第6話「魔力強制覚醒と魔導書を信奉するお嬢様生徒」
「先生、俺も教わりたい!」
「わたしも!」
「僕もお願いします!」
生徒たちから、次々と俺の指導を請う声が上がっていく。
サキの魔法は良いデモンストレーションになったようだ。
「くっ……」
しかし、生徒の中で二番目に潜在能力が高いミナミは声を上げていない。
苦々しい顔をしている。
どうやら、俺に教わることに抵抗があるようだ。
戦力的には絶対に欲しい生徒なのだが、本人に教わる気がないのでは仕方ない。
「よし、それじゃ、希望者全員、神との契約を解除して潜在能力を引き出してやるからな。でも、期待しすぎるなよ? 当然、潜在能力には個人差があるから」
こればかりは先天的なものが大きい。ま、鍛練次第で後天的にも伸ばせるが。
「待てぃ! 貴様、学園を私物化する気か!」
まだ校長が食い下がってくる。面倒なおっさんだ。
「そのまま言葉を返すぞ。生徒が望んでいるのに無理に止めるなんて、それこそ校長が学園と生徒を私物化してるじゃないか。それ以上なんか言うなら、さらに難易度と過激さを増した究極のセクシーダンスを踊ることになるぞ?」
俺が冷たく告げると、おっさんは表情を青ざめさせて身震いする。まぁ、俺もこんなおっさんのセクシーダンスなんて見たくないのだ。
生徒たちにとっても、これ以上校長のセクシーダンスを見るのはトラウマだろう。それこそ教育によくない。
「というわけで、改めて授業を始める。俺の指導が嫌というなら、とりあえず魔導書でも読んで自習してくれ。わからないところがあったら、それも教えるから」
本来、一番効率がいい教え方は個別指導だ。
授業なんてやっても、生徒によって理解度は違うのだから。
それに先生の話なんて聞いてるより自分で本を読んでやったほうが早い。
わからないところだけ聞けばいい。
「ふん……我流で魔法を覚えたということは逆に魔導書を読んでも先生はわからないのではないですか?」
ミナミが挑戦的な態度をとってくる。
こいつもなかなか素直じゃない。サキとは対照的だ。
「いや、そんなことはないぞ。別に俺は勉強ができないわけじゃないからな。ほれ、おまえたち、なんかわからないところはないか? 教えてやるぞ?」
俺の言葉を受けて眼鏡をかけた三つ編みの委員長っぽい女子生徒が手を挙げた。
「せ、先生、それでは、この箇所なんですけど……」
「おう、どれどれ」
俺は眼鏡の生徒のところへ行き魔導書を読む。
「あー、これな。もったいぶって偉そうな書き方してるけど簡単に言うとな……」
俺は魔導書を現代語に訳して簡単に解説してやる。
「あと、この部分の魔法式は本当は省略可能なんだよ。神と契約してると、いちいちこの魔導書の通り唱えないと発動しないからクソなんだけどな」
本当にゴミのような魔導書だ。
こんな古い魔法を使ってるうちは生徒が成長なんてできない。イライラしてきた。
「あー、やっぱり効率悪すぎてむかつくな。悪いがもう全員分の神との契約を強制除する。こんなものに時間を費やすぐらいなら実戦練習したほうがマシだ!」
やはり二方面を同時にやるのは効率が悪すぎる。それに世界が滅ぶかどうかという時点なのに、つまらんことに時間をとられるのはバカらしい。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! あなた一応、臨時とはいえ講師でしょう? 生徒の自主性をなんだと思ってるんですか!」
「悪いな。俺は短気なんだ。こんなカビの生えた古典をやってたら上達から遠ざかるだけだぞ。講師としては生徒が間違った方向に行くのを止めるのも役割だ」
「そんなっ! 先人の築き上げてきた魔法をバカにするなんてっ」
「俺は事実を言っているだけだ」
こんな子どもの頃から頭が固くなってちゃ、本人のためにもならん。ミナミは魔術師の家系ということで必要以上に魔法を崇めてしまっているのだろう。
「おまえは才能がある。ゆくゆくはサキと一緒にこの世界を救うぐらいになってもらわないと困る。だから、ここは力づくでも契約を解除させてもらうからな」
俺は、ミナミに向けて一歩踏み出した。
「くっ、なら、逃げきって見せますわ! あなたなんかに負けませんっ!」
ミナミは魔導書を開き、詠唱を始めるべく唇を開いた――
――ときには、俺は無詠唱で瞬間移動魔法を行使。
「すまんな。文句はあとでいくらでも聞く」
背後に回り込んだ俺は、ミナミの頭に手を置いた。
そして、サクッと神との契約を断ち切ろうとした――のだが。
「くっ……!? ずいぶんと強固な契約だな」
本人の意思が強いのかサキのときのようにはいかない。
だが、魔力をこめれば問題ない。
「や、やめて、離しなさいっ」
「許せ。これも世界を救うためだ」
俺は鎖のように厳重な契約を強制的に断ち切っていった。
「あ、あぁっ……! 契約がっ!」
ショックを受けていることはわかるが、ここで一気に荒療治させてもらう。
今度はサキの机の前に瞬間移動し――両手を握った。
「はへぇっ!? な、なにをするんですの!?」
「お前もサキみたいに覚醒させてやる。魔物はいつ現れるかわからないんだ。悠長にしてられないぞ」
そのままサキに俺の魔力を流しこみ始めた。
強制的に覚醒させるのだ。
「きゃあああああっ!? や、やめっ! わたしの中に、無理やり入ってこないでっ、こんな横暴許されませんわっ……!」
「だが断る」
俺は心を鬼にして魔力を循環させていく。
「ひっ――! やっ、だめっ、だめです、こんなことぉーーー!」
瞳を潤ませ、全身をガクガクと震わせながらも、心で抵抗してくる。
これでは、うまく循環しきらない。
「俺に心と身体を委(ゆだ)ねろ! 魔法使いはなんのために魔法を使う? プライドのためじゃなくて誰かを守るためだろ!? ここで俺を受け入れて強くなれば世界を救えるようになれる! 絶対にだ!」
俺は真摯に思いを伝える。
「お前の力が必要なんだ!」
そして、もうひと押しとばかりに魔力を勢いよく迸らせた。
「ひあっ! あぁっ……! そ、そんなことを言われましてもぉ……あぐっ! うぅうっ……! も、もう、耐えられませんわ……! これ以上はっ……! はあぁ! あっあぁああーーーーーーーーーー!」
激しく身体を仰け反らせるとともに――ついに、ミナミは魔力循環を受け入れた。 眠っていた魔力が覚醒し、心身の隅々にまで行き渡る。
「はぁっ、はあっ……はあぁっ……」
あまりにも激しい魔力交換によって、ミナミは荒い息を吐いていた。
肩を上下させて呼吸をし、足がもつれそて倒れそうになっている。
「おっと」
俺はこちらに倒れこんできたミナミを、咄嗟に両手を離して抱きとめた。
「……っく……ひ、卑怯ですわよっ……こ、こんな無理やり魔力を注ぎこんでっ……わたしのことを、もてあそぶだなんてっ……」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。お前の潜在能力を最大限まで引き出してやったんだからな。少し休んだら魔法を使ってみろ。すごい強力になってるぞ」
俺じゃなければ、おそらく強制解除は成功しなかった。
それぐらい、この世界の魔導神への信仰が強かったということだ。
「……おまえ、魔導士の家系って言ったよな? もしかすると、おまえの先祖が魔導書を創ったとかか?」
「なっ!? なぜ、それをっ……!」
「いや、お前の信仰っぷりがすごかったからな。そうか。そういうことだったのか」
そりゃ、自分の先祖が創った魔導書だったら、深く信仰するのもわかる。
だが、残念ながら古すぎる。
「無理やり契約を解除したことは謝る。すまん。だが、いかんせんこの魔導書は古すぎる。だから、いつかおまえが新約魔導書を創ればいい。お前とサキは、がんばって魔法を極め尽くせば神の領域へ至ることができると思うぞ」
「わ、わたしがっ……? そんなこと無理ですっ」
「えーっ! あたしもーっ!? 無理だよ、あたし頭悪いし!」
俺の言葉に、ふたりは驚くばかりだ。
だが、それだけふたりには才能はある。
なお、俺は面倒だから魔導書は作らなかった。
魔導書の原書は、いちいち執筆者が直筆で書かねばならないのだ。
なので、とんでもない時間がかかる。
そんなことしてるぐらいなら、魔法をぶっ放して世界を救っていたほうが有益だ。
「お前は頭よさそうだから大丈夫だろ。あのガチガチの古典魔法をちゃんと理解していたからこそ、契約も強固だったんだろうし」
そう言う意味では、アッサリ断ち切れたサキは真逆ということになる。
「先祖ができたんならお前もできるだろ。世界を救い終わったら、お前オリジナルの魔導書を作ってみろよ。……ま、日々魔法技術は発達してゆくから、あまりおススメしないがな」
魔導書作りは、ある種の趣味みたいなものだ。
そこに浪漫を感じるのも、わからないでもない。
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