10話 みんなで揃って


「貰ったぜ!ロン!」


 舞桜が手元の牌を流れるように倒した。


「嘘だろ!―—って七対子か! 分からるかぁ!」


 学が背中から床に倒れ込む。


「直撃を喰らって学様が飛びました。よって順位は、1位お姉様。2位真実様。3位私。4位が学様という結果になりました」


 珠李が淡々と順位を発表する中、舞桜は立ち上がって踊っている。


 とんでもなく混沌とした空間に来てしまったようだ。これがこの家の日常なのだろうか。


「ところで、どうして学生しかいない家に全自動卓があるわけ?これって何十万もする高級品じゃないの?」


「アタシが作ったから実質無料だぞ?」


「……聞いた私が馬鹿だったわ」


 舞桜がそう言ったら本当に自ら作ったのだろう。大学の中で自作のラジコンカーを走らせている場面に遭遇したことがあった。車からリモコンまで全て自作だと言っていた。それなら全自動卓麻雀卓を自作することも可能だろう。……たぶん。


 一般人はそれをやろうとする気力を持ち合わせていない。舞桜だから出来ることだ。


「さて、アタシが1位になったからガク様は『1回だけアタシの言う事を絶対に聞く権利』を持ったからな!」


「一番危険なヤツに持っていかれた……」


「それで何を聞かせるの?」


「そうだなぁ…………いまは取っておく。大事な時に使わせてもらうぜ!」


「実現可能な範囲で頼むぞ?」


 学が引きつった表情をしている。最下位じゃなくて本当に良かった。


「分かってるさ。安心してくれよガク様!」


「安心できないんだよ……」


「そんで、次は何のゲームする?」


「俺は勉強に戻らせてくれ。明日数学の小テストがあるんだ」


「それなら仕方ないな。珠李はどうする?」


「私は夕食の準備がございます」


「もうそんな時間か。どうだマミコ、一緒にウチの夕食?」


「そんな、迷惑だから帰るよ」


「迷惑だなんてとんでもございません。お姉さまがお世話になっていますので、是非ともご夕飯を召し上がってください」


「そうですよ。是非食べていってください。珠李の手料理は最高ですよ」


 そこまで言われてしまったら、断る方が無礼というものか。


「……では、お言葉に甘えさせてもらいます」




  *




「す、すっごく、おいしい! いつもこんな料理を食べてるわけ!?」


 食卓に並ぶ豪華なイタリア料理に舌鼓を打つ。流石はメイドと言うだけある。こんな料理が作れるのか!


「いつもはここまで豪華ではありませんよ。今日はゲストがいらしたので、つい、腕を振るってしまいました」


 つい腕が振るう程度でここまで作れるものか。これは後で料理の教えを乞おうか。


「私にも、珠李ちゃんみたいなお母さんがいてくれたらなぁ」


「マミコの母さんって医者だったか」


「父もよ。両親共に医者なの。そのせいあって、私の食事は冷食が多いわ。それに家族揃っての食事は滅多にないの。だから、今日は家族みんなで食事しているみたいで楽しい」


「それは良かったです。では、私のことは母親だと思っていただいてもいいんですよ」


「ふふっ、妹さんからはそこまでの母性を感じませんよ」


「母性……。私に欠落しているものなのでしょうか。ご主人様、私に母性は感じられませんか?」


「おいおい妹よ、オマエじゃ無理だ。アタシみたいな大人のレディから母性というものが溢れ出るんだぜ。な、ガク様?」


 2人のぶっ飛んだ会話に学が困り果てた顔をしている。やっぱり、彼女たちの主従関係は奇妙だ。家族のようでいて友達のような、愛おしい関係。舞桜は自慢の主人と妹を私に見せたかったのではないだろうか。


「……マミコ、どうした?」


「え?」


「涙出てるぞ」


 袖で目元を擦る。本当だ。じんわりと袖の色が濃くなった。


「笑い過ぎて、涙が出ただけだよ。驚かせてごめんね」


「なら……いいけどな。そだ、せっかくだし今日は泊ってけよ」


「そんな、食事まで頂いたのにそこまでは悪いよ。明日はバイトあるし」


「バイトないだろ! いいから泊ってけ!」


 そうだった。舞桜に嘘なんて通じない。そういう人なんだ。


「……わかった。ありがと、泊まることにするね」




     *




 その後、舞桜が一方的に朝までゲームや雑談をして寝かせてくれなかったのは言うまでもなかった。



―  とある友人の日常と融合 終 —


<あとがき>


 知ってる? 人間って千年も生きられないんだって! ザコじゃん!


 次回はSSよ!

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