた。講義では昼寝をするようになるまで熱中していた。


 そのかいあって、上位層のプレイヤーにまで上り詰めていた。所属していたギルドでは、敵の攻撃を避けつつ攻撃を当て続ける独自のプレイスタイルから「連撃の姫」という二つ名まで付いていた。


 そこまでは良かったのだが、連日の夜更かしにより体調を崩して大学を休みがちになってしまったのだ。さすがにこれ以上はいけないと思い、アマテラスオンラインを引退。


 二度と同じ惨劇を繰り返すものかと、心に固く誓ったのだった。


「オンラインゲームというのは時間を蝕む邪悪な存在よ」


「な~に変なこと言ってんのよ」


「栞はまだオンラインゲームの恐ろしさを知らないのよ」


「アメリカであんたが勝手に闇落ちしただけでしょ!」


「闇落ちって言わないでよ!」


 火恋にとっても闇の時代という意味ならば、闇落ちという表現は正しいのかもしれない。


「とにかく、私はやらないからね!」


「そんなに言うなら分かったわよ。気が向いたら一緒にやりましょ」 


「ええ。気が向いたらね」


 果たして、気が向く時は来るのだろうか……。


「ところで火恋、Vtuberって知ってる?」


「ところで栞、あなたの考えが読めるんだけど?」


「…………」


「…………」


「話が早いわね。――Vtuberになってみない!?」


「そう言うと思ったわよ」


「ねぇ、やらない!?」


「……Vtuberっていま流行ってるやつでしょ?」


 Vtuberとは自らをキャラクターとして演じ、動画投稿をしたりライブ配信をする人たちの総称だ。基本的に顔出しなどを行わない為、住所の特定や本名バレが殆んど起こらない。流行っている理由には、こういった事情も関係しているのだろう。


「どうして私がやらなきゃいけないのよ」


「配信するの上手そうじゃない」


「なにその偏見」


「まっ、やってみましょうよ」


「……考えておくわ」




     *




「皆さん、こんばんは~」


 マイクに向かって挨拶をすると、コメント欄から沢山の挨拶が返ってきた。


「今日は最近噂のホラーゲーム。――魔法使いの家を実況プレイしていきまーす!」 


 魔法使いの家は最近、動画サイトで流行っているホラーゲームだ。ゲームのプレイヤーを驚かせる多種多様なギミック。恐怖と感動を与える奥の深いストーリー。フリーゲームという誰もが手軽に遊べる利便性から、視聴者だけでなく、配信者ゲーム実況者からも人気が高いゲームだ。


 栞からVtuberになってみないかと言われてから数日。自らイラストを描き、顔とイラストを同期させるモーションキャプチャのシステムを開発し、遂に、動画投稿サイトでの活動を始めていた。


 思っていたよりも初動が上手くいき、自身のチャンネル登録者数は早くも5万人を突破。企業所属のVtuberが業界内を蹂躙している中、個人のVtuberとしては成功――いや、大成功を収めていた。





<あとがき>


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